社会基盤施設開発整備管理運営(以下インフラ開発と称する)の分野において、税金を財源とする伝統的な公共インフラ開発の制度に、民間の資本と経営力を活用したBOT、BOOT、ROT、BOO契約方式等の新たな「コンセッション」方式が導入されつつある。政府予算が不足する制約条件を克服し、持続的な経済成長や社会福祉向上のための基本的インフラを開発する革新的な方式として、近年は、香港、オーストラリア、および日本、そして開発途上のASEAN諸国、中国およびベトナム等のアジア諸国においても「コンセッション」方式が重要視され重要も高まっている。しかし、「コンセッション」方式の明確な制度的枠組みはいまだ確立されていないので、アジア諸国の数多くのインフラ開発プロジェクトが不満足な結果に終わっている。 本研究は、「コンセッション」方式を、将来のアジア諸国におけるインフラ開発へ的確に適用することを目指したアジア型「コンセッション」モデルの構築を目的としている。リスク管理、経済規制政策分析、財務(金融)工学の三つの部分で構成したモデルを開発し、アジア諸国の事例に適用し分析した成果に基づいて、日本版PFIの問題点についても論じている。 アジア諸国において、1985年から1997年の13年間に実施された89のコンセッション契約事業の事例に関する各種の資料を収集し、コンセッション契約市場の現状を詳細に分析している。アジア諸国のコンセッション契約事業に成功と失敗が混在していることを識別し、自然淘汰の経済原理に基づき、「長期運用が可能なコンセッション契約モデルは、従来の公共調達制度に比べて明確な利点を有していなければならない。」という仮説を導出している。アジア諸国におけるコンセッション契約の数多くの事例と、ヨーロッパ諸国やアメリカを中心とした他地域の事例とを比較検討するために、文献資料や国際機関からの出版物の記録や資料と共に、各国のコンセッション契約に関する法令や政策、事業に関する財務諸表記録、契約書類およびフィージビリティ調査書等の多岐にわたる調査研究を行っている。 公共および民間による社会基盤整備制度について1)経済的側面および2)事業運営に関しての意思決定権の所在という二つの側面から考察し、社会基盤整備民間委託に関して、歴史、運営権、利益、問題点という観点から論じている。コンセッション契約事業が有効に機能するための理論を構築し、運営権を譲渡することにより最終的に事業の効率性を確保できることが、コンセッション契約事業の公共調達手法に対する大きな利点であることを論じている。アジア諸国のコンセッション契約プロジェクトに伴うリスクに関して、各国特有のリスクと個別の事業特有のリスクに分類し、リスク処理を最も効率的に行うことができる主体を明きらかとしている。コンセッション契約市場に影響を及ぼすROR(金利)調整、価格調整、および無調整の三つの代表的な経済調整手法について分析している。その結果、アジア諸国における経済調整手法としては、価格調整が最も有効であると結論づけている。コンセッション契約事業のファイナンスにおいては、事業遂行のため十分な資本を確保することが難しいという、いわゆる「財務格差(financing gap)」が存在するので、その要因について分析し、過度の政府援助により、コンセッション契約事業がリスクを伴う民間投資活動であるという認識が失われてしまう危険性について論じている。日本版PFIに関する分析を行い、日本版PFIに関する経済政策の矛盾点として、1)民間資本を有効活用し政府の財政負担を軽減するためにPFIを促進する2)低迷する経済を刺激し建設会社の負債を軽減するために公共事業を増大させる、という相矛盾する議論が日本のPFIにプロジェクトファイナンスを導入することを困難にしていることを明らかとしている。そして、この問題を改善し、日本におけるPFIが将来有効に機能するための幾つかの有益な提案を行っている。 本研究は、社会基盤整備の需要が大きいにも関わらず政府の財政事情が悪化しているアジア諸国を対象に、経済成長と社会福祉向上の礎となる社会基盤整備を伝統的な政府主導による公的資金によって賄う手法ではなく、コンセッション方式によって執行することの妥当性と問題点およびその解決方法を示すことを目的としている。アジア諸国のコンセッション市場を電力部門、交通部門、水資源部門について詳細に分析し、コンセッション方式の適用性を分析するための基本的枠組みを構築し、リスク分析手法、資金調達と財務管理手法および経済活動に関わる法制度や規制のあり方を明らかとし、「コンセッション」方式の的確な執行に有益な知見と示唆を提供している。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |