学位論文要旨



No 114006
著者(漢字) 梅津,信幸
著者(英字)
著者(カナ) ウメヅ,ノブユキ
標題(和) 多重解像度ボクセル相互作用を用いたボリュームデータのための形状モデリングおよび直接照明の統一的フレームワーク
標題(洋) A Unified Framework of Shape Modeling and Direct Illumination for Volume Data Using Multiresolution Voxel Interaction
報告番号 114006
報告番号 甲14006
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3495号
研究科 理学系研究科
専攻 情報科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西田,友是
 東京大学 教授 小柳,義夫
 東京大学 教授 坂村,健
 東京大学 助教授 今井,浩
 東京大学 講師 小林,直樹
内容要旨

 ボリュームデータは従来まで、直接的、間接的に可視化を行うための多くのレンダリング手法は提案されているものの、形状モデリングに関してはほとんど未開拓の分野となっていた。ボリュームモデルは物体の内部情報を記述できるという点で現在広く利用されているサーフェスモデルより優れているが、計算機の演算性能やメモリ容量の制約により、有効なモデリング法が今だに確立されてこなかった。しかし、近年の計算機の能力の飛躍的向上により、大規模なボリュームデータを直接操作し、その上で、形状モデリング及び照明を求めることがより現実的になってきた。また、ボリュームデータの可視化のための照明モデルに関しては、サーフェスモデルの手法(レイトレーシングやレディオシティ法)をボリュームに適用した研究があるものの、相互反射や屈折、透過などを含んだ純粋なボリュームベースのモデルは存在しない。また、サーフェスモデルの技術をそのままボリュームモデルに適用することは、計算量が飛躍的に増大する点からも非常に困難が伴うため、ボリュームベースの照明モデルに対する重要性は高まっていると考えられる。

 そこで本研究では、純粋にボリューム表現のみに基づいて、物体形状の定義、移動、変形、彩色、アニメーション、さらには発光、減衰、透過、反射、屈折などの様々な照明状態の計算まで一連の処理を行う新しい統一的手法の構築を目的として、ボクセル間の相互作用を用いたボリュームデータの形状モデリングおよび直接照明の手法を提案する。形状モデリング及び照明計算等の一連の処理はすべて局所的な操作の結果として実現されるとの基本姿勢に立ち、セルラーオートマトン理論に類似したモデルを立方体ボクセルに適用する。ボクセル間の相互作用における基本的な条件の定式化に基づいて、ボリュームデータにラプラシアンピラミッドによる多重解像度構造を採用したことで、シーン内の必要な部分のみ任意の解像度によりモデル化を可能とし、さらには相互作用において上位レベルのボクセルを経由することによるボクセル空間内の情報の伝達速度の変更や、最終的な結果画像を得るレンダリング処理の高速化などが実現された。

 物体の形状は空間内の各位置での物体の密度分布関数として記述され、形状の変形は隣接ボクセル間で総量を保存しながらその分布を変更することで実現される。物体の移動は速度ベクトルと相対変位ベクトルにより制御され、また、ボリュームデータを利用した直接照明モデルとして、空間内の各位置で照明情報を保持し、それをボクセル間で相互に伝播させることによって、サーフェスパッチ上の照明情報のみを保持する従来の方法では実現できないシーンが再現可能となった。

 従来の照明モデルでは不可能だった、密度分布が一様でない物体中の屈折の例として炎に揺らぐ陽炎のレンダリングや、様々な性質の物体の混在したシーン等を多重解像度を用いてモデリングする例などにより、本手法が形状の定義、モデリング、照明からアニメーションまでを単一のフレームワークで実現できることを示す。

審査要旨

 本論文は,ボリュームグラフィクスの新しい手法の設計と実現について論じている。その目的は、ボリュームグラフィクスの中で閉じた処理方法を確立することである。近年の計算機の能力の飛躍的向上により、大規模なボリュームデータを操作し、描画することが現実的になってきた。しかし、従来のボリュームグラフィクスでは,複雑な形状設計は一度サーフェスグラフィクスに変換する必要があり、そのため、ボリューム表現の特徴である物体の内部の情報や境界に依存しない表現が生かされなかった。また、照明モデルも、反射モデルによって異なる処理を行なわなければならなかった。そこで、ボリュームグラフィクスの中で閉じた処理方法対する期待が高まってきており、サーフェスグラフィクスに変換することなく、効率的に最初の形状設計から最後の描画まで処理できる手法が求められてきた。

 これに対して,提出者は、ボクセル間の相互作用としてすべての処理を記述する事によって、一連の処理を統一し、ボリュームグラフィクスの中で閉じた処理系を実現した。そこでは、ボリューム表現のみに基づいて、物体形状の定義、移動、変形、彩色、アニメーション、さらには発光、減衰、透過、反射、屈折などの様々な照明状態の計算まで、ボクセル間の相互作用として表現される。

 ボクセル間の相互作用における基本的な条件の定式化に基づいて、また、ボリュームデータにラプラシアンピラミッドによる多重解像度構造を採用したことで、シーン内の必要な部分のみ任意の解像度によりモデル化を可能とし、さらには相互作用において上位レベルのボクセルを経由することによるボクセル空間内の情報の伝達速度の変更や、最終的な結果画像を得るレンダリング処理の高速化などが実現された。

 物体の形状は空間内の各位置での物体の密度分布関数として記述され、形状の変形は隣接ボクセル間で総量を保存しながらその分布を変更することで実現される。物体の移動は速度ベクトルと隣接ボクセルとの速度差に基づく相対変位ベクトルにより決定される。

 また、ボリュームデータを利用した直接照明モデルとして、空間内の各位置で照明情報を保持し、それをボクセル間で相互に伝播させることによって、サーフェスパッチ上の照明情報のみを保持する従来の方法では実現できない、密度分布が一様でない物体中の屈折や、様々な性質の物体の混在したシーン等を多重解像度を用いてモデリングすることに成功した。そして、本手法が形状の定義、モデリング、照明からアニメーションまでを単一のフレームワークで実現できることを実験例と共に示した。

 審査担当者は,以上のような理由により,本論文は博士(理学)の学位論文として充分な内容を持つものであると一致して判定した。

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