学位論文要旨



No 114125
著者(漢字) 中林,一美
著者(英字)
著者(カナ) ナカバヤシ,カズミ
標題(和) シロイヌナズナのClpプロテアーゼ遺伝子群の解析と葉緑体の老化への関わりに関する研究
標題(洋) Studies on the genes for Clp protease and their possible involvement in chloroplast senescence in Arabidopsis.
報告番号 114125
報告番号 甲14125
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第3614号
研究科 理学系研究科
専攻 生物科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡邊,昭
 東京大学 教授 福田,裕穂
 東京大学 教授 内宮,博文
 東京大学 助教授 高橋,陽介
 理化学研究所 主任研究員 篠崎,一雄
内容要旨

 大腸菌で基質特異性の高いプロテアーゼとして知られるClpプロテアーゼは調節サブユニットと、触媒サブユニットがヘテロ会合体を構成している(図1)。植物では調節サブユニット遺伝子が核に、触媒サブユニット遺伝子が葉緑体ゲノムにコードされていることが知られており、葉緑体のタンパク質分解の一翼を担っていることが推定されている。しかし、どのような分子種が存在するのか、どのような制御のもとでどのような基質を分解しているのか、またその生理的な役割についての詳細な知見は乏しい。そこで、本研究ではシロイヌナズナを用いてClpプロテアーゼに関連する遺伝子群の単離、およびそれらの構造および発現の解析を行い、Clpプロテアーゼが葉緑体の老化過程に関与している可能性について推察した。

1.シロイヌナズナにおけるClpプロテアーゼサブユニット遺伝子の単離および構造解析

 植物におけるClpプロテアーゼの機能を解析する第一段階としてシロイヌナズナのClpプロテアーゼ遺伝子群のcDNAの単離と構造解析を試みた。

 シロイヌナズナのESTデータベース上に、既に単離されているerd1とは異なる調節サブユニットに類似した塩基配列が存在した。その配列をプローブに用いて、cDNAライブラリーからトマトなどで報告されていたclpCに相同性を持つ全長のcDNAを単離し、AtclpCと命名した。AtclpCはアミノ酸レベルで他の植物種のClpCと85%程度の高い相同性を示し、ERD1との全長における相同性は45%であったが、調節サブユニットの保存領域では70%と高い相同性を示した。このことは、大腸菌などで報告があるように高等植物にも複数の調節サブユニットのタイプが存在することを示している。

 イネclpP断片を用いてシロイヌナズナの葉緑体ゲノムにコードされた196アミノ酸をコードするclpP遺伝子を単離した。さらに、clpP遺伝子に相同性を示す核にコードされた5種のEST cDNA断片をデータベース上から検索した。それらのクローンをABRC(Arabidopsis Biological Resource Center)から分与を受け、cDNAライブラリーのスクリーニング、あるいは5’-RACE法によってこれらのほぼ全長のcDNAを単離し、塩基配列を決定した。これらの遺伝子をnclpP1(nuclear clpP)からnclpP5、その後新たにデータベースに登録された全長のcDNAをnclpP6とし解析に使用した。全てのnClpPのN末に、葉緑体ゲノムにコードされたpClpP(plastid ClpP)には見られないトランジットペプチド様の配列が存在した(図2)。シロイヌナズナにおける7種の遺伝子産物間の相同性はそれぞれ高くても50%程度であったが、既知のClpPに保存された領域では約75%の相同性を示した。現在までに、複数のclpP遺伝子が確認されている種の中では、ゲノムの全塩基配列が決定したSynechocystis sp.PCC6803に報告された4種の遺伝子が最多である。シロイヌナズナに少なくとも7種のclpP遺伝子が存在することは、高等植物の葉緑体においては大腸菌やラン藻などと比較して非常に複雑な系が働いている可能性があることを示唆している。

