内容要旨 | | 霧は,視界を妨げて交通機関に影響を及ぼすばかりでなく,低温,日照不足により農作物にも被害を与える。霧対策に役立てようと霧予報の需要は高いが,客観的な予報は難しく,ほとんど提供できないのが現状である。霧予報が難しい理由のひとつは,霧の内部で起こる現象と構造が十分理解されていないために,どのように発生,消散するか正確にはわかっていないからである。 霧の客観予報を可能にするメソスケールモデルを構築すること,これがこの研究の最終目的である。この目的のために,テーマを(1)霧の内部構造の解明,(2)既存の乱流モデルの検証,改良,(3)メソスケール予報モデルの構築の大きく3つにわけて研究を進めた。 霧に関する研究はこれまで少なからずあった。ところが,衛星画像に筋状や細胞状の構造が見えるにもかかわらず,霧の3次元内部構造を調べた研究は全くない。予報のためには,霧の構造とそれが霧の成長に及ぼす影響を把握することが不可欠である。そこで,構造形成に重要な乱流を直接予報することのできるLarge Eddy Simulation(LES)を利用して,まず霧の内部構造を調べた。その結果霧は,発達期にはKelvin-Helmholtz不安定,消散期には対流不安定というように,その成長過程で様々な不安定による構造を持つことがわかった。衛星画像に見られる筋状,細胞状の構造は,これらの不安定に起因するものと示唆された。消散期に活発となる対流は,霧粒の重力落下とともに霧水を地上付近に輸送して,地面からの加熱による蒸発を通して霧の消散に貢献していた。 LESは観測では得られない詳細なデータを与えてくれる。これを参照データとして,現在予報に広く利用されているMellor and Yamada(1974)の乱流モデルの検証を行った。その結果,(1)霧の発生が早く,消散が遅い.(2)混合層高度が低い.などの問題点が挙げられた。この問題点を改善するためのデータベースを得る目的で,安定度の異なる数例の大気境界層の構造を新たにLESで計算した。これを基に,クロージャー定数を見直し,接地層の表現に特徴のある乱流長さスケールの代数式を作成した。このように修正された乱流モデルは,上記の欠点をほぼ改善し,霧の予報に利用できると期待された。 メソスケール予報モデルには,この修正された乱流モデルはもちろん,部分凝結スキーム,放射スキーム,降水スキームが組み込まれている。総観規模の気象変化は,リアルタイムで入手している気象庁のRSMの予報結果を利用して与える。関東で発生した放射霧の事例では,霧の発生から消散までの成長過程を精度良く予報し,出現範囲もほぼ再現した。ヤマセの事例では,衛星画像に見られる霧,層雲の分布をよく再現し,気団の性質によって霧になるか層雲になるかの区別ができた。このメソスケール予報モデルにより,霧の客観予報は十分現実的なものになったと考える。ただし,沈降性の逆転が表現できない,移流霧の場合の気温の精度が悪いなど問題が全くないわけではない。今後,より多くの事例での検証を行い,この問題を解決する糸口を探る必要がある。 |