本論文は「-FeSi2-Si複合薄膜の作製と太陽電池への応用」と題し全6章から構成されており,太陽電池高効率化において吸収キャリア増大をその主目的とした「微粒子複合材料セル」を提案し,作製及び評価を通じてその可能性について検討したものである。 第1章では本研究の背景となる太陽電池開発の現状,太陽電池発電原理の重要な機構について述べ,単結晶Si太陽電池理論変換効率の算出を通して物性面からの高効率化について論じた。その高効率化へのブレークスルーとして微粒子複合セルを提案し,シミュレーターを作成してその理論変換効率を算出している。 第2章では高周波マグネトロンスパッタリング法による-FeSi2薄膜の作製について述べた。オンチップ同時スパッタ方式にて-FeSi2薄膜を作製し成膜条件を明らかにしている。光電物性を評価し,0.9eV付近からの光吸収増大を確認している。 第3章では-FeSi2/Siヘテロ接合の電流電圧特性,光起電力特性を評価し,-FeSi2とSiとの伝導帯障壁高さを0.32eVと算出している。さらに,太陽電池への応用可能性追求のため,-FeSi2/InPヘテロ接合の評価を行い450mVの光起電力を得ている。 第4章では微粒子-FeSi2-Si複合薄膜の作製およびその評価について述べている。交互スパッタ法にて微粒子-FeSi2-Si複合膜を作製し,粒径を制御する条件を明らかにしている。粒径3〜80nmの微粒子複合膜の作製に成功している。光吸収測定評価をおこない,量子サイズ効果による吸収端変化について理論値と比較している。 第5章では微粒子-FeSi2-Si複合太陽電池セルを作製し,光起電力測定,分光感度特性を通して微粒子複合セルの太陽電池への応用可能性を示している。Si薄膜のみでは吸収が低い,0.98〜1.05eVにおける励起キャリアが光電流として取り出されたことを示し,さらに量子サイズ効果による障壁高さの減少を理論曲線との比較によって明らかにしている。粒子径3nm微粒子複合膜試料の光電流障壁高さは0.36eVから0.23eVへと低下し,微粒子化が光電流の増大へ寄与したことを示している。 最後に第6章で本論文全体のまとめを行い,課題として残った欠陥密度増大に起因する光電流低下についての対策と,高効率化に向けての展望について論じている。 以上,本論文は交互スパッタ法による太陽電池微粒子複合膜を開発し,「微粒子複合薄膜による吸収スペクトル広範囲化」という新たな概念に基づく高効率化の指針を示したものであり,化学システム工学の発展に寄与するところが大きい。 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |