本申請論文は1983年に打ち上げられた赤外線天文衛星IRASの取得した大量の小惑星の観測データを使って各小惑星のアルベドと直径を求め,さらに小惑星表面の表面状態について論じたものである. 従来からIRASの観測に基づいて,2000個におよぶ小惑星のアルベドと直径をまとめたデータがカタログとして出されているが,それらのうちのごく少数の小惑星に対して,より正確な他の方法で求められた結果と値がかなり異なることが指摘されていた. 今回,申請者が行った解析の新しく,かつ重要な点は (1)小惑星の熱モデルとして典型的な3つのモデルを設定し,IRASの各波長帯で得られたフラックスと最もよく合うモデルを各小惑星ごとに決定したこと. (2)これにともなって上記の不一致を改善するために従来行っていた観測バンド補正をする必要がなくなったこと. である. 得られた主要な新しい結果は以下のとおりであった. (1)従来の不一致を改善できたことにより,今回の手法の正当性が立証できたこと. (2)従来のものに比べてアルベドは35%低く,直径は25%t高くなったこと. (3)しかし,従来のものとアルベド,直径の分布の傾向の大勢は変化のないことが確認されたこと. (4)小惑星の直径が小さくなるにつれ,表層物質が暖まりにくい熱モデルで説明できる小惑星の数の割合が増し,このことから小惑星の直径の減少にともなって表層の粒子サイズが増大することを示したこと. まずカタログは小惑星にかぎらず研究のもっとも基礎になる重要なもので,より優れたものへの改訂という観点から申請者の貢献が評価できる.さらにそれにとどまらず,上のように手法,結果ともに新しく,重要な成果が得られている.とくに上記(4)の結論は興味深く,最近のレーダー観測で得られている少数の小惑星の結果とも一致し,小さい小惑星の一般的性質として示唆できたことは評価に価する. なお,本論文は安部正真との共同研究であるが,論文提出者が主体となって分析および検証を行ったもので,論文提出者の寄与が十分であると判断する. したがって,博士(理学)の学位を授与できると認める. |