補強土工法は、盛土・地山を構造的に安定で変形性に対する剛性を高める工法である。安価な工事費、簡単な設計、容易な施工等の長所を持つ様々な補強材形式と工法が開発され、擁壁、盛土等の土構造物で幅広く使用されている。各種補強盛土工法の中で、プレロードとプレストレスを加えることで補強盛土の強度と剛性を飛躍的に高めるプレロードとプレストレス工法は、補強土工法の重要土構造物への適用性をより広げている。一方、一般的に現場ですぐ得ることが困難である場合が多いにも関わらず、補強土の盛土材料として透水性の良い粗粒土が規定されている。これは、低透水性の土は高含水比状態で補強材として鉄筋を使った場合、引き抜き抵抗が大幅に低減する可能性が高いと共に、補強材を腐食させる可能性が高いからである。 高含水比不良土は、その低い強度、高い圧縮性、高いクリープ変形性などの材料特性のため、現場への適用が避けられている。現在まで、ポリマー製の補強材の導入によって補強材の腐食問題は解決されたが、盛土材料として高含水比不良土を用いる事は少ないのが現状である。さらに、盛土材料として現場の不良土を使用する場合に対する適切な設計・施工方法が確立されてない。 そこで、粘性土を用いることにより補強盛土がより経済的になることを生かすともに、環境保存を図るために、高含水比粘性土の低い強度、小さい剛性などの弱点を、補強材の補強効果、プレロードとプレストレス効果によって抜本的に改善する可能性を検討した。さらに、補強材の使用が締固め作業の効率性を向上できるかどうかを調べた。 本研究では、補強高含水比粘性土の変形・強度特性に及ぼすプレロード・プレストレスの効果を定量的に検討するために、一定ひずみ速度の小型平面ひずみ圧縮試験を行った(第I部)。また、剛なローラーを用いた中型模型締固め実験における高含水比で高飽和度の粘性土の現場締固め特性を検討した(第II部)。 小型平面ひずみ圧縮試験では、無補強と補強、せん断時の排水条件(排水と非排水)、異なるプレロードとプレストレス荷重を加える条件などを変化させて行った。その結果、補強してプレロードを加えない場合の飽和高含水比粘性土の非排水せん断試験強度は、極端に低いこと、補強してもその非排水強度はほとんど増加しないことが分かった。補強粘性土は、排水状態でのピーク強度は無補強土に比較すると著しく大きくなるが、初期剛性は無補強の場合と比較してほとんど高くならない。これらの結果は、このような高含水比で高飽和度の粘性土で補強盛土が建設できたとしても、変形性が非常に大きいために重要永久構造物として使用できないことを示している。一方、無補強土は、排水強度が小さいので、大きなプレロードを加えられない。しかし、高含水比の粘性土でも、補強すれば排水強度が著しく増加するので、排水状態であれば非常に高いプレロードを加えられる。 一連の実験の結果から次のことが分かった。高含水比の補強粘性土に及ぼすプレロードの主な効果は、次のようにまとめられる。 - 土を弾性化する。そのため初期剛性が著しく高くなる。 - 排水せん断時の体積収縮特性が著しく減少する。 - 非排水状態では正の過剰間隙水圧の発生を抑制する。非排水圧縮強度も無補強状態と比較すると著しく上昇する。 - プレロードからの除荷状態において、クリープ変形も著しく抑制される。 また、プレストレス効果は、次のようにまとめられる。 - プレストレスが大きいほど、弾性剛性率が上昇し、変形性が小さくなる。 - 大きなプレロードを加えても、それを全て除荷してしまうと、盛土は膨潤し粘土の構造が乱されプレロードの効果の多くが失われる。そのため、盛土の鉛直圧縮荷重に対する初期剛性がかなり低下する。 中型締固め模型実験では、無補強の場合と、補強材を用いた場合(この場合、補強材を撒き出し層の下部或いは上部に敷いた条件に対して)で、載荷締固め荷重を変えながら行った。実験結果から以下の知見が得られた。無補強盛土は、せん断強度が小さく支持力が小さいことから、大きな締固め荷重をかけられない。支持力より大きな締固め荷重をかけると、盛土が破壊し締固めることが困難になる。既に締固めた盛土でも、過大な締固め荷重によって再び破壊・攪乱され密度が低下する。一方、補強材を利用した場合は、補強材による盛土の引張り補強効果と、応力が集中した箇所からの正の過剰間隙水圧の速やかな逸散(排水促進効果)により盛土の支持力が高まり、より大きな締固め荷重を加えることができる。このため、ローラー直下の盛土はより良く締固まる。また、締固め装置の走行性が高まり、作業能率が上がる。 以上の研究により高含水比で高飽和度の粘性土でも、a)補強材を適切に利用することによって盛土時に良く締固めて、かつb)補強土の大きな排水圧縮強度を利用して、大きなプレロードを加えて過圧密状態にし、かつc)大きなプレストレスを加えておくことにより、非排水せん断時に大きな初期剛性と大きなせん断強度が発揮できることが確認された。 |