太陽表面から流出している希薄なプラズマ流、太陽風はマッハ数にして5〜10の超音速流であるため、地球の固有磁場との相互作用によってbowshockと呼ばれる定在衝撃波面を形成し、地球磁気圏はその内部に包含される状態で存在している。その巨視的、静的な構造は30年余り前から本格的に始まった地球周辺環境の衛星観測によって精密化されてきている。一方、太陽風中にはアルフベン波やMHD各不連続面、惑星間空間衝撃波といった擾乱が伝播してきていることも1AU近傍において高い頻度で観測されている。こうした擾乱が与えられたとき、bowshockやその下流域のmagnetosheathの構造は動的な変動を受けるはずであるが、衛星は局地点観測となるために観測データからの同定は困難であり、またこれまでは衛星軌道による制約から地球近傍領域でしか統計的な性質などは議論されてこなかった。本研究では、磁気圏尾部の側面領域におけるbowshock観測の統計的な解析がGEOTAIL衛星によって初めて可能となったので、bowshock構造を決定しているパラメータ(法線ベクトルと波面速度)のデータセットを作成し、そこで見いだせる性質から逆に太陽風変動とbow shockの動的構造との関連性を指摘することに成功した。 本論文ではまず、太陽風中の擾乱がbowshockに入射した際に見られるはずである現象を予測するための数値シミュレーションを行った。Bow shockの一般的な性質を調べることが目的なのでここでは最も頻度の高い回転不連続面の入射を特に取り上げた。一般にMHD衝撃波に上流から擾乱が与えられたとき、そのエネルギーはMHD各基本モード(速進、中間、遅進)の波を下流側に励起することがリーマン問題として知られている。今回のシミュレーション結果では、確かに各基本モードが発生し、それぞれの位相速度の違いから時間とともに分裂しながら下流領域を伝播していることが確認できた(図1)。またこれらのモードは定常解として衝撃・膨張波や不連続面の形で伝わっていく。この際、前進・後進2枚の(遅進+中間)衝撃波に挟まれた領域が形成され、それぞれの衝撃波の静止座標系で見るとこの領域が両方の衝撃波において下流に相当するので、そこだけ密度(とその変動に応じた圧力)が高くなっている。この構造は圧力パルスとして最終的にmagnetopauseと衝突して、地磁気の揺動を与えることが予想されている。更に、この密度上昇領域では磁場の大きさは逆に減少していることも見い出された。これはMHDの遅進モードの特徴である反磁性効果を示しているもので、全圧力(熱+磁気)のバランスは領域内で常に一定に保たれている。この密度-磁場の反相関構造はmagnetosheath内で頻繁に観測される現象であり、その生成要因については、プラズマの温度非等方性によるミラー不安定なども指摘されている。実際ハイブリッド法によるシミュレーションを行ってみたところ、MHDの場合と同様の構造が下流側で発達していくことが示されたが、ここでは2枚の衝撃波面が境界を成しているというより、磁場の回転成分の影響で温度非等方性が急速に解消されている領域であることが示された。これは粒子の運動効果に基づくものであり、観測でもそれを示唆するような例が得られている。流体的性質と粒子運動との差異など、太陽風とmagnetosheath構造の関連性を考察する上で今後、より大規模な計算を行うことを計画している。 図1:1次元MHDシミュレーションの結果による、回転不連続面と衝撃波の相互作用から生じる密度プロファイルの伝播。点線はMHD各基本モードを表す。 ただし数値結果というのはあくまでも理想的かつ制限された環境下の物理過程を記述しているに過ぎない。一方現実に観測される現象は複雑であり、観測で見い出された性質の解釈として還元されていく要素の一部として、こうした結果は利用されてなければならない。そこで次に、GEOTAIL衛星のデータ解析を通じてbow shock運動の一般的性質を見い出し、これを誘起する太陽風変動の効果について、上記シミュレーション結果と合わせた検証を行った。Bowshockは、その巨視的、静的な構造は衛星観測が始まって以来かなり精密化されてきた。動的構造の考察に関しては、平均的な速度として数10km/s、またときには100km/sを超えるほど、shock面はダイナミカルに変動していることが統計的に調べられてきた。またこのような運動は太陽風のマッハ数が非常に低い(1〜3)か、強い密度不連続を伴うような構造との相互作用によって引き起されるというモデルも提唱されている。しかしこれらの研究は、shock面の運動や相互作用など全て1次元性の下での議論であって、一方bowshockの側面部はnose領域に比べて法線方向の変動が大きく、1次元性の適用に修正を加える必要がある。また衛星データから見いだせる情報の限界などから、波面の形状と運動の方向・速度との関連性など、未だ不明な点が多い。今回はGEOTAIL衛星の観測データに基づいて、以上の性質を見い出し、bowshockの運動が持つ物理的な効果を考察した。 GEOTAIL衛星が1994年2〜6月にかけてbowshock面の近くを通る軌道を取り(図2)、その間に衝撃波を横切った68例の観測データに関して、法線ベクトル・速度といったパラメータを算出した。この軌道特性によって、今回初めてbow shock側面部の動的構造をsystematicに解析することが可能となった。図3はその内の1日間における衝撃波パラメータの分布をプロットしたものである。これを見て明らかなように、波面の速度・方向とそれに対応する法線ベクトル、つまり衝撃波面の形状との間に非常に密接な関係があることがわかる。観測された波面が太陽風に対して平行に近い(が大)と膨張し、垂直に近い(が小)とmagnetosheath側に押し込まれていることが示される(図4)。Bow shockが運動する方向と速度が衝撃波面の法線方向と相関を持つことは、これまでにLpidiら(1996)も同様の結果を導いていたが、彼らの定性的な評価に対し、本研究では運動を誘起するモデルの構築を試みた。 図2:GEOTAIL衛星の軌道(1994/02〜06)とshock crossing観測位置(白丸)。実線は平衡状態にあるbow shock(Fairfield(’71)による)。図3:衝撃波速度法線ベクトルの方向との関係(黒丸は個々の観測データ、点線は観測された地における太陽風速度とbow shockモデルから算出されたの値による式(1)を表す)。図4:Bow shockの法線ベクトルと面速度の方向との関係 衝撃波の運動を引き起すには太陽風側に何らかの擾乱が存在しなければならないが、Vshockとcosの間に常に強い線形関係が見られることから、もっとも一般的な擾乱としてAlfvenicな変動、つまり磁場の方向のみが変動するような構造との相互作用がshock面を動かすと仮定した。Rankine-Hugoniotの関係式から求めた下流の物理量に関して、相互作用前後において次の二つの条件を科してVshockとcosの解の組合せを求めていった。これまでの1次元性の理論では、擾乱が衝撃波とぶつかると、波面の振動に加えてMHD波動の各基本モードが励起され、それぞれ衝撃・膨張波や不連続面として下流を伝わっていくとされていた。今回のモデルでは、こうした従来のプロセスに加えて波面の変形という効果を取り入れ、その結果下流側の全圧力(熱+磁気)は一定に保たれるとした。実際、数値シミュレーション結果でも、回転不連続面(磁場の方向のみが変化)が衝撃波に入射した際、全圧力はほぼ不変であることが示されているので、これは妥当な仮定とみなせる。またtail-flank領域では流れの速度はshockに対し接線成分が卓越しているため、プラズマは平行に流れていくとした。以上の条件を元に、磁場の方向を様々に変化させて解を求めていくと図5のようになり、観測結果と同様の線形関係が得られた。この関係は、 と近似することができる(0は平衡状態にあるbow shockの形、Vswは上流の太陽風速度)。これは衝撃波静止系で見た流れの速度の法線成分が常に一定であることを示しており、bow shock運動とは上流の変動に応じて一定量の太陽風フラックスを取り込むよう調整しているプロセスであるということができる。 図5:モデル計算の結果 以上まとめとして、従来検討される機会がほとんどなかったtail-flank領域のbow shock構造、特にその運動と波面の形状との関連性について、GEOTAIL衛星のデータを用いて初めて統計的な解析を行った。その結果、bow shockの膨張・収縮運動における速度は、平衡状態の形状に比べて法線ベクトルのずれが大きいほど速くなるという一般的な性質を見い出した。この形状のずれは、上流からの変動の入射に対し下流側が熱的に不変となるように生じているということをモデル計算で示し、この効果を衝撃波相互作用における新たな物理プロセスとして提唱した。今後は更にパラメータ依存性などの研究を数値シミュレーションで進め、最終的にmagnetosheath構造全体の、太陽風擾乱に対する反応を明らかにしていくことが期待できる。 |