2.Clpプロテアーゼサブユニットの葉緑体への局在とヘテロ会合体の検出

 核コードのサブユニットが葉緑体内で合成されるpClpPと会合してClpプロテアーゼとして機能するためには葉緑体に局在する必要がある。シロイヌナズナの無傷葉緑体から分画したストロマ画分とチラコイド画分を用いてウェスタンブロット解析を行った結果、AtClpC、ERD1、pClpP全てが主にストロマ画分に存在することが明らかとなった(図3)。さらに、[35S]メチオニンでラベルしたnclpP5の遺伝子産物の単離葉緑体への輸送実験を行ったところ、in vitroで翻訳された43.5kDaの分子量を持つ産物が、輸送反応後にはストロマに35.5kDaの大きさで存在することが確認された(図4)。この結果、nClpP5も葉緑体のストロマに局在しうることが明らかとなった。

 Shanklinら(1995)は、タバコのpClpPが大腸菌のClpPと同様のペプチダーゼ活性を持つこと、またエンドウのClpCが大腸菌のClpPのプロテアーゼ活性をATP依存的に促進することを示した。これらの結果は、植物のClpサブユニットそれぞれが大腸菌のClpの機能的ホモログであることを示している。しかし、大腸菌の調節サブユニットのみの会合体は分子シャペロンとして機能することが知られておりプロテアーゼとしての機能は、調節および触媒サブユニットの会合に依存している。そこで、植物においてClpが巨大会合体を形成しているかどうかを調べるため、Brassica rapa L.の緑葉の可溶性画分をショ糖密度勾配遠心によって分画しウェスタンブロット解析を行った。それぞれのサブユニットは、主に22番以降の軽い画分に含まれていたが、AtClpC、ERD1、pClpPのすべてが含まれている画分16、17が存在した(図5)。これらの画分には、Rubisco(18S,c.a.550kDa)より大きな分子が含まれており、調節あるいは触媒サブユニットのみの会合体ではこの大きさを説明することが出来ないため、AtClpCやERD1という調節サブユニットが触媒サブユニットのpClpPと会合体を形成している可能性が示唆された。さらに、それぞれのサブユニットに対する抗血清を用いて、in vitroでラベルしたnClpP5と葉の可溶性画分を混和した後に免疫沈降を行った結果、nClpP5がAtClpCとERD1に対する抗体で共沈した(図6)。この結果は、nClpP5が試験管内で調節サブユニットと相互作用を持つことを示しており、葉緑体内においても両サブユニットが共存すれば会合しうることを示している。

3.老化におけるClpプロテアーゼ遺伝子の発現解析

 老化という現象は、単なる衰退ではなく様々な酵素や遺伝子が積極的に関わる過程であり、細胞内タンパク質の分解やクロロフィルの喪失などが高度に制御されながら進行すると考えられているまた葉緑体は老化の最終段階までその限界膜を保っており、そのタンパク質の分解は葉緑体内部で進行すると考えられている。老化現象で見られるタンパク質の分解にClpプロテアーゼが関与している可能性を探るため、clp遺伝子のロゼット葉の老化における発現を解析した。暗処理による人為的老化において、AtclpCは暗処理の時間が長くなるにつれて発現量が低下した(図7)。しかし、細胞内に蓄積するタンパク質量は、長時間の暗処理によってわずかに減少するものの、その変動は転写産物量のものほど大きくないことが特異抗体を用いた解析によって明らかとなった(図8)。erd1遺伝子産物の蓄積量については、転写産物の蓄積量の変化と一致した増加が確認された(図7、8)。pclpPでは72時間の暗処理において転写産物および遺伝子産物の蓄積量に大きな変動は見られなかった(図7、8)。また触媒サブユニットの核遺伝子のうち、nclpP5の転写産物の蓄積量が暗処理初期に減少し、その後処理時間が長くなるにつれ増加することが明らかとなった(図7)。以上の解析からERD1、pClpPおよびnClpP5が暗処理に対する応答に関わっている可能性が示唆された。

 次にロゼット葉を成長と老化の進行の程度によって4段階に分類し、自然老化におけるclp遺伝子の発現解析を行った。erd1は自然老化においても非常に高い発現を示した(図9)。さらにAtclpCも老化後期に転写産物の蓄積量が増加したが(図9)、AtclpC遺伝子産物の蓄積量は、老化のステージが進むにつれて徐々に減少した(図10)。また、非常に高い発現を示したerd1の遺伝子産物は、成熟葉から老化初期にかけて量が増加することが明らかとなった(図10)。一方、pClpPは老化後期までほぼ一定レベルで存在していた(図10)。また、長期の暗処理によって転写産物の蓄積量が増加したnclpP5のほかにnclpP3が老化後期に発現が上昇することが認められた(図9)。以上の発現解析の結果、AtClpC/pClpP、ERD1/pClpP、AtClpC/nClpP5、ERD1/nClpP5などのClpプロテアーゼが葉緑体の老化が進行するときにおこるタンパク質分解に関与する可能性が示唆された。nClpP3の局在はまだ明らかではないが、N末に存在するトランジットペプチド様の配列から葉緑体に局在すると推定すると、nClpP3が調節サブユニットと会合して葉緑体の老化におけるタンパク質の分解に関わっている可能性も考えられる。

まとめ

 シロイヌナズナには、複数の調節サブユニット遺伝子が存在すること、また触媒サブユニット遺伝子として葉緑体ゲノムにコードされたpClpPの他に少なくとも6種の核遺伝子が存在することが明らかとなった。また、2種類の調節サブユニットとpClpPおよび核コードの触媒サブユニットnClpP5が、葉緑体のストロマに存在し、会合体を形成している可能性が示唆され、さらにこれらのClpプロテアーゼが葉緑体の老化に関与している可能性が示唆された。

 今後、これらのサブユニットについて活性を調べ、基質特異性を明らかにすることによって、葉緑体の老化に伴うタンパク質分解におけるClpプロテアーゼの役割が明らかになっていくと考えられる。

