学位論文要旨



No 114185
著者(漢字) 崔,昶豪
著者(英字)
著者(カナ) チェ,チャンホ
標題(和) 給湯システムの効率評価法に関する研究 : 配管設備システムからの熱損失を中心として
標題(洋)
報告番号 114185
報告番号 甲14185
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4311号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鎌田,元康
 東京大学 教授 坂本,雄三
 東京大学 助教授 平手,小太郎
 東京大学 講師 佐久間,哲哉
 東京大学 助教授 伊香賀,俊治
内容要旨

 現在、住宅においては、二次エネルギー量として年間で1世帯あたり10Gcal以上を消費し、そのうち給湯用が4割弱を占める。家庭用用途別エネルギー消費原単位において、1975年以降一貫して給湯用消費量がそれまで用途別では最も多かった暖房用消費量を上回っている。1973年・1979年の2度のオイルショックがあった時期の推移をみると、暖房用消費量はやや減少しているのに対して給湯用消費量は増加しており対照的である。住宅の暖房に関しては、1979年に制定された「エネルギー使用の合理化に関する法律」の第14条に基づき、告示で"建築主の判断基準"が示され、『熱損失係数』の形で規制が行われ、さらに1992年の告示改正による『日射取得係数』の導入により、冷房に関する規制も始まっている。これに対し、給湯に関する基準はない。一方、非住宅の建築物に関しては、1993年の告示改正により、給湯用消費エネルギー係数、いわゆるCEC/HWの基準値がホテル等および病院等に対して示されたが、その際に、給湯に関する各種データの不足が指摘された。

 このように、住宅における給湯設備の省エネルギー性能に関しては、その評価法が確立しておらず、また、非住宅の建築物に関しても、省エネルギー性能を議論する際の各種データが不足しているのが現状である。

 給湯システムは、給湯機(熱源)、給湯・給水配管(搬送設備)・水栓(端末機器)が一つのシステムとして機能する設備である。住宅用の給湯機に関しては、日本工業規格・JISや(財)ベターリビングの認定基準などがあり、急速に高効率化が図られている。それに対し給湯配管システム(給湯配管と水栓を合わせ、今後このように称す)に関しての基準はなく、各種評価データも不足しているため、給湯システム全体の効率を議論する際のネックとなっている。

 住宅の給湯配管は、住棟セントラル方式であっても、住戸内は通常温水の常時循環がなされないため、閉栓・開栓に伴う管内の湯温変動が生じ、非定常状態を考慮する必要がある。この非定常状態の給湯配管からの熱損失の計算法に関する既往の研究として、吉野ら、水野らの研究がある。吉野らの計算法は、定常時の熱コンダクタンスを用いて近似的に非定常問題を計算するものである。水野らは数値解析的に非定常問題を計算し、吉野らの計算法は、通常の条件では信頼性があるものの、条件によっては誤差が大きくなることを示した。しかし、水野らの計算法は、流量を固定したものであり、単独配管しか計算できないという欠点を持ち、分岐がある場合や、実際の住宅における給湯使用のように、断続的で、かつ流量が変化するような場合の熱損失は求めることができない。

 本研究では、従来の先分岐方式および最近集合住宅を中心に普及してきたサヤ管・ヘッダー方式の2種類の配管方式を用い、実際の住宅での湯使用をモデル化した給湯負荷パターンでの詳細な実験を行い、その実験結果を再現できる解析モデルの確立と計算方法を開発し、このモデルと計算法を用い、種々の計算を行った上で、給湯配管システムにおける省エネルギー評価法を提案することを目的としている。

 本研究の検討項目は、配管からの熱損失量といった省エネルギー性能ばかりでなく、湯待ち時間といった機能性を含んでいる。

 なお、本論文では、住宅を対象に、返湯管のない先止まり配管を中心に議論を進めているが、提案した解析モデル、計算方法は、返湯管のあるいわゆる循環方式の給湯配管システムの計算精度向上にも寄与しうるものである。

 本論文は、第1章から第6章までで構成されており、各章を要約すると、以下のようになる。

 第1章:本研究の背景と目的、論文の構成と既往の研究について述べる。

 既往研究については、主として給湯配管システムからの熱損失の計算方法に関して調べ、各手法の特徴および内容の相違を記し、さらに現状での給湯設備設計の問題点を指摘し、本論文の位置付けを明確にした。

