学位論文要旨



No 113960
著者(漢字) 岡島,敬一
著者(英字)
著者(カナ) オカジマ,ケイイチ
標題(和) βFeSi2-Si複合薄膜の作製と太陽電池への応用
標題(洋)
報告番号 113960
報告番号 甲13960
学位授与日 1999.03.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4282号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山田,興一
 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 教授 石谷,久
 東京大学 助教授 霜垣,幸浩
内容要旨

 単結晶シリコン太陽電池においては理論変換効率約28%に対して研究段階で変換効率約24%という結果が得られており,技術的に成熟つつある現在シリコン物性を向上させることによる大幅な効率向上は望みにくい状況となっている.一方化合物半導体系太陽電池材料としてはGaAs等が挙げられるがこれらの物質は将来の大規模な普及の観点においては資源量・安全性の点で問題を抱えており,そのいずれもがシリコン太陽電池に取って代わるものとはなり難いといえる.より一層の変換効率向上のためには従来とは異なる観点に基づくブレークスルーが必要である.本研究は将来の大規模利用太陽電池材料への応用の観点から,SiをベースにSi以下のバンドギャップと高い光吸収特性を持つ半導体FeSi2をSiに組み合わせてFeSi2微粒子-Si複合薄膜を作製し,太陽光の赤外領域における生成キャリアの増大を試みた.

 高周波スパッタ装置を使用した交互スパッタリング法を用いてa-Si中にFeSi2微粒子が埋め込まれた微粒子複合薄膜を作製した.スパッタ時間の制御によるによりFeSi2微粒子粒径の制御条件を確定し,微粒子粒径3〜80nmのFeSi2微粒子-a-Si複合薄膜を作製した.複合薄膜の光吸収測定より複合薄膜は直接遷移型光吸収特性を示し,FeSi2粒子径の減少に伴いバンドギャップが増大する量子サイズ効果がみられ,粒子径5nm,3nm複合膜試料のはそれぞれ0.95eV,0.97eVに増大した.

 Fig.1に波長0.88〜1.08eVでのFeSi2-Si微粒子複合膜/n-Siヘテロ接合セルの分光感度測定結果を示す.光電流は正の値を示し,FeSi2-Si微粒子複合膜の伝導型はp型であった.FeSi2粒径を7〜30nmで変化させた結果,微粒子の含まれないa-Si薄膜に対し全ての試料で光吸収は6〜14倍の急峻な立ち上がりを示した.a-Siで吸収が低い領域,特に0.98〜1.05eV付近における分光感度の増大は,a-Siのみでは利用されにくい低エネルギー領域光がFeSi2微粒子によって吸収され,その励起キャリアがa-Si薄膜に移動し,ヘテロ構造の接合面を流れ光電流として取り出された可能性を示唆した.Fig.2にFeSi2粒子径に対する,エネルギー準位から算出したFeSi2微粒子-a-Si薄膜間の伝導帯不連続障壁高さのシミュレーション結果及び実測値を示す.FeSi2粒径を30nmから9nmまで変化させた場合はほぼ一定値を示し,粒径5nm,3nmの試料ではが0.29eV,0.26eVに低下した.この結果はFeSi2微粒子から光励起キャリアが移動する障壁高さが減少していることを意味しており,量子サイズ効果による障壁高さの減少が理論曲線との比較によって明らかになり,薄膜内の欠陥による励起ではなくFeSi2微粒子によって励起されたキャリアがa-Si薄膜に移動し,ヘテロ接合面を越えて光電流として取り出されたことが示唆された.

Fig.1-FeSi2 Particle size dependence of the photoelectric yield as a function of photon energy for nano-particle heterostructures at zero bias voltage. Vertical scale is arbitrary.Fig.2Effect of -FeSi2 particle size on barrier height of -Fesi2/a-Si interface.
審査要旨

 本論文は「-FeSi2-Si複合薄膜の作製と太陽電池への応用」と題し全6章から構成されており,太陽電池高効率化において吸収キャリア増大をその主目的とした「微粒子複合材料セル」を提案し,作製及び評価を通じてその可能性について検討したものである。

 第1章では本研究の背景となる太陽電池開発の現状,太陽電池発電原理の重要な機構について述べ,単結晶Si太陽電池理論変換効率の算出を通して物性面からの高効率化について論じた。その高効率化へのブレークスルーとして微粒子複合セルを提案し,シミュレーターを作成してその理論変換効率を算出している。

 第2章では高周波マグネトロンスパッタリング法による-FeSi2薄膜の作製について述べた。オンチップ同時スパッタ方式にて-FeSi2薄膜を作製し成膜条件を明らかにしている。光電物性を評価し,0.9eV付近からの光吸収増大を確認している。

 第3章では-FeSi2/Siヘテロ接合の電流電圧特性,光起電力特性を評価し,-FeSi2とSiとの伝導帯障壁高さを0.32eVと算出している。さらに,太陽電池への応用可能性追求のため,-FeSi2/InPヘテロ接合の評価を行い450mVの光起電力を得ている。

 第4章では微粒子-FeSi2-Si複合薄膜の作製およびその評価について述べている。交互スパッタ法にて微粒子-FeSi2-Si複合膜を作製し,粒径を制御する条件を明らかにしている。粒径3〜80nmの微粒子複合膜の作製に成功している。光吸収測定評価をおこない,量子サイズ効果による吸収端変化について理論値と比較している。

 第5章では微粒子-FeSi2-Si複合太陽電池セルを作製し,光起電力測定,分光感度特性を通して微粒子複合セルの太陽電池への応用可能性を示している。Si薄膜のみでは吸収が低い,0.98〜1.05eVにおける励起キャリアが光電流として取り出されたことを示し,さらに量子サイズ効果による障壁高さの減少を理論曲線との比較によって明らかにしている。粒子径3nm微粒子複合膜試料の光電流障壁高さは0.36eVから0.23eVへと低下し,微粒子化が光電流の増大へ寄与したことを示している。

 最後に第6章で本論文全体のまとめを行い,課題として残った欠陥密度増大に起因する光電流低下についての対策と,高効率化に向けての展望について論じている。

 以上,本論文は交互スパッタ法による太陽電池微粒子複合膜を開発し,「微粒子複合薄膜による吸収スペクトル広範囲化」という新たな概念に基づく高効率化の指針を示したものであり,化学システム工学の発展に寄与するところが大きい。

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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