図1 Clpプロテアーゼの構造の模式図ATPase活性を持つ調節サブユニットのヘキサマーがペプチダーゼ活性を持つ触媒サブユニットの14merと会合することにより、プロテアーゼ活性を有するようになる。大腸菌では調節サブユニットが片側だけに存在するものと、両側に存在するものが報告されている。図2 シロイヌナズナpClpP、イネpClpP(OspClpP)、およびシロイヌナズナnClpP5のアミノ酸配列の比較同一アミノ酸を反転文字で、生物学的に類似したアミノ酸を網掛け文字で示した。図3 Clpサブユニットの葉緑体ストロマへの局在シロイヌナズナの成熟および老化初期のステージのロゼット葉から無傷葉緑体を単離し、ストロマとチラコイド膜画分を調製した。コントロールとして48時間の暗処理を施したサンプルの可溶性画分とともにウェスタンブロット解析を行った。総可溶性画分(S)は1レーンあたり5g、ストロマ(St)、およびチラコイド膜(Thy)画分は10gクロロフィルに相当するタンパク質を用いた。A:抗AtClpC抗体、B:抗ERD1抗体、C:抗pClpP抗体。図4 アラスカエンドウの単離葉緑体を用いたnClpP5の輸送実験[35S]メチオニンを用いてin vitroで翻訳したnClpP5タンパクをアラスカエンドウの無傷葉緑体とインキュベートした後、サーモライシンで処理し、葉緑体外部のタンパク質を分解した。葉緑体を低張処理によって破壊して得られたストロマとチラコイド膜画分をSDS-PAGEにより分画し、オートラジオグラフィーにより解析した。Pr:nclpP5の翻訳産物、S:ストロマ画分、Thy:チラコイド膜画分。図5 Clpプロテアーゼの調節、および触媒サブユニットのヘテロ会合体の検出Brassica rapaの葉から調製した可溶性画分をショ糖密度勾配遠心法により分画した。各画分に含まれるClpプロテアーゼサブユニットをウェスタンブロット解析により検出した。矢印は、画分16および17を示す。図6 免疫沈降実験によるClpサブユニットの会合の検出[35S]メチオニンラベルしたAtClpC.ERD1およびnClpP5をBrassica rapaの葉の可溶性画分と混和し、抗AtClpC、抗ERD1.抗pClpP抗体を用いて免疫沈降を行った。AtClpC,ERD1およびnClpP5についてはラジオルミノグラム、pClpPについてはウェスタンブロット解析の結果を示した。抗AtClpCの免疫前血清を用いた結果をコントロールの一例として示した。図7 暗処理によるシロイヌナズナclp遺伝子の発現量の変化16時間明期、8時間暗期で20日間育てたシロイヌナズナを暗所に移し、経時的にロゼット葉を収穫してRNAを調製した。1レーンあたり10gのRNAを用いてノーザンブロット解析を行った。矢印はpclpPの成熟転写産物を示す。DARKは暗処理を施したサンプルを示し、LIGHTは通常の明暗条件下においたコントロールを示す。数字は処理期間(時間)を示す。図8 暗処理によるシロイヌナズナclp遺伝子産物の蓄積量の変化図7と同様に暗処理を施した植物のロゼット葉から可溶性タンパク質を調製した。1レーンあたり10gのサンプルをSDS-PAGEに供しそれぞれの抗体によりウェスタンブロット解析を行った。DARKは暗処理を施したサンプルを示し、LIGHTは通常の明暗条件下においたコントロールを示す。数字は処理期間(時間)を示す。図9 緑葉の成長と自然老化に伴ったclp遺伝子の発現量の変化緑葉の成長の段階を4段階に分類し、各ステージのロゼット葉から抽出したRNA(10g)を用いて、ノーザンブロット解析を行った。各成長の段階は以下のように分類した。Y(young):未成熟葉、M(mature):成熟葉、ES(early senescence):葉面積の5-50%程度の黄色化が見られる葉、LS(late senescence):葉面積の50%以上で黄色化の見られる葉。矢印はpclpPの成熟転写産物を示す。図10 緑葉の成長と自然老化に伴ったclp遺伝子産物の蓄積量の変化ロゼット葉の成長段階を図9と同様に分類し、各ステージのロゼット葉から可溶性タンパク質を調製した。1レーンあたり生重量約1.6mgのロゼット葉に含まれるタンパク質をSDS-PAGEにより分画しそれぞれの抗体によりウェスタンブロット解析を行った。A:抗AtClpC抗体、B:抗ERD1抗体、C:抗pClpP抗体。
審査要旨

 本研究は3章からなり、第1章はシロイヌナズナのClpプロテアーゼ遺伝子群のcDNAの単離とそれらの構造解析、第2章はClpプロテアーゼの各サブユニットの葉緑体への局在とヘテロ会合体の形成、第3章は葉緑体の老化におけるClpプロテアーゼ遺伝子群の発現解析について述べられている。

 大腸菌で基質特異性の高いプロテアーゼとして知られるClpプロテアーゼは調節サブユニットと、触媒サブユニットがヘテロ会合体を構成している。植物では調節サブユニット遺伝子が核に、触媒サブユニット遺伝子が葉緑体ゲノムにコードされていることが知られており、葉緑体のタンパク質分解の一翼を担っていることが推定されていた。しかし、どのような分子種が存在するのか、どのような制御のもとでどのような基質を分解しているのか、またその生理的な役割についての詳細な知見は乏しかった。

 植物におけるClpプロテアーゼの分子機構、および機能を解析する第一段階として、本論文提出者はシロイヌナズナを材料に以下の研究を行った。まず、ESTデータベースを利用し、cDNAライブラリーをスクリーニングすることによって、調節サブユニットをコードする新規Clpプロテアーゼ遺伝子AtclpCのcDNAを単離した。既知の調節サブユニット遺伝子erd1との相同性解析から、AtClpCはERD1とは異なるサブファミリーに属する調節サブユニットであることを示した。さらに、葉緑体ゲノムにコードされた触媒サブユニット遺伝子pclpPに加えて、触媒サブユニットをコードする新たな核遺伝子に対する5種のcDNA(nclpP1-5)を単離した。これらの核遺伝子産物にはN末に延長配列が存在すること、また約75%程度の高い相同性を示す保存領域が存在することから、これらがオルガネラで機能するClpPであることを推定した。また大腸菌では、調節サブユニットの多様性がプロテアーゼの基質選択性に寄与することが示されている。そのためシロイヌナズナにおいて、調節サブユニットのみならず、触媒サブユニットにも多様性が見られたことから、高等植物の葉緑体においては、大腸菌やラン藻と比較して非常に複雑なClpプロテアーゼの系が働いている可能性を示した。

