学位論文要旨



No 113940
著者(漢字) 結城,雅樹
著者(英字)
著者(カナ) ユウキ,マサキ
標題(和) 世代間公正原理としての超関係的互酬について
標題(洋) Transrelational Reciprocity as A Principle of Intergenerational Justice.
報告番号 113940
報告番号 甲13940
学位授与日 1999.03.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(社会心理学)
学位記番号 博人社第240号
研究科 人文社会系研究科
専攻 社会文化研究専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山口,勧
 東京大学 教授 秋山,弘子
 東京大学 教授 藪内,稔
 東京大学 助教授 池田,謙一
 東京大学 助教授 岡,隆
内容要旨

 超関係的互酬(Transrelational reciprocity:cf.Austin&Walster,1974,75)とは、ある二者関係における社会的交換のアンバランスが別の二者関係におけるアンバランスによって補填されたときに人々がそれを公正と考えるという公正性判断原理のモデルである。本論文では、このモデルが人々の日常的な公正性判断行動を記述する際に有効であることを示す。ここで特に注目するのは、社会集団内の非互酬的な世代間関係の受け入れ現象である。超関係的互酬の原理を採用している人は、集団内の世代間関係全体において縦方向の連鎖一般交換が成立していることが知覚される限りにおいて、個別的には非互酬的な世代間関係を公正だと判断するようになるだろう。一方、この原理を採用していない人は、一般交換の成立・非成立の知覚にかかわらず、それを公正とは判断しないだろう。

 4つの実証的研究により、この仮説の妥当性が検討された。研究1,2,3では、実験参加者たちは仮想的な場面を提示され、小集団内の年功序列規範に対する抗議者の望ましさを評価したり、規範の公正性評価を行った。分析の結果、年功序列規範を一般的に支持している人は、当該集団が解散してしまうことが予期されるときには、そうでないときに比べて、抗議者をより望ましいと評価し、その集団の規範をより公正でないと判断した。一方、年功序列規範を一般に支持していない人による評価に関しては、集団の解散の予期は効果を持っていなかった。この両者の差は、年功序列規範を一般に支持している人が、超関係的互酬の原理を採用して判断を行っているのに対して、支持していない人は、それを判断に用いていないためであると考えられる。

 さらに研究4では、首都圏に住む日本人女性について、母親に対して過大不衡平感を感じている程度と、子育てに対する熱心さの程度の相関が検討された。その結果、家族の絆が永遠のものだと考えている人のみで、両者の間に正の相関が見られた。

 以上の結果は、人々の公正判断原理を記述するモデルとして超関係的互酬モデルが有効であることを示すものである。総合考察として、1)人が用いる公正原理と対人関係概念の関連、および2)異文化における対人関係概念の違いがどのように公正原理の違いに反映されるのか、について議論された。

審査要旨

 結城雅樹氏の論文「Transrelational Reciprocity as a Principle of Intergenerational Justice(世代間公正原理としての超関係的互酬について)」は、一時点での二者関係を超えた視点から、人々のあいだの社会的交換関係を実証的に検討したものである。これまでの社会的交換の公正さに関する研究では、主に特定の時点での二者間のやりとりに焦点を当てていたが、本論文では超関係的な視点から世代間関係を取り上げている。

 本論文では、4つの実証研究が報告されている。研究1-3では、小集団における年功序列を記述した文章を被験者に提示し、公正さなどに関する判断について尋ねた。その結果、年功序列制を支持する被験者は、集団が近い将来に解散してしまう場合には、そうでない場合よりも、このような制度をフェアでないと判断する傾向がみられた。この結果は、年功序列制が受け入れられるためには、新人が先輩に尽くした後、自分たちが後輩から尽くされるというように、集団が媒介となって、成員の間に長期的な貢献度と受益度とのバランスがとれるという前提が必要であることを意味する。研究4では、女性を対象とする社会調査によって、母子関係でも同様の関係が存在することを確認している。家族の絆が永続的なものであるとみなす女性の場合には、母子関係において、母親から過大な恩を受けていると感じている者ほど、自分の子供を一生懸命に育てていると回答する傾向が見出された。この結果は、母から受けた恩を自分の子供に返すという超関係的な公正原理がはたらいていることを示していると解釈できる。

 これらの研究は、これまでの年功序列の概念をあらたに超関係的互酬というより一般的な概念によって理解しようとする試みである。すべての研究が質問紙によるものであり、行動レベルでの検討を今後行う必要があるが、配分の公正性に関する研究に対する重要な貢献と認めることができる。

 以上のことから、本審査委員会は本論文が博士(社会心理学)の学位にふさわしいものであるという結論に達した。

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