AE法の基本は検出波形解析と原波形解析に大別される。検出波形解析は文字どおりAEセンサーで検出された波形を解析し、色々なパラメータ(計数率、累積計数率、事象数、実効値電圧、振幅値、振幅分布周波数スペクトル、到達時間など)を抽出して破壊機構を解明する手法であるが、これだけでは欠陥の発生挙動が分からない。そこで、欠陥から材料表面までの伝達関数およびAEセンサーから計測器までの伝達関数を求め、検出波から逆演算を行うことによって欠陥の発生挙動を求める原波形解析が有効になる。この際、最も重要な過程は位置評定であり、正確な位置評定ができなければ原波形解析は不可能となる。位置評定は各AEセンサーへの到達時刻が異なることに着目し、材料の音速を考慮して欠陥の発生位置を計算で導出する手法である。 しかし、異方性材料では方向によって音速が異なるため、位置評定も材料内部の動的グリーン関数の計算も非常に困難となる。一方向繊維強化複合材料の場合は方向による音速が簡単な式で求められるが、直交異方性材料の場合は、音速の計算が非常に複雑であるので、いまだに正確な位置評定が行われたという報告がないのが現状である。そこで、本研究では直交異方性材料に適用可能な2次元および3次元位置評定アルゴリズムを開発すること、さらに実際にGFRPとC/C複合材料に適用させ、その破壊機構を非破壊的に評価することを目的とした。 一般的に、位置評定で最も基本的なことはAE信号の立ち上がり時刻を正確に求めることである。通常はconventional threshold crossing methodが使われるが、特にLamb waveの効果がある場合はcross-correction methodあるいはwavelet transformation methodが使われている。しかし、各チャンネルの立ち上がりの傾きがそれぞれ食い違う場合や、初動波の振幅がtrigger levelより低い場合には誤差が大きくなるという問題がある。特に異方性材料ではその誤差がさらに大きくなる。そこで、本研究では次のような過程で立ち上がり時刻を決めることにした(1〜4)。 1.検出波形のデジタル化。 2.FFT filteringによるノイズ及びextensional waveの除去。 3.最大振幅の点から特定数の点群を前の方向に動かしながら、それぞれの点の値が特定許容値内に全部入るかを検討。 4.最初に全部入ったら、そのときの一番後ろにある点を立ち上がり点として決定。 実際、このような処理を行うことで精度良く立ち上がり時刻を決めることができたので、それを元にして位置評定を行った。 一方、直交異方性複合材料で2次元位置評定を行う場合は繊維の方向を基準にして、0°から5°間隔で45°までの音速を実験的に測定し、curve fittingを行って、音速の角度に関する関数V()を求める。ここで、は角度である。勿論、実験で求められた弾性定数から音速を導出することも可能であるが、その際にも計算で導出された音速が正しいかどうかを検討しなければならない。直交異方性複合材料は45°対称であるので、0°から5°間隔で45°までの10回の測定で充分で、音速の導出が可能となる。そこで、本研究では2次元位置評定の場合については実験的に得られた実験式を用いることにした。 しかし、3次元位置評定のための3次元音速分布を実験式で求めることはかなり不便であり、実用化的ではない。従って、本研究ではChristoffelの理論に基づいて直交異方性材料に適用可能な3次元音速計算手法を確立した。Christoffelは結晶体内部での弾性波の伝播を詳しく説明した。その結果、有限結晶体での音波の伝播速度は弾性定数と関係があり、その関係は次の行列式で表現される。 ここで、Christoffel stiffness ijは伝播方向の方向余弦(l,m,n)を係数にする弾性定数の線形関数であり、はその結晶の密度である。正方晶構造の結晶は六個の弾性定数(c11,c33,c44,c66,c12,c13)を持つ。この場合に当たるChristoffelの方程式は次の式になる。 ここで、(l,m,n)は伝播方向の方向余弦である。従来までのこの式の用い方は次の通りであった(1〜6)。 1.(100),(001),(110),(111)の4つ方向での縦波(L)および横波(T1,T2)速度を測定。 2.c=v2の式で、c11,c33,c44,c66,c12,c13を導出。 3.求めたい音速の方向について方向余弦(l,m,n)を求める。 4.既知のc11,c33,c44,c66,c12,c13とl,m,nを式(2)に入れてijを導出。 5.このijと既知のを式(1)に入れて、行列式を解く。 6.求められた3つのv中、最大値を縦波音速にする。 しかし、繊維系複合材料、特にC/C複合材料の場合は高い気孔率のため、減衰率が高く5mm程度の厚さの薄い試験片でも横波の反射波が全然検出できないので、前述した手法ではChristoffel stiffnessの導出ができない。そこで、本研究では縦波速度の情報だけでChristoffel stiffnessの導出ができるようにした。その手順は次の通りである(1〜7)。 1.任意の6方向(l,m,n)での縦波速度(v)を測定、 2.式(2)を式(1)に代入し、l,m,nとv,に既知値を入れて、6個のstiffnessで表現される非線形方程式を6個導出。 3.この非線形連立方程式をNewton-Raphson数値解析で解いて、6個のstiffness(c11,c33,c44,c66,c12,c13)を求める。 4.求めたい音速の方向について方向余弦(l,m,n)を求める。 5.既知のc11,c33,c44,c66,c12,c13とl,m,nを式(2)に入れてijを導出。 6.このijと既知のを式(1)に入れて、行列式を解く。 7.求められた3つのv中、最大値を縦波音速にする。 以上の到達時刻および音速計算アルゴリズムに対して、各々シミュレーションを行った結果、これらのアルゴリズムは実際材料への適用可能性が高いことが確かめられた。そこで、実際の8枚繻子織り構造のC/C複合材料と平織構造のGFRPに適用し、破壊機構を調べることにした。 まず、C/Cに対して1/2T conpact tension試験(試験片の寸法、32x30x5mm)を行いながらAEを検出し、2次元異方性位置評定と1チャンネル原波形解析を行った。原波形解析の結果、C/C複合材料は約50〜200mの半径を有するsub-bundleの単位で破壊されることが定量的に明らかになった。さらにこのようなsub-bundle breaking生じた領域(即ち、損傷領域)を、実験式を用いて位置評定を行った結果、その領域は繊維方向に強く影響を受け、その面積はかなり広いことが明らかになった。 また、C/CとGFRPに対して、1T conpact tension試験(試験片の寸法、62.5x60x12.5mm)を行いながらAEを検出し、3次元異方性位置評定を行った。GFRPの位置評定の結果で本研究で開発した3次元位置評定アルゴリズムの妥当性を明確にした後、このアルゴリズムをC/Cにも適用することによって、現在までできなかったC/Cの3次元的な損傷領域が求められた。 最後に本研究を総括して論じると、以下のようになる。第一に、繊維強化直交異方性複合材料に対して適用可能な2次元と3次元位置評定アルゴリズムおよびノイズの多いAE信号にも適用可能なfiltering手法を開発した。第二に、これらのアルゴリズムはシミュレーションによって検討した結果、実際材料への適用可能性の高いことが明らかになった。第三に、GFRPとC/C複合材料に適用することによって、現在までできなかった直交異方性を有する複合材料の2次元および3次元的な損傷領域が定量的に求められた。 以上の結果によって、本研究で開発された位置評定アルゴリズムは弾性波伝播の高い減衰率および音速計算の難しさなどのため、今までは求められなかった直交異方性繊維強化セラミックス基複合材料の損傷領域が定量的に求められるようになったと考えられる。 |