本論文は3章からなり、第1章は海底火山活動のモニタリング、第2章は水中音波による海底火山活動の検出、第3章は水中カップリング地震波を用いた特異な海底地殻活動の検出、について述べられている。 第1章では、海中音波の解析によって海底火山活動を検知する方法について論じている。海洋では海水の鉛直温度構造から水深が1000m付近は音波の低速度層(SOFAR channel)となるため、波は減衰することなく長距離を伝播する。このチャンネル波をT-waveという。本論文では房総沖・東海沖・三陸沖の3海底地震観測網のデータを解析し、検出されたT-waveから海底火山活動の検出を試みた。本論文では、気象庁による東海沖4点(深度:2202m,1542m,817m,722m)、房総沖4点(深度:4011m,2090m,1898m,658m)、東京大学地震研究所・東北大学理学部による三陸沖3点(深度:2480m,1840m,1057m)、の海底地震観測アレイ記録を用い、T-waveを励起したそれぞれのイベントの震源を求めた。その結果、伊豆・小笠原弧における海底火山活動が推定され、その位置は、海上保安庁水路部および海上自衛隊の航空機により確認された変色水域にほぼ一致した。活発な活動であった「福徳岡の場」の活動で際励起されたT-waveの波群はその継続時間が十分の数秒のパルス波の集合であることが始めて示された。 第2章では、水中音波によって海底火山活動を検出し、これまでに知られていなかった特異なT-waveの励起をマグマの上昇と結び付ける議論を行った。1996年9月5日に発生した鳥島地震(Mw=5.8,深さ12km)は非ダブルカップル成分が卓越する特異な地震であった。本論文ではこの1996年の鳥島地震について、陸上観測網に併せて海底地震観測記録を解析し、海底火山活動に伴うT-waveと類似のT-waveがこの地震の後続波として励起されていることを見い出し、そのメカニズムを議論した。また、観測点の設置点の水深とT-waveの導波管伝播の特性から、T-waveの震源の上昇を推定した。海底ケーブルによる地震観測で、海底地殻活動の特異なイベントを検出することができることが示された。 第3章では、水中カップリング地震波を用いた特異な海底地殻活動の検出について議論されている。房総沖の海底地震計の記録を解析すると、見かけ速度の極めて遅い波群が頻繁に励起されている。これらの波群の顕著な特徴は、(1)群発的である、(2)海底地震計にのみ検出される、(3)見かけ速度は1.3-1.4km/sである、(4)上下動成分に卓越する、(5)高周波の波である。T-waveとは(2)、(3)の点で特徴を異にする。この波とP波との到来時刻差より励起源が求められ、3重会合点付近の陸側斜面の、いわゆるTrench slope breakと呼ばれる場所で集中的に発生していることが示された。 波の励起源を調べるために2次元差分法を用いて理論波形を求め、観測波形と比較して議論した。震源が(1)堆積層内と(2)基盤内とにある場合を考え、(1)の場合にのみ、注目している波群が上下動成分で励起され、水平動にはほとんど励起されないことを示した。また、P波とその波群の見かけ速度は6.25km/sおよび1.35km/secであり、これらの特徴は、観測事実をよく説明している。従来応力集中の起こりにくいと考えられていた堆積層内、あるいは堆積層に突き出た基盤内において地震が起きていることが示唆された。ノーマルモード理論を用いて調べたたところ、注目している波群は海水層と堆積層とがカップリングした波であり、同じ群速度で伝播するため大きな波群となることが示された。このような波の存在は1930年代後半から理論的には予測されていたが、これまでに観測された例はなく本論文が初めてである。本論文ではこの波を"Ocean-coupled shear wave"と名付けた。即ち、基盤のごく浅いところで発生した地震が堆積層に"Ocean-coupled shear wave"を励起して、これが伝播したものであると解釈できる。震源域は、表層だけれはなく基盤も盛り上がっているところであり、断層活動が活発な地域である。 これらの研究により、論文提出者は、水中音波および水中カップリング地震波による特異な海底地殻現象の検出について従来の研究では知り得なかった新しい知見を得たので、本論文は学位論文として価値あるものと認める。 したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。 |