本論文は、7章からなり、第1章は、X線放射の観測が銀河構造、特にダークマターの分布を反映し銀河の構造を解明するのに有益であることを述べた導入部である。銀河団の重力ポテンシャルに相当する運動エネルギーが〜1000km/s、銀河のそれが〜100km/sに相当し、これらは、それぞれ2〜3keV及び数百eVの放射X線エネルギーに相当し、観測されるX線のパワーは、銀河団が10の44乗から45乗erg/s、銀河からが10の40乗から42乗erg/sにも及んでおり、これら銀河団や楕円銀河から観測されたホットガス温度はこれらと合致することを述べている。しかし、渦巻き銀河ではホットガスの存在は明確ではない、という。第2章では、分類を含めた銀河のレビューである。渦巻き銀河の重力ポテンシャルを銀河回転速度と結びつけ、X線の明るさが銀河回転速度と関連付けられることを述べている。重力ポテンシャルは回転速度の2乗に比例するため、重力ポテンシャルはX線の明るさの0.44乗に比例することを述べている。また、渦巻き銀河からのX線の明るさは、ほぼ10の38乗から41乗erg/sであり、これらは、知られている個別のX線源の和で説明される。これらX線天体についてスペクトルと明るさを定量的にあげて列挙している。この他のX線源として、AGN、スターバースト、ホットガスについて、スペクトルのエネルギー依存性、明るさをそれぞれ述べている。また、ここで解析した個々の銀河について距離、明るさ、広がりなど特徴を含めて詳述している。 第3章は、ASCAの搭載望遠鏡について述べている。層状フィルム反射器を用いたX線望遠鏡の概要とその応答関数、エネルギーと位置の高分解能を有するSIS検出器の説明、ガスシンチレーター使用のGIS検出器の概要を述べている。また、校正と観測中のデータ処理についても触れている。第4章は、45個の対象銀河についての観測データとその整理を行っている。第5章が、観測の解析と結果を示す章である。解析の目的は渦巻き銀河からのX線を個別のX線源からの成分に分離することである。M83について、中心領域を含むX線放射は、X線望遠鏡の点源に対する応答関数より広がっており、エネルギースペクトルの傾きが1.5keVの前後で有意に異なっているため、通常のX線放射機構からは単一の成分だけではなく、低エネルギー部分のソフトな放射成分と高エネルギー部分のハードな放射の重ね合わせであると推定される。これまでのEinstein衛星の観測から、2つのX線放射領域が存在することが知られているので、これらが上の2つの成分に対応していると予想され、これを従来の手法、すなわち、1)X線画像を銀河中心を中心として輪切りにして中心からの距離に応じたスペクトルの変化を調べる、2)銀河中心からの距離の関数としてX線放射の輝度分布をエネルギーバンド毎に調べるという、これら2つの方法で解析を行ったが、上の予想は確認できなかった。これは、X線望遠鏡の応答関数の広がりのためであるが、この応答関数の広がりを統計精度を低下させないで差し引くことが可能となるように、X線源の広がりの2乗平均半径を導入し、その応答関数の効果を取り除く解析を行った。その結果、0.3分角から4-5分角までの広がりが検出できるようになり、M83について、2つのX線放射成分の存在を裏付ける結果が得られた。エネルギースペクトルと2乗平均半径のあてはめから、ソフトな成分は温度0.5keVのスペクトルで広がりが2分角以下であり、ハードな成分は温度5.5keVの熱制動放射のスペクトルで広がりが3分角である。この解析を全部で7つの近傍渦巻き銀河に適用した。統計的な精度、系統誤差についての検討がなされている。第6章は、結果のまとめであり、7つすべての銀河につき、広がったソフトな成分をもつX線放射を見いだした。これは、エネルギー的にも銀河中心領域の〜kpcに広がったホットガスからの放射である証拠であると考えられる。 第7章は、結論の章である。付属資料としては、45個の銀河の光画像に2種類の精緻なX線画像が重ね合わされた図、ルーチン化された画像処理法、空間解析の系統誤差、銀河中心のスペクトル解析図表がある。 以上のように、本論文では渦巻き銀河における空間的に広がったX線放射を抜き出す新しい手法を生み出し、多数の近傍銀河に適用して、そのいずれからもソフトなX線放射の成分を摘出することに成功した。本論文は、満田和久、堂谷忠靖、牧島一夫、三原建弘との共同研究であるが、論文提出者が主体となって、新しい解析方法を提案し、解析を行ったものであり、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |