学位論文要旨



No 113956
著者(漢字) ギータ,メタ
著者(英字)
著者(カナ) ギータ,メタ
標題(和) バンガロールにおけるソフトウェア産業の立地と発展に関する研究
標題(洋) A STUDY OF THE LOCATION AND DEVELOPMENT OF SOFTWARE INDUSTRY IN BANGALORE
報告番号 113956
報告番号 甲13956
学位授与日 1999.03.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4278号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 太田,勝敏
 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 助教授 城所,哲夫
 東京大学 講師 小泉,秀樹
内容要旨

 情報技術はインフラストラクチャーであり、産業である。そして、途上国の経済・社会成長を加速させる戦略を可能にするものである。情報産業の全範囲内でもソフトウェアは、英語力のある労働力、産業に必要な低資本投入から、インドの状況に最も適していると言える。この数十年間でインドは世界市場に向けた上質ソフトウェアの重要な輸出国として出現した。ソフトウェアの国際的需要の急激な高まりによって、インドのソフトウェア輸出品は、この数十年間のうちに年間30-55%の比率で成長を遂げ、ソフトウェアは次10年でインドの最も大きな輸出項目になると考えられる。

 インドの情報産業発展を遅めた規制の初期段階の後、政府はソフトウェア産業を優先セクターとして認知し、その開発に決定的な支援を行っている。インド政府の1998年IT行動計画は、社会・経済的目標に向けた情報産業の利用に拍車をかけた。この計画では、ソフトウェア産業に期待される成長に供するため、インド内に点在する主要な工業大学に近接したソフトウェア都市を新たに50個建設することを提案した。多くの州がソフトウェア産業牽引のために必要なインフラや経済的インセンティブをつくり出しているが、ムンバイ、デリー、バンガロールがインドにおいて現存する、主要なソフトウェア生産の中心である。現存する三つの中心のうち、バンガロールにおけるソフトウェア産業の発展が特に重要である。というのは、バンガロールには、大商業都市としてのムンバイとデリー、港市としてのムンバイ、首都としてのデリー、国際空港のある都市といったような固有の強みがない。その様な不利な状況にも拘わらず、バンガロールはインドの「ソフトウェア高原」として成功をおさめている。従って、バンガロールをソフトウェア産業の都市的影響研究のために選んだ。

 以上を背景として、本研究では、情報産業の国際的枠組みと共にインドのソフトウエア政策を分析した。そして、バンガロールのソフトウェア産業に関するアンケート調査を、そこでのソフトウエア産業の立地と発展の根拠を調べるために実施した。ここで、バンガロールの特色と共にソフトウェア産業の特色も調査した。調査の意図は、インドやその他の途上国において計画され、出現しつつあるソフトウェア都市に適用するためにバンガロールから教訓を引き出すことである。バンガロールにおけるソフトウェア産業の立地と発展の中で政府と非政府的要因を区別することを試みた。これは、ソフトウェア産業には重要であるが政府の影響を容易には受けない他の要因と比較し、計画されたソフトウェア都市において政府が影響を与える要因を見極めるためである。

 ソフトウェア産業により、バンガロールはアジアの中で最も成長の速い都市となっている。この刺激は、急速な成長、新しい開発と建設、バンガロールの従来からの優雅なライフスタイルにおけるひずみの点で、バンガロール自体をより明確なものとした。豊かな緑と良好なインフラで知られるバンガロールの田園都市は、いよいよ込み合い、電力、水道、交通といった不可欠なインフラが不足してきている。同時に、バンガロールにおけるソフトウェア産業の密集がもたらす相乗作用により、バンガロールで請け負われるソフトウェア事業の精巧性と質が向上し、ソフトウェア優良企業500件中の150件がバンガロールに存在する。

 調査の結果、ソフトウェア産業における政府介入は、バンガロールでは必要であり、かつ成功していることが分かった。決定的な政府投入は、ソフトウェアテクノロジーパークという高速データコミュニケーション施設の形で行われ、これにより小規模の国内企業でも輸出品のためにソフトウエア開発に着手することが出来た。練達された労働力のプールは、そこにハイテク教育・研究機関が存在することからバンガロールに初めてつくられ、後にソフトウェア産業の成長により強化された。バンガロールで行った最新調査は、バンガロールをムンバイやデリーの様な他のインドソフトウェア生産都市から区別し、バンガロールの技術者が世界規模の情報産業において現れつつある傾向を予見し、それに備えて準備するのに役立たせている。

 バンガロールにおけるソフトウェア産業の成長理由としてもう一つ重要なのは、他のインド諸都市と比べてバンガロールでの生活質が良いことである。田園都市、インドのフルーツバスケットとして知られているように、バンガロールは良好なライフスタイルを提供し、良質のオフィスや住宅地域の幅広い選択肢を与えている。最近、当初は都市の魅力の一部を成していた手頃な不動産価格が、デリーにおける価格と近づき、その価値が下がってきている。しかし、情報技術パークの様な多くの新しい開発は、近い将来にソフトウェア産業のオフィス空間需要をまかなうと期待されている。

 不適切な品質とバンガロールに必要なインフラの質が、ソフトウェア産業の主要問題点として、調査から浮かび上がった。バンガロールが情報技術産業に対する魅力を保ち続けるためには、政府がエネルギーや電気、交通のインフラ改善に緊急に取組む必要がある。

 本研究では、バンガロールにおけるソフトウェア産業に対する外国からの介入や研究が、産業を国際的に認識させ、競争させる点から、バンガロールに建設的な影響を与えていることを示している。外国との関わり合いは、バンガロールで歓迎され続けるべきであろう。

 バンガロールにおけるソフトウェア産業の成功で、アンジュラ・パーデッシュやオリサの様な多くの州がハイデラバッドやブバネシュール等の都市において、バンガロールでのソフトウェアの成功を懸命に見習おうと努力している。そこで、バンガロールのポテンシャルを他のインドの場所と比較した。本研究では、電力やデータコミュニケーション施設、生活の質的要因の点から、適切なインフラが利用出来れば、ソフトウエア産業の成功は他の都市においても複写可能であると結論づけた。

 ソフトウェア産業専用のものから、研究、会計、出版など、他の知識集約的サービス産業に利用できるものまでを含め、高速データコミュニケーションインフラを様々に利用することは、可能であると共に望まれている。その結果、知識集約的サービス産業は、グローバル経済の成長に通じるようになる一方、同時に、計画された新しいソフトウェア中心に対して多様な経済ベースを提供することになる。

 バンガロールにおけるソフトウェア産業の成功に寄与する主要な要因には、練達された人材と生活質の問題における利用可能性がある。調査において、人材は比較的流動性を持っているが、バンガロールをインドのソフトウェア高原足らしめた生活の質的要因はインドの他多数の都市では見つけ難いことが示された。このように、新しく計画されたソフトウェア都市は、単に成長しつつあるソフトウェア産業に適応させるものであるだけでなく、情報技術インフラが住民の日常的・商業的ニーズや政府、市の管理にも供給する新しい都市の理論的枠組みのモデルになると推奨される。この様なモデルは、速い都市化と昨今の都市環境悪化により、インドでは緊急に求められている。従って、ソフトウェアは恐らく都市地域の「ホープウェア」になるであろう。

審査要旨

 本論文は、インドにおける特定の都市での情報産業の集積を実証的に考察し、その要因を明らかにするとともに、公的施策が情報産業の集積にどのような影響を及ぼしたかを丹念に整理した。本論が取り上げているインド・バンガロール市は、世界的にも名高い情報産業とくにソフトウエア産業の集積地である。しかしその集積がどのように形成されたのか、国際空港を持たないバンガロールでの海外との関係はどのようなものか、政策は集積形成に寄与してきたのか、等の諸点は必ずしも明らかになっていなかった。本論によって、これらが実証的に明らかにされたことは、今後の途上国の産業立地と都市形成の関係を考察していく上で重要な示唆を与えることになろう。

 インド政府はソフトウェア産業を優先セクターとして認知し、その開発に決定的な支援を行ってきた。1998年IT行動計画は、社会・経済的目標に向けた情報産業の利用に拍車をかけた。この計画では、ソフトウェア産業に期待される成長に供するため、インド内に点在する主要な工業大学に近接したソフトウェア都市を新たに50個建設することを提案した。こうした政府の動きに対応して、多くの州がソフトウェア産業牽引のために必要なインフラや経済的インセンティブをつくり出してきた。中でもムンバイ、デリー、バンガロールがインドにおいて現存する主要なソフトウェア生産の中心である。これらのうち、バンガロールにおけるソフトウェア産業の発展が特に重要である。というのは、バンガロールには、大商業都市としてのムンバイとデリー、港市としてのムンバイ、首都としてのデリー、国際空港のある都市といったような固有の強みがない。その様な不利な状況にも拘わらず、バンガロールはインドの「ソフトウェア高原」として成功をおさめている。

 本研究では、情報産業の国際的枠組みと共にインドのソフトウエア政策を分析している。用いた研究方法は、バンガロールのソフトウェア産業に関するアンケート調査、インタビュー調査、政策担当者との面談、産業名鑑からの情報収集と地図化、などである。とくに、バンガロールにおけるソフトウェア産業の立地と発展の中で政府と非政府的要因を区別することに関心が払われている。

 調査の結果、ソフトウェア産業における政府介入は、バンガロールでは必要であり、かつ成功していることが分かったとする。また、ソフトウェア産業の成長理由としてもう一つ重要なのは、他のインド諸都市と比べてバンガロールでの生活質が良いことである。田園都市、インドのフルーツバスケットとして知られているように、バンガロールは良好なライフスタイルを提供し、良質のオフィスや住宅地域の幅広い選択肢を与えている。

 しかし、バンガロールが情報技術産業に対する魅力を保ち続けるためには、政府がエネルギーや電気、交通のインフラ改善に緊急に取組む必要がある点も明らかにしている。

 また、本研究では、バンガロールにおけるソフトウェア産業に対する外国からの介入や研究が、産業を国際的に認識させ、競争させる点から、バンガロールに建設的な影響を与えていることを示している。

 バンガロールにおけるソフトウェア産業の成功に寄与する主要な要因には、練達された人材と生活質の問題における利用可能性がある。調査において、人材は比較的流動性を持っているが、バンガロールをインドのソフトウェア高原足らしめた生活の質的要因はインドの他多数の都市では見つけ難いことが示されたとする。このように、新しく計画されたソフトウェア都市は、単に成長しつつあるソフトウェア産業に適応させるものであるだけでなく、情報技術インフラが住民の日常的・商業的ニーズや政府、市の管理にも供給する新しい都市の理論的枠組みのモデルになるとしている。この様なモデルは、速い都市化と昨今の都市環境悪化により、インドでは緊急に求められている。従って、ソフトウェアは恐らく都市地域の「ホープウェア」になるであろうと述べる。

 このように本論文は、バンガロールの研究を通じて、発展途上国の都市が、最先端技術の集積を形成する過程を明らかにするとともに、課題を整理し、今後の地域開発に多くの示唆を与えた。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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