 第2章:第3章の数値計算方法の妥当性を検証するためのデータ収集として行った2つの実験(以下実験(1)(2)とする)について述べた。

 実験(1)は"住戸セントラル給湯システム(サヤ管・ヘッダー方式と先分岐方式)の熱効率実験"

 実験(2)は"バルブなどの配管付属機器からの熱損失測定実験"である。

 実験(1)では、集合住宅のモデルプランを選定し、先分岐方式とサヤ管・ヘッダー方式の2種類の配管方式を用い、給湯使用負荷モード、給水温度、給湯機出湯温度、使用流量を変化させて実験を行い、各種効率(定常効率・実働効率・システム効率)の比較・検討を行った。なお、再現性の良いデータを得るために、実験法、実験装置、制御装置、測定装置に種々の検討を加えた。実験結果として、サヤ管ヘッダー方式が先分岐方式よりシステム熱効率が高いこと、効率の決定的な要因になる熱損失の中で無効熱量(使用可能温度以下の湯の熱量)より配管放熱量の方が寄与が大きいこと、給湯器出湯温度が42℃(一般には60℃である)の使用の方が効率が高い事などを明らかにした。

 実験(2)では、必ずしも確立していないバルブなどからの熱損失量の測定方法・測定装置の検討から入り、いわゆる消去法(配管端部を断熱キャップで断熱し、あらかじめ端部の熱損失を測定しておき、バルブを含む配管試料全体の熱損失から断熱キャップの熱損失を引いて、配管試料の熱損失量を求める方法)による測定方法を提案した。その上で、ソルダー型バルブ、フランジ型バルブ、フランジの3種類、呼び径は各々20A,25A,40Aの3タイプにつき、保温あり、保温なしの状態で測定を行い、データを整理した。実験結果として、バルブの熱損失量からみた配管相当長(バルブからの熱損失が直配管の何m分の熱損失と同じであるかの意味)が、従来言われていた値より小さいことを示した(CEC/HWの計算では、このような実験データがなかったため、この直管長さは、バルブ・フランジの表面積を換算した値を丸め、バルブ:1m、フランジ:0.5mとした。CEC/HWの計算では全体給湯配管の長さに、その配管相当長分だけ接続しているものとして計算する)。

 第3章:第1章の既往研究の調査結果から、従来提案されている計算方法では、分岐があり、かつ間欠的な湯使用での配管からの熱損失の計算ができないことが判明したため、このような条件でも計算可能な解析モデル、計算方法を提案する事を目的に、第2章での実験よりも単純化された配管モデルでの実験結果も参考に検討を行い、モデル、計算方法の妥当性を検証するとともに、計算誤差について考察を加えている。本研究で提案した計算方法は従来の計算方法で不可能であった、以下のような条件に対応可能である。

 (1)複数の分岐をもつ分岐方式配管、(2)管内流速の変化、(3)実給湯使用パターン(間欠給湯使用モード)などの非定常状態

 計算は管内部の基礎方程式を各管単位でコントロール・ボリューム法により離散化し、時間項の差分にはCrank-Nicholsonスキームを用いた。これらは各管単位の格子点での温度に関する連立一次方程式になり、三重対角行列算法(TDMA)で容易に解くことができた。

 第4章:第2章の実験結果と第3章で提案した計算方法による計算結果の比較を行い、解析モデル及び計算方法の妥当性を確かめた。サヤ管ヘッダー方式は第3章の定流量計算方法、先分岐方式は変流量計算方法を用いた。

 実験結果と計算結果を、水栓からの出湯温度、出湯熱量、湯待ち時間、有効熱・湯量、無効熱・湯量などついて詳細に検討したが、例えば、水栓からの出湯量では1%以下、出湯熱量では2%以下の差異に止まっており、実用上十分な精度が得られることが確認できた。よって、第3章で提案した解析モデル、計算手法により、種々の配管システムからの熱損失の計算に適用できるものと判断した。

 第5章:第4章までで、予測精度につき実用上十分な精度をもつと判断されるに至った。本研究で提案した計算方法を用い、実験では、長期間、かつ、多大な費用を要する給湯配管システムからの熱損失・湯待ち時間などの検討を、まず戸建て住宅を対象に行った。

 行った検討内容及び結果を以下で簡単に説明する。

 (1)配管方式および管種の違いによる相違:第2章と第4章で、現状で一般に用いられる管種を使用した場合の"サヤ管+ヘッダー方式"と"被覆銅管+先分岐方式"の実験及び計算で行い比較した。ここでは、その原因を確かめるため、仮想の管種での計算を行い、サヤ管・ヘッダー方式の優位性を確認した。

 (2)給湯機から給湯栓までの距離の違いによる相違(主として、使用頻度の多い台所流し用水栓位置を変更し、近い位置[3.0m]のプラン2と遠い位置[9.65m]のプラン1を比較):位置変化のないシャワー・洗面においては両プランの無効熱量・配管放熱量の差は10(%)前後である。しかし、位置変更のあった台所においてはプラン2を100(%)にした場合、プラン1がそれぞれ356.1(%)、299.1(%)の割合となり大きな差があった。プラン1での台所までの距離とプラン2での台所までの距離は約3.2倍の差があることと上記の結果から、無効熱量・配管放熱量・湯待ち時間の大略値は、ほぼ配管の長さに比例することを確認した。

 (3)給湯機設置位置の違いによる相違(給湯機設置位置と水まわりの位置の関係で検討):給湯機に対する5系統(浴槽、シャワー、台所、洗面、洗濯)の水栓の位置関係の影響を調べ、当然のことながらお湯まわりのまとまったプランのほうが離れているプランに比べて有利であるが、系統別の配管放熱は同じ配管長あたり台所系統が最も多いため、台所系統を短くするのが最も効果的であることを示した。

 (4)管径の違いによる相違(現状では、水道直結部分には架橋ポリエチレン管・ポリブテン管ともに10Aより細い管の使用が認められていないが、圧力が許す範囲で8Aまでの管を使用した場合の検討):管径大(汎用サイズでは,浴槽・シャワー=13A、台所・洗面・洗濯=10A)と管径小(一回り小さい規格,浴槽・シャワー=10A、台所・洗面・洗濯=8A)を比較した。管径小の無効熱量は、管径大と比べ各系統とも6割前後、配管放熱も7割前後となった。これは、水栓までの配管長を10mから7mにするのと、管径を一回り小さいものにするのとほぼ同じ効果となることを意味する。

 (5)混合水栓の種類の違いによる相違(主として、サーモミキシング型混合水栓の省エネルギー性を検討):サーモミキシング型の混合栓と、モデル化した使用条件でのシングルレバー型混合栓とを比較し、省エネ性の面及び湯待ち時間の面からサーモミキシング型の優位性を示した。

 (6)給湯使用モードの変更による相違(ここまでの検討では、給湯配管システムなどの効率を評価するには、1日の湯使用時間を8時間程度に縮めても問題ないという既往の研究結果から、そのような給湯使用モードで実験・計算を行ったが、実際の場合に近い15時間の湯使用時間とした場合との違いを検討):給湯開始後の出湯温度、流量停止後の湯温降下などは、これまでの8時間スケジュールの時とほぼ同様の傾向を示し、第2省での実験結果が実使用時を想定した15時間の湯使用の場合にほぼ合致することを確認した。

 (7)計算時間の短縮(本論文で提案・使用した計算手法は、計算時間が比較的長く、一般のパソコンで利用するには困難を伴うことから、計算時間の短縮について検討した):計算時間単位tを大きくすると計算時間は著しく短縮可能であるが、給湯出口温度の温度降下や配管放熱量をの誤差からtの大きさについて検討した。

 (8)バルブなどからの熱損失量の簡易評価法(バルブなどの表面積と同面積になる円筒配管を用いた計算を行い、その値と実験結果との比をフィン効率の概念で整理する手法を提案した):バルブ・フランジの複雑な形状をそのまま有限要素法等で計算する詳細計算に代えて、本研究で提案した計算モデルに簡易に組み込む方法を検討し、バルブを太い円筒管と仮定し、その表面積を実際バルブの表面積と同面積になるように円筒管の半径サイズを決定し、第3章の配管モデルで熱損失量を計算して、実験値との比較による補正(フィン効率係数=実験結果の放熱量÷計算結果の放熱量を用いる)手法を提案した。

