学位論文要旨



No 114187
著者(漢字) 黄,光律
著者(英字)
著者(カナ) ホワン,コワンリウル
標題(和) フライアッシュを大量混和したコンクリートの基礎性状に関する研究
標題(洋)
報告番号 114187
報告番号 甲14187
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4313号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 友澤,史紀
 東京大学 教授 菅原,進一
 東京大学 教授 坂本,功
 東京大学 助教授 塩原,等
 東京大学 助教授 野口,貴文
内容要旨

 大量に発生しているフライアッシュをコンクリート中に有効混和するためには、コンクリートの諸物性に及ぼすフライアッシュの品質特性の影響を明らかにし、フライアッシュが混和された場合に生じる問題点を改善すべく、また、そのコンクリートの化学・物理的特性を明らかにするとともに、定量的に表現できる予測モデルの開発が必要であると考え、フライアッシュを大量混和したコンクリートのポゾラン反応特性、組織・空隙構造特性、フレッシュ特性、乾燥収縮特性、圧縮強度特性、中性化特性などの基礎性状に関して実験および解析を通じて幅広い検討を行った。

 ポゾラン反応性に関しては、水酸化カルシウムの生成・消費量に及ぼすフライアッシュの品質特性、材料の調合条件、養生条件等の影響について検討し、また、フライアッシュのポゾラン反応率の算定式を作成した。フライアッシュのポゾラン反応率は、水結合比が高く、養生温度が高く、フライアッシュのブレーン比表面積値が大きく、単位フライアッシュ量が多くなるほど高いことを明らかにし、また、フライアッシュのポゾラン反応式により導き出したCa(OH)2の完全消費量と実験で得られたCa(OH)2の生成・消費量からその算定式を求めた。

 組織構造・細孔空隙構造特性に関しては、セメント・フライアッシュ複合体の水和・硬化過程で形成される水和物のモーポロジ・組織構造および細孔空隙構造に及ぼすフライアッシュの品質、材料の調合条件、養生条件等の影響についてポゾラン反応の観点から検討した。フライアッシュを外割混和すると、初期材齢では、フライアッシュがコンクリートのマトリックス部にほぼ均一に分布し、水隙を充填し、材料の分離を妨げ、水和生成物を小型化し、骨材周辺の水酸化カルシウムの析出を抑制し、長期材齢では、フライアッシュが水酸化カルシウムと反応しC-S-Hを析出させ、空隙量を減少させ、骨材周囲の遷移帯の空隙構造を密実化することを明らかにした。

 フレッシュ特性に関しては、降伏値、塑性粘度等のレオロジー性状およびその他フレッシュ時の諸性状に及ぼすフライアッシュの品質、調合条件等の影響について検討した。所定のフロー値を得るために必要とする化学混和剤の添加量はフライアッシュの強熱減量の増大に伴い増加し、ブレーン比表面積の増加に伴い減少し、その内割置換率の増加に伴い減少した。降伏値は、外割混和率の増大に伴い増加し、水セメント比の増加に伴い低下するが、フライアッシュの強熱減量の影響は大きくなく、一方、塑性粘度は、外割混和率の増加、フライアッシュの強熱減量の増加、ブレーン比表面積の増加に伴い増加した。また、フライアッシュは高流動コンクリートの粘性も増加させ、高水粉体比で微粒のフライアッシュを大量に混和した高流動コンクリートおよび強熱減量の大きなフライアッシュを用いた高流動コンクリートの間隙通過性を低下させた。

 普通コンクリートにフライアッシュを外割混和した場合、目標スランプ値を得るために必要とする化学混和剤の添加量は外割混和率が増加するほど増加し、その空気量は水セメント比および置換方法の相違に関わらず減少することなどを明らかにした。

 乾燥収縮特性に関しては、乾燥収縮ひずみとフライアッシュの調合条件および細孔空隙等との関係から検討した。フライアッシュを混和したコンクリートの乾燥収縮ひずみは、フライアッシュの内割混和率の増加に伴い減少し、外割混和率の増加に伴い減少し、無混和の場合より減少することおよび、毛細管張力の観点から径6nm〜100nmの細孔空隙量と相関関係があることを明らかにした。また、フライアッシュを混和したコンクリートの乾燥収縮ひずみを水セメントの関数として算定できる乾燥収縮ひずみの算定式を作成した。

 圧縮強度特性に関しては、フライアッシュの品質および調合条件、養生条件等の影響についてフライアッシュのポゾラン反応の観点から水酸化カルシウム量・細孔空隙量との関係を中心に検討し、さらにフライアッシュを混和したコンクリートの圧縮強度発現推定式を作成した。

 フライアッシュの強熱減量は全炭素量の増大に伴い増加し、圧縮強度比はフライアッシュの比重、二酸化珪素量およびガラス量の増大に伴い増加し、また、そのブレーン比表面積の増加に伴い増加するが、強熱減量に相違による影響は大きくないことを明らかにした。

 フライアッシュをセメントに外割で混和したコンクリートの圧縮強度特性を水酸化カルシウム量と細孔空隙量に及ぼす充填効果およびポゾラン反応の影響より把握し、材齢初期ではフライアッシュが水隙を充填し空隙量を減少させ、大型の水酸化カルシウムの結晶の析出を抑制するとともに、長期材齢では、ポゾラン反応によって水酸化カルシウムを低減させながらC-S-Hを生成し、さらに空隙量を減少させ、圧縮強度増進に寄与することを明らかにした。

 フライアッシュがコンクリートに混和されたとき、フライアッシュの外割混和による初期強度の増加、内割混和による初期強度の低下、ポゾラン反応による長期強度の増加、フライアッシュの混和率と強度増加率または減少率の関係およびフライアッシュのブレーン比表面積の強度への影響などを明らかにし、さらに、フライアッシュの結合材料としての役割を示す係数を材齢、フライアッシュセメント比およびフライアッシュのブレーン比表面積の関数として表すことができ、フライアッシュを混和したコンクリートの圧縮強度の経時変化が定量的に推定できる圧縮強度発現推定式を作成した。

 中性化特性に関しては、フライアッシュを混和したコンクリートの中性化速度に及ぼすフライアッシュの品質および材料の調合条件、養生条件等の影響について、フライアッシュのポゾラン反応による水酸化カルシウム量の生成・消費量と細孔空隙構造特性等を中心に検討し、また、それを考慮した中性化速度モデルを作成した。また、細孔溶液を抽出し、細孔溶液中にイオンの挙動を検討し自己中性化特性を把握した。

 フライアッシュを内割混和したコンクリートの中性化速度は、内割混和率の増加に伴い顕著に増加するが、外割混和した場合は、フライアッシュ無混和の場合と同程度であり、フライアッシュの外割混和率が増加することにかかわらず、中性化速度はほとんど増加してないことを明らかにし、外割混和方法の中性化速度の改善効果を証明した。フライアッシュを混和したコンクリートの中性化速度は、水セメント比と相関性が高く、前養生期間が長い場合はフライアッシュの混和の有無およびフライアッシュの混和方法によって異なる傾向を示しており、水セメント比50〜60%を境にフライアッシュの混和が中性化抵抗性に及ぼす影響の傾向は逆転することを明らかにした。フライアッシュの品質に関しては、前養生期間を長く施した場合、フライアッシュの比表面積が大きくなると中性化速度は低減するが、強熱減量の影響は大きくないことを明らかにした。また、細孔溶液の抽出実験を通して、十分ポゾラン反応が進んだとしても、フライアッシュを混和したことにより低下したpHは、13程度であり、鉄筋の錆を招く11以下程度ではないことから、自己中性化による鉄筋の発錆のおそれは大きくないことを明らかにした。コンクリートの中性化の暴露期間中であっても、フライアッシュのポゾラン反応が進みそのコンクリートのCa(OH)2量および細孔空隙量の変化が生じ中性化抵抗性に影響を及ぼすことを明らかにした。フライアッシュを混和したコンクリートの中性化抵抗性は、ポゾラン反応によって組織が緻密になり増加するが、水酸化カルシウムが消費され減少することを明らかにし、コンクリート中のCO2の拡散および中性化進行領域でのCaCO3とCa(OH)2の共存を考慮したCO2とCa(OH)2との反応モデルを基礎とし、さらにフライアッシュを混和した場合、ポゾラン反応によって組織が緻密になりCO2の拡散が減少することおよびCa(OH)2が消費されて減少する現象を取り込み、中性化速度の予測モデルを作成し、フライアッシュを混和したコンクリートの大気中における中性化速度を予測した。

審査要旨

 本論文は、「フライアッシュを大量混和したコンクリートの基礎性状に関する研究」と題し、全8章からなっている。

 エネルギー資源多様化への要請から石炭火力発電への依存が高まり、今後副産物としてのフライアッシュの排出量が急増するため、その有効利用方法の開発が国内外を問わず急務となっている。その有力な用途として構造用コンクリートへの大量混和がある。フライアッシュはポゾラン反応特性をもつことから、従来よりセメント混合物、コンクリート用混和材として利用されてきたが、建築構造用コンクリートへの利用は、その水和反応が遅いこと、ポゾラン反応によるセメント水和物中の水酸化カルシウムの消費に基づくコンクリートの中性化速度の増大、それによる鉄筋コンクリート構造物の耐久性への悪影響などの問題点から、制約された状況にある。そのため、今後建築構造用に用途を拡大するには、フライアッシュを用いたコンクリートの初期強度発現特性の確保、強度発現の予測手法、コンクリートの中性化抵抗性の確保とその手段、等を明確にする必要がある。

 本研究は、この点に着目し、フライアッシュを大量混和したコンクリートの特性の把握とその特性の予測手法の開発を目的に行われたもので、フレッシュ時の流動特性の把握、ポゾラン反応モデル、強度発現予測モデル、中性化速度予測モデル等を提案し、必要な強度と強度発現速度、中性化抵抗性などを確保しつつ、フライアッシュを大量に混和するコンクリートを実現する手法を提示している。

 第1章「序論」は、研究の背景、目的、範囲を述べている。

 第2章「既往の研究」では、フライアッシュの特性、ポゾラン反応、関連するセメントの水和反応、フライアッシュを用いたコンクリートの特性などについて詳細な文献調査を行っている。フライアッシュに関してはこれまで国内外で膨大な量の研究がなされているので、文献研究が特に重要であるが、本章は技術の現状としてよくまとめられている。

 第3章「フライアッシュを大量混和したコンクリートのポゾラン反応および組織・空隙特性」では、フライアッシュのポゾラン反応に及ぼす種々の要因の効果を明らかにし、それをもとにポゾラン反応率の算定式を提案している。またフライアッシュ大量混和コンクリートにおけるコンクリートのミクロ組織の観察(SEM、BEI像)、硬化体の空隙構造特性の生成・変化とそれに対する各種因子の影響を明らかにした。

 第4章「フライアッシュを大量混和したコンクリートのフレッシュ特性」では、実際のコンクリート構造物にこのようなコンクリートを使用する場合に、施工面で必要な基本的なデータを提供している。フライアッシュ大量混和コンクリートは容易に高流動コンクリートにすることが出来るため、ここでは高流動コンクリートを中心に実験的研究を行っている。

 第5章「フライアッシュを大量混和したコンクリートの乾燥収縮特性」では、種々の条件下でのフライアッシュ大量混和コンクリートの乾燥収縮測定結果から、この種のコンクリートにおける乾燥収縮ひずみ算定式を提案した。

 第6章「フライアッシュを大量混和したコンクリートの圧縮強度特性」では、フライアッシュ大量混和コンクリートの圧縮強度に及ぼすフライアッシュの品質特性、すなわち強熱減量、粉末度などの影響、および混和量と圧縮強度発現特性を実験的に明らかにし、これをもとにフライアッシュを任意量混和したコンクリートの圧縮強度の経時変化を定量的に推定できる圧縮強度発現推定式を提案した。

 第7章「フライアッシュを大量混和したコンクリートの中性化特性」では、フライアッシュを大量混和する時の最大の問題点である中性化抵抗性を取り上げ、硬化体の空隙構造、水酸化カルシウムの残存量などの分析から、一般のポルトランドセメント使用時に匹敵する中性化抵抗性をもつためのセメント使用量、フライアッシュ混和量の限界を明らかにし、鉄筋コンクリートの耐久性問題の解決手法を提示している。

 第8章は、「結論」と題して、本研究の結論と今後の課題を述べている。

 以上のように、本研究は、エネルギー資源多様化、産業廃棄物の有効利用の観点からの重要課題であるフライアッシュの建築構造用コンクリートへの利用拡大という課題に対し、実用的に有用な資料と手法を提示したものであって、コンクリート工学の発展に大きく寄与するものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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