本論文の研究は、大規模な共有仮想環境のブラウザとして求められるユーザインタフェース手法と実装手法の提案を行い、ブラウザの実装を通じて提案した手法の評価を行うことを目的としている。 共有仮想空間を提供するCVE(Collaborative Virtual Environment)は、その応用範囲の広さから近年注目を集めている。例えば、仮想博物館やEC(Electric Commerce)のバーチャルモールなどにおいて、巨大な詳細情報空間にアクセスするためのフロントエンドとして大規模な共有仮想空間を利用することができる。このような応用では、詳細情報へのアクセスとユーザ同士のコラボレーションの融合が求められるが、従来のCVEシステムでは、このような詳細情報を介したコラボレーションができなかった。また、CVEは情報を空間的に管理するので、特に大規模な仮想空間においては、ユーザが自分の空間的な位置を常に把握できるような機能が重要である。さらに、広く一般ユーザに利用される状況においては、ネットワーク帯域が狭く端末の計算能力が高くない安価なコンピュータ環境からアクセス可能であることが求められる。 本論文では、1つ目の問題に対しては、詳細情報に協調アクセスするための新しいメタファである道具メタファが提案されている。道具メタファは、仮想空間中のオブジェクトを基準とした共有道具適用環境を提供する。共有道具適用環境では、他ユーザとコラボレーションしながら、仮想道具を使ってオブジェクトに関連付けられた詳細情報群にアクセスすることができる。2つ目の問題に対しては、従来は地図や検索機能が提供されていたが、本論文では仮想空間に埋め込まれたビデオ映像によってより直感的にユーザのナビゲーションを行う手法が提案されている。3つ目の問題に対しては、仮想空間中のそれぞれのオブジェクトの重要度に応じてネットワーク帯域と計算能力を分割することにより、安価なコンピュータ環境でも必要な情報をユーザにリアルタイムに提供することが可能な手法が提案されている。 本論文の研究では、ケーススタディとして、仮想博物館を構築することができるデジタルミュージアムマルチメディアMUDのブラウザの実装が行なわれ、提案した手法の有効性が検証された。 本論文は8章から成り、第3章においてマルチメディアMUDの概要が述べられている。第4章において道具メタファ、第5章において仮想空間に埋め込まれたビデオ映像であるビデオアヴァター、第6章においてリアルタイムな情報提供について詳しく解説されている。また、第7章においては、マルチメディアMUDの実装及び評価について述べられいる。特に、実際のエグジビション、その際のユーザインタフェースの利用状況、及び、リアルタイムな情報提供に関する実験を通して、本論文の手法の評価が行なわれている。 なお、本論文は、坂村健氏、鵜坂智則、藤森和彦氏との共同研究に基づいているが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行なったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 従って、博士(理学)を授与できると認める。 |