本論文は将来の惑星探査で重要な役割を果たすと考えられるハードランダー型惑星探査装置ペネトレータに搭載される小型、高耐衝撃性をもつ加速度計測システムの開発とその計測システムを使って得られる惑星表層の力学的性質の推定方法を論じたものである。ペネトレータとは小型の槍型プローブに観測機器を搭載したもので、1回の惑星ミッションで複数の観測点を惑星表面に設置できる可能性をもっていることから、探査機システムの小型・軽量化が要求される将来の惑星探査において重要な観測手段と位置づけられるものである。本研究の主題であるペネトレータ搭載の加速度計測システムはペネトレータ本体の貫入ダイナミクスを明らかにする上で必須であり、これらから得られたデータはペネトレータ本体の構造設計、観測機器設計にも大きな寄与をなしたものである。 本論文の構成は7章からなり、第1章では本研究全体の科学的意義、第2章では本研究の主要な目標のミッションである月探査ミッションLUNAR-Aの概要、第3章では小型ペネトレータの貫入実験の方法と結果、第4章では衝撃加速度計測システムの開発における技術的解決、第5章ではLUNAR-Aペネトレータの実機貫入試験の方法と結果、第6章ではLUNAR-Aペネトレータ搭載の衝撃加速度計測のシステムと計測シーケンスの概要、第7章ではペネトレータの月レゴリス中での貫入ダイナミクスとそれから得られるレゴリスの力学的性質推定方法について述べられている。 ペネトレータ搭載の加速度計測システムを開発する上で最大の技術上の課題は、その計測が惑星表層への貫入時に行われるため、センサー系と計測回路系が通電状態で、10000Gに達する大きな衝撃下で実行されることである。したがって貫入衝撃を模擬した環境下で計測システムの機能・性能評価をいかにして行うかが開発のポイントとなる。本研究では直径50mmの小型ペネトレータの衝突貫入試験装置を主体として、センサーの性能評価・選定や計測回路系の耐衝撃性を評価する試験システムを開発した。この試験システムを使った多数回の実験により、小型・軽量・省電力化された計測回路と10000Gに達する衝撃から回路系を保護する実装方法について改良を重ね、最終的に月探査ミッションLUNAR-Aに搭載可能な加速度計システムを開発することに成功した。 このシステムをLUNAR-Aミッションの実機サイズのペネトレータに搭載し、実機と同等な貫入条件においてその計測系が正しく機能することを確かめた上、さらにペネトレータの月面における貫入ダイナミクスの考察した。その結果は実機ペネトレータの荷重条件をもとに構造設計をおこなう際の基礎として使われた。 本研究で開発されたペネトレータ搭載の加速度計測システムは、惑星表層にペネトレータが貫入する際にペネトレータが受ける動的な抵抗力を測定するものであるので、その記録には惑星表層の物理的性質を反映した情報が含まれている。本論文の最終章では、この加速度記録からいかにして惑星表層の物理的性質を読み取るかについての新しい手法が提案されている。この手法の有効性についても実験により、実際と記録の解析から推定されるものとの比較が行われ、月・惑星表層(深さ数mまでの範囲で)の構造について新しい知見が得られることを示している。 本論文は以上のように、将来の惑星探査において重要な役割を果たすと考えられるペネトレータ搭載用加速度計測システムの開発とそこから得られるデータの解析方法について詳細に記述したものであり、地球惑星物理学に大きな寄与をなすものである。 なお本論文の第3章、第5章の実験部分は宇宙科学研究所ペネトレータ研究班の開発研究の一部として実施されたものであり、第5章の貫入ダイナミクスシミュレーションについては東京大学大学院工学系研究科の鈴木宏次郎助教授との共同研究であるが、本論文で記述された部分は論文提出者が主体となって準備、実施、解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |