本研究は、自由液面式光造形法において、くぼみを使って、局所的に加工を行う樹脂液面レベルを高精度に制御し、深さ方向の分解能を向上させる方法、また、それによってフレキシブル機構を含むマイクロマシンの3次元形状部品を、10m以下の加工精度で製作することを可能にする光造形システムを提案し、設計・試作することを目的とする。 マイクロマシン製作に関する研究は、これまで盛んに行われてきているが、現状では、主にSiliconプロセスやLIGAを代表とする半導体プロセスによって製作されており、平面的な構造が多く、複雑な3次元形状を作れないことが大きな問題となっている。一方で、近年、加工自由度が高く、短時間で複雑な3次元形状を一体成形できる加工法として知られている光造形法をマイクロマシン製作に応用する研究が注目されている。従来のマイクロマシン用の高い精度を必要とする光造形加工では、加工面を高精度な平滑面にする必要があり、石英板などの窓を介してレーザを照射する規制液面方式が採用されている。この場合、窓と接着している硬化した層は窓から分離する時、剥離性の問題があり、接触型の規制液面方式はフレキシブルなマイクロ機構製作には適用できない。すでにラピッドプロトタイピングなどに応用されている通常精度の自由液面式光造形加工では、表面張力などの影響で自由液面は高精度な平滑面にはならないので、高精度のマイクロ加工は出来ないのが現状である。 この問題を解決するために本研究では、自由液面式を採用して局所的に液面レベル(高さ)を高精度(7m)にフィードバック制御する。すなわち、レーザ光の照射点の近傍にくぼみを形成させ、液面上下の圧力差の操作によって、造形面として利用するくぼみの液面レベルをリアルタイムで計測・制御する。 本研究において主要な内容をまとめると次のとおりである。 (1)三種類のくぼみを制御する方法を提案、検討、実験した。 方法一:空気圧調整によるくぼみ制御法。液体樹脂にノズルを挿入し、密閉したノズル内の空気に圧力をかけてくぼみを形成する。ノズル内空気の圧力を調整することでくぼみのレベルと形状を制御する。この方法では、大気圧と温度の変動の影響により、くぼみの液面が激しく変動することが判明した。10mよりも高い制御精度を求める場合、装置全体を完全に大気と遮断し、0.01℃の精度で温度制御する必要がある。 方法二:樹脂量調整によるくぼみ制御法。この方式では樹脂を樹脂タンクに密閉し、くぼみを形成する部分に穴を開けて大気と接触させ、そこにくぼみを形成する。樹脂タンク中の樹脂量の調整によりくぼみのレベルを制御する。この方法では、大気圧と温度の影響が少なくなる。しかし、移動板の精度や摩損の問題が生じ、樹脂量調整に対するくぼみの反応は遅いこともある。 方法三:自由液面の液面差の調整によるくぼみ制御法。くぼみを形成するノズルと樹脂タンク中の液面両方を開放し、くぼみ液面と樹脂タンク中の液面との液面差を調整することによって、くぼみのレベルを制御する。この方法では、上述二つの方法の問題はなくなり、制御しやすく、また、装置も簡便である。一方、ステージ移動やモータ回転の振動の影響があり、その影響で、くぼみを制御する時間が長くなることがある。 (2)くぼみ形状の数式化モデルの解析に基づいて、くぼみレベルや安定性に影響する要素を分析した。くぼみの形状を決めるのは、樹脂の粘性、表面張力、ノズルの材質、ノズル内表面の粗さ、そしてノズルの内径などである。くぼみのレベルに影響する要素は主に樹脂タンクの振動、加工テーブルの移動、液面計測用赤外線の熱、温度の変化などである。以上の解析と分析に基づいて、装置構造、重要部品の材料を選択し、制御プログラムを最適化することによって、制御精度を2mまで向上できた。 (3)液層厚さの検討。タンク内液体樹脂の固有振動数と固液界面にある接触層などの影響によって、くぼみは加工テーブルに7m以下に接近すると、自励振動が生じ、最後にテーブルに張り付いてしまうことが分かった。この現象により、現在の実験装置構造(樹脂タンク形状、樹脂量、ノズル径なと)では、造形可能液層厚さは、7mが限界である。すなわち、Z方向の加工分解能は7mとなる。 (4)3次元CADデータの処理、実験装置の設計・試作、造形実験を行った。実際の造形用ドットファイルを得るため、3次元CADから得たSTL表面データからHPGLスライス輪郭データに変換し、そして、造形ファイルを形成する。液面差の調整によるくぼみ制御法(方法三)を採用した実験装置の主な部分は、紫外線レーザ、AOMシャタ、光路、液面計測計、ステージ、樹脂タンク、加工テーブル、そしてくぼみ形成用ノズルなどである。この実験装置を使って、マイクロ・フレキシブル造形物(Cantilever)を製作した。 以上のように、本研究では、初めて光造形における自由液面を制御対象として扱って、くぼみ調整による液面を任意に制御する方法を提案・実現した。また、従来の自由液面式で不可能であった7mの加工分解能を達成することができた。これらの成果により、本研究のマイクロマシン製作への有効性が確認された。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |