学位論文要旨



No 114192
著者(漢字) 朴,承根
著者(英字)
著者(カナ) パク,スンクン
標題(和) 公共・民間協力事業に関する研究 : 第3セクターを中心に
標題(洋)
報告番号 114192
報告番号 甲14192
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4318号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大西,隆
 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 教授 西村,幸夫
 東京大学 助教授 城所,哲夫
 東京大学 講師 小泉,秀樹
内容要旨

 日本の民活事業は、戦後早い時期から始まったが、本格的に民間活力を生かした事業が行われたのは1980年代に入ってからである。1982年の行政改革に関する第3次答申(臨時行政調査会)においては、指導・規制の行政から民間の活力を基本とする方向づけが行われ、適切な事業の民営化が提示された。その後も民活の流れは止まらず、バブル経済の好況を背景に地方公共団体ごとに多数の公共・民間協力事業を推進するようになった。

 しかし、1990年代に入ってから、第3セクターによって推進された事業のうち、多数の企業が経営不振による運営不可能に陥ったり、ひいては、破綻するケースも少なくない。とりわけ、景気の不調にさらされやすい、株式会社・有限会社の形態をとった第3セクター企業の場合が社会的問題を呼び起こしている。

 商法法人である株式・有限会社の第3セクター企業は、公共と民間の長所を出せるところか、寄り合い所帯となり無責任体質になる場合が多くなっている。

 第3セクター企業には、地方公共団体も出資を行っているので、税金を納めている住民にもかなりの影響を及ぼす可能性がある。

 このような事情を背景に、本論文では、第3セクターの現状を正しく把握することをはじめとして、第3セクター企業を分析することによって、問題点を論理的かつ定量的に抽出し解決方案を提示することに目的をおいている。

 まず、第1章で、日本の民活事業、とりわけ第3セクターの歴史的経緯や第3セクターの現時点での位置づけを説明し、日本で民活が行われた背景と民活促進のための関連法制度を整理し、第2章で諸外国の公共・民間協力事業の手法と比較を行った。海外の事業手法として取り上げたのは、英国のPFI、フランスのSEM、そして米国のNPOである。

 そして、第3章からは日本の第3セクター企業について分析を行った。第3章では第3セクター企業の組織分析を、第4章では財務評価を行い、第5章で、第3セクター企業の類型化及び類型別の手法提案を行った上で、その他の総合的分析及び評価を行った。第6章は、ケース・スタディの部分である。

 それでは、まず、第3セクター企業の組織についてみてみよう。

 社員の規模が同じであっても、社員構成要素の相違によって企業運営に及ぼす影響に差が生じる。つまり、出向社員よりはプロパー社員の方が、そして非常勤社員よりは常勤社員の方が企業の運営を効率よくするのである。しかし、第3セクター企業は、プロパー役員の割合が低い傾向を示しており効率的運営が困難な状態である。そして、地方公共団体の首長が、当該第3セクター企業の代表者の座に座っている場合は、経営責任を公共団体で負わなければならないことが多く、地方財政に負担がかかることも考えられる。

 次は財務に関する分析内容である。第3セクター企業の自己資本比率や流動比率など、企業の安定性を表す指標においては民間企業を上回っている。それは、多額の出資や補助金、政策金融などが影響を及ぼしたと考えられる。しかし、収益性と成長性を表す、売上高経常利益率と経常利益伸び率では、民間企業の全業種平均を下回っている。即ち、恵まれた経営環境を活かせなかったのである。第3セクターの経営能力不足を象徴する結果と言える。

 地方財政に第3セクターが及ぼす影響も検討してみたが、第3セクターに多額の出資をしている自治体ほど財政状況が厳しくなっている。

 欧米国家ではそれぞれの特徴を生かした民活が発展している。英国の場合は、ファイナンスはもちろん事業リスクを全的に民間に転嫁した手法により、国の財政を立て直すことができた。方向的に英国とは異なるが、フランスでも、公共主導の民活を成功的に行っている。その影には、民活の長い歴史と絶えない法制度の整備などの努力があった。このように、英国とフランスともに民活を成功させた秘訣としては、徹底とした経済理論で物事を考えることが挙げられる。

 これからの公共・民間協力事業を効率よく遂行するためには、経済理論に立脚した事業検討を行うべきである。客観的な採算性検討はもちろん、ファイナンス手法の多様化や事業手法の多様化も同時に図るべきである。それから、公務員出向と経営責任の所在を法的に定めておく必要がある。そして、この研究をしながら感じたことでもあるが、第3セクター企業のほとんどは財務指標などを公開していない。事業の妥当性を検討する際に有効に利用される方法の一つが先行事例を参考することである。したがって、将来の事業成功のためにも情報開示を義務づける必要がある。

 最後に、地方財政状況に見合った事業を選ぶのも忘れてはならない。英国のように、民活によって財政を立て直すことは、すぐにできるものではないが、民活によって財政が破綻に追い込まれることはすぐにでも防げることである。

 この研究は、経済的理論に基づき収益性などに重点をおいているが、公益的立場からの研究なども今後必要であろう。

審査要旨

 本論文は、日本の第3セクターを対象に、収益性と公益性の二つの観点から、詳細な実証分析を試み、多くの第3セクターが、収益性を損なっているために、その活動を維持し得ず、結果として公益的な活動目的も全うし得ない現状にあることを明らかにした。いわゆる都市開発に係わる官民の協力関係論に、実証的観点から新たな知見を付与したものであり、評価は高い。

 本論文の背景は、1980年代に入ってから本格的に行われた民間活力活用型の都市開発事業である。1982年の行政改革に関する第3次答申(臨時行政調査会)においては、指導・規制の行政から民間の活力を基本とする方向づけが行われ、適切な事業の民営化が提示された。その後も民活の流れは拡大し、バブル経済の好況を背景に地方公共団体ごとに多数の公共・民間協力事業を推進するようになった。しかし、1990年代に入ってから、第3セクターによって推進された事業のうち、多数の企業が経営不振による運営不可能に陥ったり、ひいては、破綻するケースも少なくない。

 ことに商法法人である株式・有限会社の第3セクター企業は、公共と民間の長所を出せるところか、寄り合い所帯となり無責任体質になる場合が多くなっているとして、本論ではこの点に着目する。

 このような事情を背景に、本論文では、第3セクターの現状を正しく把握することをはじめとして、第3セクター企業を分析することによって、問題点を論理的かつ定量的に抽出し解決方案を提示することに目的をおいている。

 まず、第1章で、日本の民活事業、とりわけ第3セクターの歴史的経緯や第3セクターの現時点での位置づけを説明し、日本で民活が行われた背景と民活促進のための関連法制度を整理し、第2章で諸外国の公共・民間協力事業の手法と比較を行った。海外の事業手法としては、英国のPFI、フランスのSEM、そして米国のNPOが取り上げられている。

 そして、第3章からは日本の第3セクター企業についての分析に入る。第3章では第3セクター企業の組織分析を、第4章では財務評価を行い、第5章で、第3セクター企業の類型化及び類型別の手法提案を行った上で、その他の総合的分析及び評価が行われている。第6章は、これらを踏まえて、典型的にケースのケース・スタディが行われている。

 第3セクター企業の組織については、以下のように指摘される。規模が同じであっても、社員構成要素の相違によって企業運営に及ぼす影響に差が生じる。つまり、出向社員よりはプロパー社員の方が、そして非常勤社員よりは常勤社員の方が企業の運営を効率よくする。しかし、第3セクター企業は、プロパー役員の割合が低い傾向を示しており効率的運営が困難な状態である。そして、地方公共団体の首長が、当該第3セクター企業の代表者の座に座っている場合は、経営責任を公共団体で負わなければならないことが多く、地方財政に負担がかかることも考えられると指摘する。

 次は財務に関する分析のポイントは以下である。第3セクター企業の自己資本比率や流動比率など、企業の安定性を表す指標においては民間企業を上回っている。それは、多額の出資や補助金、政策金融などが影響を及ぼしたと述べる。しかし、収益性と成長性を表す、売上高経常利益率と経常利益伸び率では、民間企業の全業種平均を下回っている。即ち、恵まれた経営環境を活かせなかったのである。第3セクターの経営能力不足を象徴する結果と指摘する。

 これからの公共・民間協力事業を効率よく遂行するためには、経済理論に立脚した事業検討を行うべきである。客観的な採算性検討はもちろん、ファイナンス手法の多様化や事業手法の多様化も同時に図るべきと述べる。第3セクター企業のほとんどが財務指標などを公開していないことも改善点であるとする。将来の事業成功のためにも情報開示を義務づける必要がある。

 このように、本論文は、実証的な方法により、都市開発分野を中心とした日本の第3セクターの実体解明に成功した。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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