 フィン効率係数は管外気温と湯温の温度差と比例関係にあるが、実際の給湯システムを考えた場合、ほぼ一定とみなしてよいことを示した。

 第6章:本論文各章のまとめを行い、今後の課題を明示した。

 付録:本論文における実験・計算で使われた用語説明・プログラム・変換式・使用方程式の解法などの解説

審査要旨

 本論文は、給湯システムの評価法に関し、給水・給湯管、バルブ・フランジおよび混合水栓からなる配管設備システムからの熱損失を中心として、詳細な実験およびシミュレーションから検討したものである。

 住宅での用途別エネルギー使用量を二次エネルギーベースでみると、1975年に暖房用を給湯用が抜いて以来、一貫してその状態が続いており、現在、全エネルギー消費量の約4割弱を占めている。また、非住宅の建築物においても、病院・ホテルなどでは給湯用エネルギー消費量の割合が多く、「エネルギー使用の合理化に関する法律」に基づく"建築主の判断基準"では、これら建物に関する給湯用消費エネルギー係数、CEC/HWの値を1992年の告示改正時に提示し、規制を行っている。そのような状況下、給湯用熱源の省エネルギー化が進められているものの、配管設備システムからの熱損失に関する明確なデータが不足していることから、給湯システム全体の効率を評価する際のネックとなっている。論文提出者は、詳細な実験から、給湯システム全体の効率評価を行うとともに、従来不足していた、複雑な形状のバルブ・フランジからの熱損失量に関するデータを提示している。さらに、適用範囲の広い配管システムからの熱損失計算用シミュレーションモデルを構築し、そのモデルを用い、種々の配管システムにおける熱損失を計算し、今後の給湯用配管システムのあり方に関し考察している。

 本論文は、以下の6章より成る。

 第1章では、本研究を始めるに至った動機をまず述べ、文献調査の結果から、現状の給湯システムの効率評価法の問題点を整理するとともに、本研究の目的・位置づけを明らかにしている。

 第2章では、住戸セントラル給湯システムをモデル化した実験装置を使用し、実際の給湯使用パターンに近い負荷をかけた実験およびバルブ・フランジからの熱損失に関する実験結果を示している。両者ともに再現性をチェックした上での極めて詳細な実験であり、家庭での実際の湯使用時における給湯器本体の効率、配管システムからの熱損失も含めた給湯システム全体の効率に関する貴重なデータおよび従来明確にされていなかったバルブ・フランジの保温効果に関するデータを提供している。

 第3章では、給湯配管各部位の温度分布を求める計算手法を提案し、簡易な配管モデルでの実験結果を用い、計算モデルの検証を行っている。この方面に関しては、種々の既往研究があるが、ここで提案された計算モデルは、管軸方向の熱移動を考慮に入れていること、また、分岐部での計算方法を明確にしていることなどから、従来の提案モデルに対し、極めて応用範囲の広いものとなっている。

 第4章では、第3章で構築した計算モデルを用い、第2章での住戸セントラル給湯システムに関する実験のシミュレーションを行い、計算精度を綿密に検討し、実用上十分な精度を有することを確認している。

 第5章では、上記で確立された計算手法を用い、種々の計算を行い、給湯システムの省エネルギー化に関する検討を行っている。具体的には、住戸セントラル給湯システムに関し、水まわり位置を変更しての住戸プランの影響の検討、従来の先分岐方式と最近多く使われるようになったヘッダー・サヤ管方式での相違の検討、配管径・配管長の違いが及ぼす影響の検討、混合水栓の種類による影響の検討、給湯使用パターンの相違による影響の検討などを行い、従来極めて定性的に述べられていたこれら要因の影響度合いを定量的に明らかにしている。また、計算時間の短縮化に関する検討および複雑な形状のバルブ・フランジなどからの熱損失の計算を、提案した計算モデルに簡易に組み込むための検討も併せて行っている。

 第6章では、以上の第1章から第5章のまとめを行うとともに、今後の課題を述べている。

 以上を要約するに、本論文は、給湯システム全体の効率を議論する際に、常に問題となっていた配管システムからの熱損失に着目し、詳細な実験から種々の有益なデータを示すとともに、極めて適用範囲のシミュレーション手法を提案したものである。本論文で扱った対象給湯システムは、住戸セントラル給湯システムが中心となっているが、他の給湯システムにも十分適用可能と判断される予測手法を提案しており、今後の給湯システムの設計に資すること大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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