本研究ではTGF- スーパーファミリーのシグナル伝達経路を明らかにするため、新規Smadのクローニングを行いその機能解析を行った。 データベース上のExpressed Sequence Tag Site(EST)で、MadのシークエンスをprobeとしたHomology Searchにより新規Smadと考えられるcDNAのグループを得ることができた。得られたcDNAをprobeとしmouse cDNA libraryより全長をクローニングし、局在を調べた。また、そのTGF- スーパーファミリーにおける役割をmRNAレベル、タンパクレベル、ルシフェラーゼアッセイ法において調べ、TGF- スーパーファミリーシグナル伝達における初めての抑制性物質であることの確認ができた。本研究にて以下の点が明らかにされた。 1)MadによるESTホモロジーサーチにより得られた未知のhuman Madホモローグ、ESTcloneをプローブとし、mouse Lung cDNA libraryをスクリーニングし、新規Smadの全コーディング部位を含むシークエンスを同定した。 クローニングをした新規Smadは、リガンド特異的SmadとMH2(Mad homology domain2)は保存するが、MH1、リンカーは保存しない構造であった。また、MH2のみの既知のhuman Smad6とMH2のアミノ酸シークエンスが高い割合で保存されていたため、得られた新規Smadをmouse Smad6とした。 2)得られたmouse Smad6をprobeとしhumanおよびmouseのtissue blot解析をした。Smad6のmRNAは3.0Kbの大きさの位置に比較的、全体的に発現しているが、特にLungに高発現していた。 3)親和性化学架橋法によりI型レセプターとSmad6の結合を確かめた。Smad6はキナーゼ活性II型レセプターの存在下にてI型レセプターと結合をした。Smad2はTGF- とT R-IIの存在化でキナーゼ欠損型T R-IとSmad2は結合する。 4)Smad2のリン酸化に対するSmad6の効果を確かめた。Smad2はSmad6のリン酸化に影響しなかった。Smad6はSmad1,Smad2のキナーゼ活性型レセプターによるリン酸化を抑えたが、Smad3のレセプターによるリン酸化は抑えなかった。 5)免疫沈降法によりSmadのheteromarizationに対するSmad6の効果を確かめた。Smad6はSmad2とSmad4の複合体形成を抑制する。しかしSmad3とSmad4の複合体形成は抑制しない。 6)ルシフェラーゼレポーターラッセイ法によりTGF- シグナル伝達に対するSmad6の効果を確かめた。TGF- キナーゼ活性型T R-IIによる反応をSmad6は濃度依存性に抑制した。また、サイクリンAの発現がキナーゼ活性型T R-IIにより抑制されるのをSmad6は濃度依存性に回復させた。 7)BMP反応性のあるC2C12細胞、C310T1/2細胞、F9細胞、ST2細胞においてBMP-2、OP-1刺激下のSmad6 mRNAの発見をNorthern blotting法により確認した。用いた細胞株全てにおいてSmad6 mRNAはBMP-2刺激で誘導された。また、BMP-2/OP-1を3-24hrにわたり刺激をしたところSmad6の発現はリガンドにより次第に誘導された。 8)TGF- 反応性のあるミンク肺上皮細胞をTGF- により刺激し、Smad6 mRNAの発現をNorthern blotting法により確認した。Smad6 mRNAはTGF- 刺激後1hrで誘導され、4-8hr後の発現は低かった。 以上の8点であった。 このようにSmad6は、 1.TGF- スーパーファミリーのI型レセプターとの結合 2.Smad2,Smad1のリン酸化の抑制 3.Smad2とSmad4の複合体形成の抑制 4.TGF- シグナル伝達の抑制 という点よりTGF- superfamilyのシグナル伝達に対する抑制性因子であると考えられた。また、 5.BMP-2/OP-1刺激でSmad6 mRNAの発現は誘導された。 6.TGF- 刺激でSmad6 mRNAの発現は誘導された。 以上の結果より、TGF- スーパーファミリーのシグナル伝達は以下の様に考えられる。TGF- スーパーファミリーのリガンドがII型レセプターと複合体を形成しI型レセプターを活性化し、細胞質内の基質であるリガンド特異的Smadをリン酸化する。リガンド特異的SmadはSmad4と複合体を形成し、核内へ移行し標的遺伝子の転写を活性化する。このとき、Smad6などの抑制性Smadの発現が誘導され、活性化されたI型レセプターに結合しリガンド特異的SmadのI型レセプターへの結合を阻害し、TGF- スーパーファミリーによるシグナル伝達のスイッチをオフにすると考えられる。 本研究において行った、Smad6のクローニングとその機能解析はこれまで不明であったTGF- スーパーファミリーシグナル伝達の調節、抑制機序を初めて明らかにし、TGF- スーパーファミリーシグナル伝達の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |