学位論文要旨



No 113907
著者(漢字) ベルトラン-エスカビ・ホセ
著者(英字) BELTRAN-ESCAVY・Jose
著者(カナ) ベルトラン-エスカビ・ホセ
標題(和) グラフィック・ユーザ・インターフェースを用いた多数台移動ロボット制御システムの開発
標題(洋) Development of a Control System for Multiple Mobile Robots Using a Graphic User Interface
報告番号 113907
報告番号 甲13907
学位授与日 1999.01.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4269号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 新井,民夫
 東京大学 教授 大園,成夫
 東京大学 教授 佐藤,知正
 東京大学 助教授 佐々木,健
 東京大学 助教授 桐山,孝司
内容要旨

 ここ十数年,ロボットは産業分野において重要な役割を果たし,人間が活動するには不適当な環境において困難な作業または繰り返し作業を代替してきた.

 ところで,近い将来高齢化社会の到来に伴う労働力の減少に対し,産業界における自動化の促進のみならず,深海・宇宙・原子力プラント等の危険環境における作業に対する需要も増大することが予想される.

 更にはマニピュレータに代表される産業用ロボットの枠を超え,看護・家庭内作業といったより人間生活に密着した作業も増加する.その場合,従来は人間が行っていた複雑な作業を実行できる知的な移動ロボットの使用が必要となる.

 しかし現状の技術においてそのような複雑な作業を達成可能な自律機能をロボットに付与することは殆ど不可能である.そこで人間がロボットシステムを監視し,制御することが必要となる.

 また,複数ロボットが協調することにより様々な作業の実現が期待できる.しかし,ロボットが複数存在する場合,一人の操作者が操作することは非常に困難であるという問題が出来する.

 そのため,本研究ではユーザとの親和性を考慮しインターフェースとしてGUI(Graphic User Interface)を採用し,また,複数ロボットを「群」として制御することを特徴とするロボット群操作システムを構築する.この概念は本研究の中核をなすものである.

 複数ロボットを群として扱うというのは複数ロボットを個別に制御するのではなく,ロボットを群に分け,その群に対して指令を与え,監視し,ある作業を実行させるという意味である.操作者にとって操作単位は個別ロボットではなくロボット群である.

 後述するシミュレーションと実験結果(Fig.1,Fig.2参照)に示される通り,これにより操作者の負荷が軽減される.本研究におけるシステムが対象とする作業は押し作業による物体搬送とし,開発したインタフェースについて評価を行う.

 システムを開発するにあたり,操作者がロボットに対して与える指令について系統的な設計を行う.まず,指令を数種類のレベルに分類し,そのレベルを実現するために必要な自律機能を定義する(Fig.3参照).これは操作という観点からみて,さたにシステムを発展させるための「指標」となるものである.実験結果によると指令のレベルが高いほど監視及び制御が容易となる(Fig.4,Fig.5参照).

 操作機能と並びもう一つ重要な機能は監視である.人間に提示するべき情報についても系統的に決定した.これはどのような種類の人間-ロボット・インターフェースシステムについても応用可能である.人間の処理能力を超えた過多な情報提示を回避することは非常に重要であり,設計者は提示すべき情報に優先度を与え,最重要なデータのみを人間に直接的に提示することとした.

 さらに搬送作業において物体の動作の予想アルゴリズムを実装した.そのようなアルゴリズムは既に研究されているが,従来手法では質量,物体の重心位置等の情報を必要とした.本研究における手法の利点として,運動中の物体のそのような物理特性についての情報を必要としないことが挙げられる(Fig.6参照).

 また,人間-ロボット・インターフェースにおいて仮想拘束(virtual constraint)を導入した.仮想拘束とは人間が定義した幾何的要素であるが,何ら物理的拘束はもたず,ロボットの行動決定に際して影響を与えるものである.すなわちロボットの行動に対して仮想的な斥力あるい引力を発生し,影響を与える.これにより操作者がロボットに対して発行する指令の数の減少が図られる(Fig.7〜Fig.10参照)

 最後に構築したシステムを実際に試用し,2種類の実験を行った.まず,システムの使用経験が異なる30人の被験者を用意し,単純な作業を実行させ,試問を行った.被験者の印象は概ね良好であった.さらにシステムに精通した少数の被験者により複雑な作業を行った.この実験により現在のシステムの長所及び短所が明確になった.

 個別要素を取り上げると新規性に欠ける面もあるが全体として革新的な人間-ロボット・インターフェースシステムが実現できた.個々の要素を一つのシステムとして構築したことに意義がある.

 システムの改良は現在も進行中である.このシステムは特定作業のみならず一般的な作業実行に対して大いなる可能性を秘めており,まもなく高度なレベルの指令も実装される.

審査要旨

 BELTRAN-ESCAVY Jose(ベルトラン-エスカビホセ)提出の本論文は"Development of a Control System for Multiple Mobile Robots Using a Graphic User Interface"(グラフィック・ユーザ・インターフェースを用いた多数台移動ロボットシステムの開発)と題し,全7章よりなる.

 第1章においては,多数台ロボットシステムの抱える問題点を検討し,研究目的を明らかにしている.ロボットの利用範囲は広がり,看護・家庭内作業といったより人間生活に密着した作業も対象となってきた.しかし,複雑な作業を達成可能な自律機能をロボットに付与することは殆ど不可能である.そこで人間がロボットシステムを監視し,制御するシステムの開発が求められている.一方,多様な作業の達成のために,多数のロボットの協調が有効である.しかし,多数のロボットを一人の操作者が操作することは非常に困難である.このような問題に対し,本研究ではユーザとの親和性を考慮しインターフェースとしてグラフィック・ユーザ・インターフェース(Graphic User Interface,GUI)を採用し,複数ロボットを「群」として制御するロボット操作システムを構築することを目的とする.この章では,関連する研究に関する調査も行っている.

 第2章では,操作システムの概念設計とシミュレーションによる概念設計の検討を行っている.特に,GUIを経由する操作方法と状態認識方法,命令の構成,実際に使用する機器と実験機器の仕様などからシステムの基本設計を行っている.次に,計算機画面上で,大型物を小型ロボットが押す作業をシミュレーションし,基本設計の正当性を検証した.一方で,入力機器としてジョイスティック,キーボード,マウスを使用しそれらの特性の違い,操作者との親和性を検討した.

 第3章では命令の設計を行っている.このような人間機械系では,命令の単位,ならびに全体の構成が重要である.本研究では,操作者がロボットに対して与える指令について系統的な設計を行っている.まず,命令を8段階のレベルに分類し,そのレベルを実現するために必要な自律機能を定義する.命令系にはグループでの行動制御を含み,多数のロボットと単体として操作した場合と,群として操作した場合の操作性や安定性の違いについて,実験を含めて議論している.実験結果によると指令のレベルが高いほど監視及び制御が容易となるが,自律性の多様化が求められる.

 第4章では監視系を扱っている.操作機能と並ぶ重要な機能である監視においても,人間に提示するべき情報についても系統的に決定している.多数のロボットを同時に制御すれば,操作者の処理能力を超えた過多な情報提示を回避することは非常に重要であり,設計者は提示すべき情報に優先度を与え,最重要なデータのみを人間に直接的に提示することとした.これによって,汎用性を確保している.さらに搬送作業において物体の動作の予想アルゴリズムを実装した.

 第5章においては,操作者を支援する方法論として,仮想拘束を導入した.仮想拘束とは操作者がGUIの画面上に定義した幾何的要素であるが,ロボットの行動決定に際して,仮想的な斥力あるい引力を発生し,影響を与える.これによりロボットに対して指定する安全確保や,作業順序の命令数の減少が図られる.実験を行い,4台の小型移動ロボットによる押し操作を組合わせた組立で,提案手法の有効性を検証した.

 第6章では,設計したシステムの評価を行っている.30人の様々な経験を持つユーザを経験者と未経験者とのグループ分けをおこない,システムの試用を依頼し,その評価をまとめた.実験は押し作業を中心に2種類を行った.群制御は個体制御に対して操作性で優位であること,命令の利用が容易であることなどから,全体としてこのシステムの操作性がユーザに受入れられることを確認した.加えて,円筒押しという複雑で予想しがたい作業についても経験者による実験を行い,開発したシステムの問題点を評価した.

 第7章は結論として,本研究で実現したことを述べている.本研究は多数台の移動ロボットを遠隔で操作する研究であり,数台のロボットに作業を達成させ,その状況を監視することが可能となった.そのための命令の構成方法,GUIの構築方法について,系統的な手法を提案,実施した.また,操作の道具立てとして,仮想拘束,状態監視などの手法を提案し,その有効性を検証した.

 以上を要約するに,本研究により,今後予想される多数台の小型ロボットを多様な状況において利用する場合のマンマシン・インターフェース技術が構築され,その構築手法に対して大きな貢献をしたと言える.このことにより,精密機械工学のみならず工学全体の発展に寄与するところが大である.

 よって本論文は博士(工学)学位請求論文として合格と認められる.

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