学位論文要旨



No 114167
著者(漢字) 盧,翰成
著者(英字)
著者(カナ) ロ,ハンソン
標題(和) 粘性土の補強工法に関する基礎的研究
標題(洋)
報告番号 114167
報告番号 甲14167
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4293号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 龍岡,文夫
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 助教授 古関,潤一
 東京大学 助教授 堀,宗朗
内容要旨

 補強土工法は、盛土・地山を構造的に安定で変形性に対する剛性を高める工法である。安価な工事費、簡単な設計、容易な施工等の長所を持つ様々な補強材形式と工法が開発され、擁壁、盛土等の土構造物で幅広く使用されている。各種補強盛土工法の中で、プレロードとプレストレスを加えることで補強盛土の強度と剛性を飛躍的に高めるプレロードとプレストレス工法は、補強土工法の重要土構造物への適用性をより広げている。一方、一般的に現場ですぐ得ることが困難である場合が多いにも関わらず、補強土の盛土材料として透水性の良い粗粒土が規定されている。これは、低透水性の土は高含水比状態で補強材として鉄筋を使った場合、引き抜き抵抗が大幅に低減する可能性が高いと共に、補強材を腐食させる可能性が高いからである。

 高含水比不良土は、その低い強度、高い圧縮性、高いクリープ変形性などの材料特性のため、現場への適用が避けられている。現在まで、ポリマー製の補強材の導入によって補強材の腐食問題は解決されたが、盛土材料として高含水比不良土を用いる事は少ないのが現状である。さらに、盛土材料として現場の不良土を使用する場合に対する適切な設計・施工方法が確立されてない。

 そこで、粘性土を用いることにより補強盛土がより経済的になることを生かすともに、環境保存を図るために、高含水比粘性土の低い強度、小さい剛性などの弱点を、補強材の補強効果、プレロードとプレストレス効果によって抜本的に改善する可能性を検討した。さらに、補強材の使用が締固め作業の効率性を向上できるかどうかを調べた。

 本研究では、補強高含水比粘性土の変形・強度特性に及ぼすプレロード・プレストレスの効果を定量的に検討するために、一定ひずみ速度の小型平面ひずみ圧縮試験を行った(第I部)。また、剛なローラーを用いた中型模型締固め実験における高含水比で高飽和度の粘性土の現場締固め特性を検討した(第II部)。

 小型平面ひずみ圧縮試験では、無補強と補強、せん断時の排水条件(排水と非排水)、異なるプレロードとプレストレス荷重を加える条件などを変化させて行った。その結果、補強してプレロードを加えない場合の飽和高含水比粘性土の非排水せん断試験強度は、極端に低いこと、補強してもその非排水強度はほとんど増加しないことが分かった。補強粘性土は、排水状態でのピーク強度は無補強土に比較すると著しく大きくなるが、初期剛性は無補強の場合と比較してほとんど高くならない。これらの結果は、このような高含水比で高飽和度の粘性土で補強盛土が建設できたとしても、変形性が非常に大きいために重要永久構造物として使用できないことを示している。一方、無補強土は、排水強度が小さいので、大きなプレロードを加えられない。しかし、高含水比の粘性土でも、補強すれば排水強度が著しく増加するので、排水状態であれば非常に高いプレロードを加えられる。

 一連の実験の結果から次のことが分かった。高含水比の補強粘性土に及ぼすプレロードの主な効果は、次のようにまとめられる。

 - 土を弾性化する。そのため初期剛性が著しく高くなる。

 - 排水せん断時の体積収縮特性が著しく減少する。

 - 非排水状態では正の過剰間隙水圧の発生を抑制する。非排水圧縮強度も無補強状態と比較すると著しく上昇する。

 - プレロードからの除荷状態において、クリープ変形も著しく抑制される。

 また、プレストレス効果は、次のようにまとめられる。

 - プレストレスが大きいほど、弾性剛性率が上昇し、変形性が小さくなる。

 - 大きなプレロードを加えても、それを全て除荷してしまうと、盛土は膨潤し粘土の構造が乱されプレロードの効果の多くが失われる。そのため、盛土の鉛直圧縮荷重に対する初期剛性がかなり低下する。

 中型締固め模型実験では、無補強の場合と、補強材を用いた場合(この場合、補強材を撒き出し層の下部或いは上部に敷いた条件に対して)で、載荷締固め荷重を変えながら行った。実験結果から以下の知見が得られた。無補強盛土は、せん断強度が小さく支持力が小さいことから、大きな締固め荷重をかけられない。支持力より大きな締固め荷重をかけると、盛土が破壊し締固めることが困難になる。既に締固めた盛土でも、過大な締固め荷重によって再び破壊・攪乱され密度が低下する。一方、補強材を利用した場合は、補強材による盛土の引張り補強効果と、応力が集中した箇所からの正の過剰間隙水圧の速やかな逸散(排水促進効果)により盛土の支持力が高まり、より大きな締固め荷重を加えることができる。このため、ローラー直下の盛土はより良く締固まる。また、締固め装置の走行性が高まり、作業能率が上がる。

 以上の研究により高含水比で高飽和度の粘性土でも、a)補強材を適切に利用することによって盛土時に良く締固めて、かつb)補強土の大きな排水圧縮強度を利用して、大きなプレロードを加えて過圧密状態にし、かつc)大きなプレストレスを加えておくことにより、非排水せん断時に大きな初期剛性と大きなせん断強度が発揮できることが確認された。

審査要旨

 金属製帯材、面状のジオテキスタイル等の引張り補強材を盛土内に配置して盛土を安定強化する盛土補強土工法は、現在広く採用されるようになってきた。盛土材料として用いられているのは、砂質土が殆どである。しかしながら、掘削工事で発生する土質材料は、高含水比・高飽和度の粘性土である場合が少なくない。特に我が国では、この場合が多い。従来、このような現場発生高含水比・高飽和度粘性土は、盛土材として使用されないか、使用する場合も締固めが困難であり、かつ建設中建設後の盛土の安定性が低く変形性が大きいという問題が多かった。盛土内に面状の引張り補強材を水平に配置すると締固め度が改善されることは、経験的に知られている。それであっても、高含水比・高飽和度粘性土を用いた場合、完成された補強土盛土の変形性が小さくはなく剛性が十分ではない場合が多い。このため、変形に関して厳しい制限のある土構造物、あるいはそのような上部構造物を支持する盛土としては問題が生じる。

 このような現状を踏まえて、本研究は高含水比・高飽和度粘性土を対象として、引張り補強された盛土の変形・強度特性、引張り補強材を配置することによる盛土の締固め効率・締固め度の改善の定量的評価とそのメカニズム、完成された補強盛土の剛性を飛躍的に改善する工法としてのプレロードを加えプレストレストを維持する工法の適用性とその改善メカニズムを研究し、将来の実用化に向けた基礎的知見を得ようとするものである。

