本論文は7章からなり、第1章は、序説、第2章は、吸収スペクトルの測定と解析、第3章はコバルトクラスターイオン、第4章はバナジウムクラスターイオン、第5章はマンガンクラスターイオン、第6章では銀4量体イオン、そして第7章で研究のまとめが述べられている。 第1章は、序説として、遷移金属クラスターイオンの電子構造と幾何構造の関連を解明するという研究の目的を掲げ、さらに研究方法について概要を述べている。特に、赤外から紫外領域にわたる吸収スペクトルの高感度測定が光解離分光法によって可能となること、そして、スペクトルを密度汎関数法による理論シュミレーションと比較することが金属クラスターの電子構造と幾何構造の関連を明らかにするために極めて有効であることが述べられている。 第2章では、まず、吸収スペクトル測定の際の実験方法が具体的に述べられている。論文提出者は、金属クラスターイオンにArを付着させたArに可視から赤外の領域のレーザー光を照射し、その波長を掃引しつつ、Arの脱離に伴って生成するを検出することによって、吸収スペクトルに相当する光解離スペクトルを測定している。このようにして求めた吸収スペクトルをスピン分極DV-X法による計算スペクトルと比較し、光解離スペクトルを最もよく再現する幾何構造を探索している。 第3章〜第6章では、コバルトクラスターイオン、バナジウムクラスターイオン、マンガンクラスターイオン、銀4量体イオンについて、光解離効率の波長依存性を利用した吸収スペクトルの測定とスピン分極DV-X法による計算により電子構造と幾何構造の解明を試みている。 コバルトクラスターイオン()の幾何構造が3量体については正三角形型、4量体については正四面体型、5量体については四角錘型であることを推定している。また、バナジウムクラスターイオン()では、3量体は直線型、4量体は、ゆがんだ四面体、5量子体は三辺両錐型であると推定している。また、マンガンクラスターの4量体()では、スペクトルの線幅の広がりが幾何構造のゆらぎを反映したものであることを推論している。 第7章では、遷移金属クラスターイオンの吸収スペクトルに相当する光解離スペクトルの測定と理論計算によるスペクトルのシミュレーションによって幾何構造と磁性や反応性の関連について考察した結果をまとめている。論文提出者は、特に、d電子の数に着目し、コバルト、バナジウム、マンガン、および銀クラスターイオンの幾何構造が少数スピンを持つ軌道における電子の占有率によって大きく影響を受けることを研究の成果として強調している。 以上、論文提出者の遷移金属クラスターイオンの電子構造と幾何構造に関する研究は、独創性が高いものと認められる。なお、本論文第3章は、寺嵜享、近藤保との共同研究、第4章は、高橋和敬、松本淳、井本英夫、寺嵜享、近藤保、第5章は、寺嵜享、近藤保、第6章は、伊勢田正子、寺嵜享、近藤保との共同研究によるものであるが、いずれの場合にも、論文提出者が主体となって実験および解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、審査委員会は、論文提出者峯本紳一郎に博士(理学)を授与できると認める。 |