本論文は7章からなるが、日本初の軌道赤外線望遠鏡IRTSの遠赤外線観測データを綿密に解析し、星間固体微粒子(以下ダスト)の赤外線放射を、10’の空間スケールで初めて明らかにし、ダストの性質を研究したものである。 第1章は、これまでのダストの赤外線放射の観測が示され、問題点を整理している。 第2章では、この論文で解析を行った、赤外線衛星IRTSの観測の概要が示されている。 第3章は、本論文の基礎をなす部分で、本論文で取り扱った、IRTSに搭載された観測装置FILMの概要がまず説明されている。FILMは遠赤外線領域(〜160m)の観測装置で、この波長帯での感度のよい検出器である不純物半導体のGe:Gaを、長波長まで感度を延ばすためにこの検出器に圧力をかけて使用している。この検出器は、ボロメーターなどに比べて感度がよいのが特徴であるが、一方、入射光子が少ない衛星軌道からの観測等で使用した場合には、宇宙線の影響を大きく受け、感度が大きく変わるという問題も知られている。従って、そのデータ整約においては、宇宙線の影響等について、慎重に取り扱う必要がある。本論文は、このような影響について、全データを詳しく検討し、その影響を最大限補正することで、データの質を高めることに成功している。大量の衛星データを綿密に吟味したことは、高く評価できる。 第4章は、FILMのデータとすでに公開されているIRASのデータを用いて、ダストの遠赤外線放射量を見積もる手順が示されている。遠赤外放射は、星からの光が源となる星間輻射場を吸収して、ダストが放射する熱輻射で、放射総量は星間輻射場の強度あるいは領域の活動度を直接与える重要な物理量である。このダストからの赤外線放射は100mより長波長側では、波長依存性のよくわかった放射率を持った、黒体放射で表わせることが、大きなビームによる観測で示されている。しかし、一方、100mより短波長側には、まだ性質のわかっていない超過成分が存在することが知られており、ダストの物理量(温度、柱密度等)を正確に見積もるには100m以長のデータが不可欠である。FILMはこのようなデータを10’程度のビームで得た初めての観測装置であり、本論文はこの特徴を生かして、ダストの性質を初めて10’の空間分解能で導いた。 第5章は、以上の解析を行った結果が示されている。特に中間赤外帯(12-60m)におけるダストからの超過放射成分を、遠赤外線放射量と比較することにより、超過成分の性質と星間の物理量との関係を初めて明らかにした。この解析により初めて12mの超過成分と25-60mの超過成分の性質の違いが初めて見い出された。25-60mと遠赤外線の性質については、本論文で初めて明らかにされたものである。 第6章は、解析結果を解釈することを試みている。12mの超過成分については、これまで提唱されていた、赤外蛍光放射、あるいは、温度揺らぎによる放射とする仮説と観測結果が一致することが示されている。一方25-60mの成分については、熱平衡ダストモデル、単一紫外線光子による一次的加熱ダストモデルなどの従来モデルでは説明できないことを示し、新しい解釈として、紫外線光子の多重吸収による励起が提案されている。この解釈を確認するには、さらに理論・観測面からの研究が必要と考えらるが、新しい過程の必要性を明らかにし、提案を行ったことは十分に評価できる。 第7章は以上の本論文の内容がまとめられている。 以上、衛星データの綿密な解析にとどまらず、ダストの赤外線放射について新しい知見を得る結果を導いており、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |