本論文は、七章と付録部分から構成されている。第一章は、星形成過程に於ける輻射輸送過程の重要性を説いた導入部分、第二章は、本論文に於ける数値計算のスキームを、第三章は、問題とする星形成過程で考慮しなければならない物理過程がまとめられている。それ以後の章では、研究成果が記述されており、第四章では、星間ガスが収縮して中心に断熱コアを形成する、いわゆる「第一次重力収縮」までの計算結果を、第五章では、その後水素分子が解離して、再び収縮を始め最終的に原始星が形成される過程をまとめている。第六章は、この原始星形成過程の計算結果から、原始星の形成過程が分子の輝線による電波観測で、いかなるスペクトル形状を示すかの予言を行い、第七章では、計算結果から原始星形成過程の全過程を論じている。 最近の観測技術の進歩によって、星形成領域の詳細な観測が可能となった。特に、太陽質量程度の若い星の場合は、電波、赤外線、可視光、紫外線及びX線にわたるスペクトルやイメージが取得可能となった。その結果、若い星を取り巻く円盤、ジェット及び外層部といった構造やそれらの進化過程が明らかにされつつある。 これらの観測の詳細な解析のためには、これまでの流体力学的取り扱いでは不十分である。星形成時のスペクトルの形や、その変化まで追跡するためには、輻射輸送過程も考慮した輻射流体力学問題を解かなくてはならない。星形成過程は、スケールにして百万倍も収縮する過程であり、その密度変化のダイナミックレンジの大きさのため、輻射に対して透明な領域と不透明な領域が、時間的にも空間的にも混在する過程である。そのため正確な取り扱いが困難であった。この様に、従来は難しさのため近似的取り扱いでしか解析されていなかった輻射輸送問題に、論文提出者は挑戦し、星形成時に於ける様々なステージのスペクトルを明らかにすることに成功した。 本研究の特色は、以下の通りである。 1.振動数に依存した輻射輸送過程を考慮した流体力学問題を解くことにより、星形成の進化過程を追跡したこと。従来までの他の研究は、輻射輸送過程を無視したり、考慮していても力学的には矛盾ある構造での取り扱いでしかなかった。 2.研究成果が、観測と直接比較可能であること。すなわち、空間構造とスペクトル構造が同時に初期値問題の結果として得られるので、様々なステージにある原始星やTタウリ型星の観測と比較可能で、そこから詳細な物理状態が把握可能となる。 特に振動数依存も厳密に解いたことにより、本論文では、次のような新たな成果が得られた。 1.重力収縮中の星間ガス雲が、どの時点から断熱的に温度上昇が始まるかの理論を構築できた。 2.また、原始星の形成過程に於けるスペクトル進化の計算も行い、クラス0天体と分類されるものの物理的状態を明らかにした。 3.原始星の光度進化過程の解析から、観測と矛盾しない星形成の初期物理状態について論じた。 4.さらに、原始星の分子スペクトルの形状を理論的に求めることに成功し、電波観測から得られるスペクトルから原始星の進化段階を解析する手法を与えた。 5.計算結果から、原始星形成過程の全体的な物理的シナリオを構築することに成功した。 以上のように、論文提出者の行なった星形成過程の解析は、輻射輸送の振動数に対する依存性を考慮したものとしては初めてのものであり、その成果は高く評価できる。 なお、本論文の第四章の内容は、観山正見、犬塚修一郎氏と共著論文の形で、付録の一部の内容は、犬塚修一郎氏との共著論文の形で、既に学術論文に公表されているが、論文提出者が主体となって分析及び解析を行ったもので、論文提出者の寄与は十分であると判断できる。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |