学位論文要旨



No 113958
著者(漢字) ムサビィ・マダニ・ファリボーズ
著者(英字) Fariborz Mousavi Madani
著者(カナ) ムサビィ・マダニ・ファリボーズ
標題(和) 長距離大容量波長多重光伝送システムにおける分散マネージメント技術に関する研究
標題(洋) Study of Dispersion Management Techniques in High-Capacity Long-Distance Wavelength-Division-Multiplexed Optical Transmission Systems
報告番号 113958
報告番号 甲13958
学位授与日 1999.03.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4280号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 神谷,武志
 東京大学 教授 高野,忠
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 助教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 廣瀬,明
内容要旨

 長距離波長多重(WDM)光伝送システムでは,ファイバの非線形性による波形歪みを抑圧するために,光ファイバの長手方向の分散を管理する必要がある。通常の分散マネージメントシステムでは,伝送用ファイバとして用いられる分散シフトファイバ(DSF)の正常分散が,伝送路に周期的に挿入される通常分散ファイバ(SMF)の持つ異常分散により,周期的に補償される。このシステムでは,平均分散を零にすることにより,自己位相変調(SPM)とGVDの相互作用による波形歪みを除去し,一方局所的には大きなGVDを与えることにより,四光波混合(FWM)や相互位相変調(XPM)によるチャンネル間クロストークを抑圧することができる。

 本論文ではまず,長距離・大容量WDMシステムにおける,分散マップの設計手法について検討した。伝送距離,ビットレート,波長数が与えられた場合の最適な分散配置とチャンネルパワーを求めることが可能になり,この設計法に基づき,実際に2.5Gbit/s,5Gbit/s,10Gbit/s-10,000km WDMシステムの最適設計を行った。しかしこのような分散マネージメントシステムでは,DSFとSMFが正の分散スロープを持つために,WDMチャンネルのある特定の波長に対してのみ分散補償が行われ,他のチャンネルでは平均零分散波長からのずれに比例した累積分散が残留する。このとき累積残留分散とSPMとの相互作用が起き,単に残留分散を前置/後置分散補償するだけでは波形歪みを補償できない。このためWDMシステムの伝送窓は大幅に制限を受け,例えば5Gbit/s-10,000kmのシステムでは10nm,10Gbit/s-10,000kmのシステムではlnmの帯域しか伝送できないことが明らかにされた。この問題に対処するには,周期的に各チャンネルの残留分散を補償すればよいが,このような伝送路中での分散スロープ補償は実際のシステムに適用するには複雑すぎ,ビットレートやチャンネル数などのシステムパラメータの変更に柔軟に対処できない。

 これに対して本論文では,前置/後置分散スロープ補償のみで伝送窓を確保する実用的な方法を提案した。すなわち5Gbit/s-10,000kmのシステムに対して,最適化されたプリチャープRZパルス,低雑音増幅器,コア拡大ファイバを用い,分散マネージメントの最適設計を行うことにより,理想的なナイキスト限界に近いチャンネル間隔が実現され,伝送帯域も40nmまで拡大されることが示された。この結果,5Gbit/s-200ch=1Tbit/sの伝送容量が実現可能であることが示された。

 一方,近年,大きな正常分散と負の分散スロープを持つ分散補償ファイバ(DCF)が開発され,通常分散ファイバ(SMF)の異常分散と正の分散スロープを同時補償する可能性が指摘されている。このようなSMFをDCFにより補償する分散マネージメントシステムは,長距離・大容量WDMシステムを実現するための有力な候補と考えられる。本論文では,10-40Gbit/sに対して分散マネージメントの最適設計を行い,光増幅器利得帯域を40nmとした場合,60ch×10Gbit/s-10,000kmの伝送が可能となることを示した。

 次に本論文では,これらの分散マネージメント法とは別のアプローチとして,光位相共役(OPC)を用いた分散補償法について検討している。OPCシステムでは,位相共役器の前後で光パワー分布および分散分布が鏡像対称性を持つ場合に,二次分散と非線形性に基づくあらゆる波形歪みが補償される。しかし実際のシステムでは,光パワーの対称性は実現できず,非対称な周期的パワー分布はサイドバンド変調不安定性(SI)と呼ばれるパラメトリック利得を誘起し,OPCシステムにおける波形歪みを生じさせる。このためOPCを用いたWDMシステムでは,すべてのチャンネルが少なくとも最低次のSI利得を受けないように,チャンネル配置を最適化する必要がある。また,光スペクトルはOPCにより反転されるので,各WDMチャンネルの分散はシステム前半と後半で異なる値をとる。このために,適切な分散スロープ補償を行わなければならない。

 本論文ではSPMで構成される伝送路において,分散スロープを前置・後置補償し,OPCのあとで利得等化を行うことにより,17ch×40Gbit/s,5,000kmの伝送が可能であることを示し,WDMシステムの長距離・大容量化に対するOPCの有効性を確認した。

 以上に述べたWDMシステムにおける分散マネージメント技術は,将来のシステムの長距離・大容量化に対する要求に十分応えうるものと考える。

審査要旨

 本論文は「Study of Dispersion Management Techniques in High-Capacity Long-Distance Wavelength-Division-Multiplexed Optical Transmission Systems(長距離大容量波長多重光伝送システムにおける分散マネージメント技術に関する研究)」と題し,英文で執筆され,6章からなる。

 第1章は序論であり,波長多重技術が出現するに至った歴史的経緯と本論文の構成が述べられている。

 第2章はTheoretical Backgroundと題し,大容量波長多重伝送を制限する要因,伝送特性の評価法,シミュレーション法などが概説される。

 第3はDesign Theory of Long-Distance WDM Dispersion Managed Transmission Systemと題し,長距離・大容量WDMシステムにおける,分散マップの設計手法について検討している。

 長距離波長多重(WDM)光伝送システムでは,ファイバの非線形性による波形歪みを抑圧するために,光ファイバの長手方向の分散を管理する必要がある。通常の分散マネージメントシステムでは,伝送用ファイバとして用いられる分散シフトファイバ(DSF)の正常分散が,伝送路に周期的に挿入される通常分散ファイバ(SMF)の持つ異常分散により,周期的に補償される。このシステムでは,平均分散を零にすることにより,自己位相変調(SPM)とGVDの相互作用による波形歪みを除去し,一方局所的には大きなGVDを与えることにより,四光波混合(FWM)や相互位相変調(XPM)によるチャンネル間クロストークを抑圧することができる。

 本章で展開する方法により,伝送距離,ビットレート,波長数が与えられた場合の最適な分散配置とチャンネルパワーを求めることが可能になり,この設計法に基づき,実際に2.5Gbit/s,5Gbit/s,10Gbit/s-10,000km WDMシステムの最適設計が行われた。しかしこのような分散マネージメントシステムでは,DSFとSMFが正の分散スロープを持つために,WDMチャンネルのある特定の波長に対してのみ分散補償が行われ,他のチャンネルでは平均零分散波長からのずれに比例した累積分散が残留する。このとき累積残留分散とSPMとの相互作用が起き,単に残留分散を前置/後置分散補償するだけでは波形歪みを補償できない。このため,WDMシステムの伝送窓は大幅に制限を受けることが明らかにされた。

 これに対して本論文では,前置/後置分散スロープ補償のみで伝送窓を確保する実用的な方法を提案した。最適化されたプリチャープRZパルス,低雑音増幅器,コア拡大ファイバを用い,分散マネージメントの最適設計を行うことにより,理想的なナイキスト限界に近いチャンネル間隔が実現され,伝送帯域も40nmまで拡大されることが示された。この結果,5Gbit/s×200ch=1Tbit/sの伝送容量が伝送距離10,000kmにわたって実現可能であることが示された。

 第4章はWDM Dispersion Managed Transmission System Using Higher Order Dispersion Compensation Fiberと題し,分散スロープの影響を回避する新しい伝送方法について検討している。

 近年,大きな正常分散と負の分散スロープを持つ分散補償ファイバ(DCF)が開発され,通常分散ファイバ(SMF)の異常分散と正の分散スロープを同時補償する可能性が指摘されている。このようなSMFをDCFにより補償する分散マネージメントシステムは,長距離・大容量WDMシステムを実現するための有力な候補と考えられる。本論文では,10-40Gbit/sに対して分散マネージメントの最適設計を行い,光増幅器利得帯域を40nmとした場合,10Gbit/s×60ch-10,000kmの伝送が可能となることを示した。

 第5章はWDM Transmission Systems Using Midway Optical Phase Conjugation and Standard Fiberと題し,これらの分散マネージメント法とは別のアプローチとして,光位相共役(OPC)を用いた分散補償法について検討している。本論文ではSPMで構成される伝送路において,分散スロープを前置・後置補償し,OPCのあとで利得等化を行うシステムを提案した。伝送性能を解析することにより,40Gbit/s×17ch-5,000kmの伝送が可能であることを示し,WDMシステムの長距離・大容量化に対するOPCの有効性を確認した。

 第6章は本論文の結論である。

 以上のように本研究では,長距離大容量波長多重光伝送システムにおける分散マネージメント技術に関する理論的検討を行い,分散シフトファイバと分散補償ファイバを用いたシステム,通常分散ファイバと高次分散補償ファイバを用いたシステム,光位相共役を用いたシステムについて伝送特性を最適化する設計法を示し,その伝送性能限界を明らかにした。本論文は,長距離大容量光ファイバ通信技術に大きく寄与すると考えられ,電子工学への貢献が大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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