超関係的互酬(Transrelational reciprocity:cf.Austin&Walster,1974,75)とは、ある二者関係における社会的交換のアンバランスが別の二者関係におけるアンバランスによって補填されたときに人々がそれを公正と考えるという公正性判断原理のモデルである。本論文では、このモデルが人々の日常的な公正性判断行動を記述する際に有効であることを示す。ここで特に注目するのは、社会集団内の非互酬的な世代間関係の受け入れ現象である。超関係的互酬の原理を採用している人は、集団内の世代間関係全体において縦方向の連鎖一般交換が成立していることが知覚される限りにおいて、個別的には非互酬的な世代間関係を公正だと判断するようになるだろう。一方、この原理を採用していない人は、一般交換の成立・非成立の知覚にかかわらず、それを公正とは判断しないだろう。 4つの実証的研究により、この仮説の妥当性が検討された。研究1,2,3では、実験参加者たちは仮想的な場面を提示され、小集団内の年功序列規範に対する抗議者の望ましさを評価したり、規範の公正性評価を行った。分析の結果、年功序列規範を一般的に支持している人は、当該集団が解散してしまうことが予期されるときには、そうでないときに比べて、抗議者をより望ましいと評価し、その集団の規範をより公正でないと判断した。一方、年功序列規範を一般に支持していない人による評価に関しては、集団の解散の予期は効果を持っていなかった。この両者の差は、年功序列規範を一般に支持している人が、超関係的互酬の原理を採用して判断を行っているのに対して、支持していない人は、それを判断に用いていないためであると考えられる。 さらに研究4では、首都圏に住む日本人女性について、母親に対して過大不衡平感を感じている程度と、子育てに対する熱心さの程度の相関が検討された。その結果、家族の絆が永遠のものだと考えている人のみで、両者の間に正の相関が見られた。 以上の結果は、人々の公正判断原理を記述するモデルとして超関係的互酬モデルが有効であることを示すものである。総合考察として、1)人が用いる公正原理と対人関係概念の関連、および2)異文化における対人関係概念の違いがどのように公正原理の違いに反映されるのか、について議論された。 |