学位論文要旨



No 114160
著者(漢字) ロイ・ウダイ・クマール
著者(英字)
著者(カナ) ロイ・ウダイ・クマール
標題(和) 円錐形の山の後流中における平板片持ちばり模型の応答特性
標題(洋) Response characteristics of flat plate cantilever in the wake of a conical hill
報告番号 114160
報告番号 甲14160
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4286号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 木村,吉郎
 東京大学 教授 東原,紘道
 東京大学 教授 神田,順
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 講師 黄,光偉
内容要旨

 長大橋においては対風安定性を確保することが重要となるが,橋梁架設地点近傍の地形が複雑な場合には橋梁に作用する風の特性が影響を受けるため,対風安定性の検討も慎重に行なう必要がある.本州四国連絡橋公団によって行なわれた,周辺地形も再現した多々羅大橋の全橋模型実験においては,近傍にある山を越えてきた風が作用する風向において,極めて大きな水平応答ならびにスパイク状の鉛直応答が観測された.これらの特異な対風応答は,特に架設時において橋梁の安全性に関わる程大きなものとなるとともに,既往の応答解析によっては説明できないものであった.

 こうした特異な応答の発生メカニズムを明らかにすることを目的に,単純化した円錐形の山の模型の後流中における,架設時斜張橋張橋を単純化した平板片持ちばり模型の応答特性を検討した.

 まず,山模型の後流中では流れの特性が不均一になることを考慮した応答解析を行なった.解析結果は不均一性を考慮しない解析よりも実験結果を良く再現したが,解析ではスパイク状の応答を再現できない.山背後の流れにより生じる応答は,通常の解析で考慮されているのとは異なったメカニズムにより生じており,その解明のためにはそうした応答を生じさせる流れ場の特性を解明する必要があると考えられた.

 続いて,平板模型の設置位置や水平偏角を種々に変化させ,それらのパラメータが応答におよぼす影響について検討した.特にスパイク状の応答が観測された鉛直応答についていえば,平板模型の自由端が山模型の中心側にある場合には,自由端が風上に40度程度となるような水平偏角をもつ場合に応答が大きくなるのに対し,自由端が山模型とは反対側にある場合には,自由端が風下側となる水平偏角をもつ場合の方が応答が大きくなるといった系統的な影響が見られた.

 以下平板模型の鉛直応答に着目し,スパイク状の応答を生じさせる流れ場の特性を明らかにすることを試みた.まず,平板模型の1cm上流側の1点において測定された鉛直変動風速に基づいて,スパイク状の大きな模型応答の時刻歴応答解析を行ない,無次元化された応答の時刻歴の解析値を実験値と比較し,両者の整合性を調べた.模型の水平偏角が0度の場合は,解析値と実験値の対応はあまり良くなかった.この理由として,数cm程度離れた2点においても変動風速の時刻歴がかなり異なっているために,1点で測定された変動風速では模型の応答を十分には再現できないことが考えられる.一方模型の水平偏角を40度とした場合には,解析値と実験値の整合性がずっと良くなった.この理由として,スパイク状の応答を生じさせる鉛直変動風速の相関が,水平偏角が約40度程度の軸に沿って高くなっていることが推察された.

 そこでこの推察を検証するために,変動風速そのものの特性を詳細に検討した.鉛直変動風速の相関を,種々の水平偏角を持つ軸に沿って測定したところ,山の後流中ではコヒーレンスが水平偏角40度の軸に沿ってやや高くなることがわかった.さらに鉛直変動風速の大きなピークについて条件付きサンプリングを行ない相関を求めたところ,水平偏角40度の軸に沿って相関が高くなることがコヒーレンスよりも明確に認められた.また,変動風速と平板模型応答の同時測定において,大きな応答のピークが生じた時刻における鉛直変動風速を条件付きサンプリングしたところ,さらに明確に水平偏角40度の軸に沿って相関が高くなることが示された.以上のことより,スパイク状の大きな鉛直応答は,40度程度傾いた軸に沿って相関の高い変動風速によって生じていると考えられ,これは応答に及ぼす水平偏角の影響の測定結果とも整合した.

 さらに変動風速のスパイク状の応答に基づく条件付き平均を数点において測定し,スパイク状の応答を生じさせる流れの特性を詳細に検討したところ,間欠的に生成される山を越えて下向きに作用する流れがこうした応答の原因となっていることが示唆された.流れの可視化においては,水平渦状の流れの構造が見られ,この水平渦状の構造が通過した後に模型のスパイク状の応答が生じることが多かった.山を越える下向きの流れが,水平渦状の流れの構造の中心部に対応していると考えると,変動風速の条件付き平均の測定結果と流れの可視化の結果は整合し,また,こうした流れの構造を仮定すると測定された模型の応答特性や変動風速の特性の多くを概ね説明できることから,この流れの構造がスパイク状の応答を生じさせている可能性が高いものと考えられる.

審査要旨

 長大橋においては対風安定性を確保することが重要となるが,橋梁架設地点近傍の地形が複雑な場合には橋梁に作用する風の特性が影響を受け,極めて大きな水平応答やスパイク状の鉛直応答といった特異な対風応答が観測され,特に架設時において橋梁の安全性に関わる程大きなものとなることがある.こうした現象は,既往の応答解析によっては説明できないものであり,現象の特性の把握や発生メカニズムの解明が求められている.

 本研究は,山を単純化した円錐形模型の後流中における,架設時斜張橋を単純化した平板片持ちばり模型の応答特性を風洞実験により詳細に検討し,特にスパイク状の鉛直応答を発生させる変動風速の特性を解明しようとしたものである.

 第1章においては,研究の対象となる複雑地形中の応答にみられる特異な現象を整理し,研究の目的と方向を明らかにしている.

 第2章では,まず,橋梁の対風応答に及ぼす周辺地形の影響についてレビューし,さらに特異な応答現象が報告されている本州四国連絡橋公団によって行われた多々羅大橋の風洞実験については,実験結果の再解析を行い現象の特性を明らかにした.また,山背後に形成される気流の特性についてもレビューし,特異な橋梁の応答の原因を明らかにするためにはさらに詳細な気流の変動特性を明らかにする必要性を示した.

 第3章では,山模型の背後に形成される流れの非一様性が橋梁平板模型の応答に及ぼす影響について風洞実験により検討し,通常のガスト応答解析の定式化において流れの非一様性をさらに考慮した解析を行なった.解析において非一様性を考慮することにより実験で得られた応答の大きさの再現性は若干向上した.しかし解析ではスパイク状の応答を再現できず,山背後の流れにより生じる応答は通常の解析で考慮されているのとは異なったメカニズムにより生じていると考えられることから,その解明のためにはそうした応答を生じさせる流れ場の特性を解明する必要があると考えられた.

 第4章においては,平板模型の設置位置や水平偏角を種々に変化させ,それらのパラメータが応答におよぼす影響について検討した.特にスパイク状の応答が観測された鉛直応答についていえば,平板模型の自由端が山模型の中心側にある場合には,自由端が風上に40度程度となるような水平偏角をもつ場合に応答が大きくなるのに対し,自由端が山模型とは反対側にある場合には,自由端が風下側となる水平偏角をもつ場合の方が応答が大きくなるといった系統的な影響が見られた.

 第5章では,平板模型のスパイク状の鉛直応答に着目し,そうした応答を生じさせる流れ場の特性を明らかにすることを試みた.まず,スパイク状の大きな模型応答に対する時刻歴応答解析結果と実験値の整合性を調べ,模型の水平偏角が40度の場合に解析値と実験値の整合性が良くなることから,スパイク状の応答を生じさせる鉛直変動風速の相関が,水平偏角が約40度程度の軸に沿って高くなっていることが推察された.実際鉛直変動風速の相関を測定すると,特に応答にスパイクを生じさせる変動風速の相関が水平偏角40度の軸に沿って高くなることが示された.以上のことより,スパイク状の大きな鉛直応答は,40度程度傾いた軸に沿って相関の高い変動風速によって生じていると考えられ,これは応答の測定結果に及ぼす水平偏角の影響と整合した.

 スパイク状の応答に基づく変動風速の条件付き平均を数点において測定し,スパイク状の応答を生じさせる流れの特性を詳細に検討したところ,間欠的に生成される山を越えて下向きに作用する流れがこうした応答の原因となっていることが示唆された.流れの可視化においては水平渦状の流れの構造が見られ,この水平渦状の構造が通過した後に模型のスパイク状の応答が生じることが多かった.山を越える下向きの流れが,水平渦状の流れの構造の中心部に対応していると考えると,変動風速の条件付き平均の測定結果と流れの可視化の結果は整合し,また,こうした流れの構造を仮定すると測定された模型の応答特性や変動風速の特性の多くを概ね説明できることから,こうした流れの構造がスパイク状の応答を生じさせている可能性が高いと考えられた.

 第6章では,以上の論文で得られた成果を総括するとともに,今後の課題を論じている.

 本研究は,山の後流中における橋梁の応答を対象とし,応答の特性やスパイク状の応答を生じさせる変動風速の特性に着目した風洞実験を行い,それらを明らかにするとともに,現象を生じさせている流れ場の構造として可能性の高いものを示している.スパイク状の応答振幅の予測や山の形状が現象に及ぼす影響の検討など,今後の課題も残されているが,得られた成果は橋梁の安全かつ合理的な耐風設計を確立していく上で大きく貢献するものと判断される.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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