 次に、Clpサブユニットが葉緑体内で活性を持つプロテアーゼとして機能しうることを検証した。シロイヌナズナの単離葉緑体を用いて、Clp調節サブユニットがストロマに存在していることを明らかにした。また、単離葉緑体を用いた輸送実験により、核コードの触媒サブユニットのひとつnClpP5もストロマに存在することを明らかにした。さらに、これらのサブユニットが活性を持つ巨大ヘテロ会合体を形成しうるかを解析した。ショ糖密度勾配遠心によって葉の可溶性画分を分画したところ、沈降係数が18SであるRubiscoより大きな分子を含む画分の中に、調節サブユニットAtClpCおよびERD1、触媒サブユニットpClpPのすべてが含まれる画分が存在した。さらに、免疫沈降実験によって、核コードの触媒サブユニットnClpP5も調節サブユニットAtClpCおよびERD1と相互作用を持つことを明らかにした。以上の結果は、葉緑体のストロマでClpプロテアーゼの調節サブユニットと触媒サブユニットが巨大ヘテロ会合体を形成している可能性を示唆するものである。また、エンドウのClpCやタバコのpClpPがそれぞれ大腸菌のClpAおよびClpPの機能的ホモログであるという報告と考え併せて、AtClpC、ERD1、pClpP、nClpP5が活性を持つプロテアーゼとして機能しうることを推察した。

 緑葉の老化現象は、細胞内タンパク質の大々的な分解やクロロフィルの喪失などが高度に制御されながら進行すると考えられている。この現象にClpプロテアーゼが関与している可能性を調べるため、これらのClp遺伝子の老化過程における発現を解析した。ノーザン解析、およびウェスタン解析により、植物体に暗処理を施し人為的に誘導した老化において、調節サブユニット遺伝子erd1の転写産物、および遺伝子産物の蓄積量が顕著に増加することを明らかにした。また、触媒サブユニットの中でpClpPが暗処理期間中一定量存在すること、およびnclpP5の転写産物の蓄積量が長期の暗処理によって増加することを明らかにした。これらの結果、長期の暗処理によって起こる生理的な変化に調節サブユニットERD1、および触媒サブユニットpClpP、nClpP5が関与している可能性を示唆した。

 また自然老化における各遺伝子の発現解析により、調節サブユニットのAtclpCとerd1、および触媒サブユニットのnclpP3とnclpP5の転写産物の蓄積量が老化の進行と共に増加することを明らかにした。触媒サブユニットpClpPについては、転写産物の蓄積量に大きな変化は見られなかったが、老化後期までタンパク質量が組織内に一定レベル存在していた。これらの結果から、調節サブユニットのAtClpCとERD1、触媒サブユニットのpClpP、nClpP3、nClpP5が自然老化過程において機能している可能性を示唆した。

 これらの研究を通じて、本論文提出者は、シロイヌナズナを用いたClpプロテアーゼに関連する遺伝子群の新規cDNAの単離、およびそれらの構造解析と免疫学的な解析により、各サブユニットが活性を持つプロテアーゼとして機能しうることを示し、さらに各遺伝子の発現解析により、Clpプロテアーゼが葉緑体の老化過程におこるタンパク質の分解に関与している可能性について推察した。なお、本論文の第1章は伊藤正樹、渡邊昭両氏、第2、3章は伊藤正樹、清末知宏、篠崎一雄、渡邊昭各氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。従って、博士(理学)を授与できると認める。

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