 第一章は、序論であり上記のような研究の背景をとりまとめている。

 第二〜六章は、引張り機能がある織布を排水機能がある不織布でサンドウィッチ状に挟み込んだ複合材を補強材として用いた高含水比・高飽和度粘性土の小型模型の平面ひずみ圧縮試験を行うに当たっての、試験装置の開発、試験結果のとりまとめ、試験結果の解析結果をとりまとめたものである。まず、高含水比・高飽和度粘性土の典型的な例として乱された関東ロームを使用した場合、現場での標準的なエネルギーで締固めても、補強しない場合は非排水せん断強度は著しく低いこと、排水強度はそれよりも相当大きいが変形性が非常に大きいことを示している。次に、上記複合材で補強しても、土のせん断時の高い体積収縮特性と補強材の圧縮性のために、非排水状態では著しく大きな正の過剰間隙水圧が発生し非排水せん断強度は殆ど増加しない。これに対して、排水せん断強度は引張り補強効果により著しく増加するが、剛性は依然として小さく、十分大きな引張り効果が発揮されるまでには土が大変形することを示している。軟弱土は、排水状態でプレロードを加えることにより変形特性が弾性化することが知られている。本研究でも、無補強土にプレロードを加えると、プレロード荷重までの荷重に対して剛性が著しく上昇することを示している。しかし、無補強状態では排水せん断強度が大きくないため、十分に大きなプレロードを加えることが出来ない。補強された土は著しく高い排水強度を有することを利用して、十分の大きな高いプレロードを加えると、それに対応して非常に高い剛性を持つ応力範囲が広がることを示している。また、0.01%以下の非常に小さいひずみ振幅の繰返し載荷を様々な応力状態で加え、それに対応する軸方向の主ひずみ増分に対する弾性的ヤング率を求め、この剛性は現在の有効軸応力vのほぼ0.5乗に比例することを示した。従って、プレロードしてから荷重を除荷したときの応力レベルv(プレストレス)が大きいほど載荷した時の剛性が大きいことを示した。また、プレストレスが小さくなるとプレロードからの除荷時に、載荷時に蓄積された弾性エネルギーが解放されることにより載荷時と逆方向のせん断、即ち軸方向の伸び変形が生じてプレロード時に形成された構造が損傷し、上記要因に加えてこの要因のため再載荷時の剛性が著しく低下すること示した。

 以上の実験結果は、現場においても高含水比・高飽和度粘性土の盛土を排水機能と引張り機能のある複合材で補強し、適切なプレロードを加え適切なプレストレスを維持しておけば、非常に高い剛性を示す盛土が建設可能であることを示唆している。

 第七〜十章は、上記の平面ひずみ圧縮試験で使用した高含水比・高飽和度粘性土と同じ土を用いた中型平面ひずみ土層模型に対するローラー締固め実験の、試験装置の開発、試験結果、その解析結果をまとめたものである。模型土層内に補強材を配置しないで締固めした場合と配置して締固めした場合の比較実験を行っている。同一のローラー鉛直荷重に対して、補強材を配置していない場合はローラーが土層にのめり込む量が大きくなり、ローラーに作用する水平せん断力が著しく増加し施工性が著しく低下することを示している。また、ある程度以上の鉛直力を加えると土層が破壊しローラーが著しくのめり込むため、高い鉛直力で締め固めることは出来ないことを示している。これに対して、補強材を土層内に配置すると、特に現在の締固め土層の表面にも補強材を配置した場合は、ローラーが土層にのめり込む量が小さくなりローラーに作用する水平せん断力が減少し施工性が改善されること、土層の鉛直力支持力が増加するためローラーが著しくのめり込むこと無しに、高い鉛直力で締固めるが出来るようになることを示している。また、締固めた土層の乾燥密度を比較して、補強材を土層内に配置した場合の方が高い締固め度を達成できることを示している。また、締固め土層底面で鉛直応力とせん断応力の分布を実測し、補強材を配置した場合の方がローラー直下での応力集中度が高くなることを示し、この要因も高い締固め度の達成に貢献している可能性を示唆している。

 第十一章は、上記の補強材を配置して締固めた土層で、幅10cmの帯基礎を用いて行った支持力試験の試験方法、試験結果、その解析結果をとりまとめている。補強されているため地盤が支持できる最大荷重は著しく大きくなっているが、変形性が大きく地盤の鉛直反力係数は小さいままであり、変位制限の厳しい構造物の支持地盤としては問題が大きいことを示している。

 第十二章は結論であり、高含水比・高飽和度粘性土を用いても、無補強盛土に比較して、プレロードとプレストレスを加えて補強盛土は抜本的に高い剛性を持つことを結論としている。

 以上要するに、本研究は現在の地盤工学における重要課題の一つである高含水比・高飽和度粘性上の補強盛土における、補強材を用いることによる盛土締固め効率化と盛土鉛直剛性の抜本的向上のためにプレローディングを加えプレストレスを維持する工法の有効性とこれらの基本メカニズムを示すことにより新しい知見を示し、この分野の発展に資するものである。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク