学位論文要旨



No 114201
著者(漢字) 謝,天宇
著者(英字)
著者(カナ) シュエ,ティエンユー
標題(和) 自由液面の制御によるマイクロ光造形に関する研究
標題(洋) Studies on Micro Photoforming Fabrication with Free Hollow Surface Control
報告番号 114201
報告番号 甲14201
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4327号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中島,尚正
 東京大学 教授 中川,威雄
 東京大学 教授 吉本,堅一
 東京大学 教授 佐藤,知正
 東京大学 助教授 村上,存
内容要旨

 光造形法は、紫外線などの光で光硬化性樹脂を選択的に固化させる積層造形法の一種である。光造形では、露光がなされる樹脂表面の状態によって、二つの方式に区別される。一方の「規制液面式」は、石英板などの窓を介してレーザを照射するため高精度な平滑面を得られるが、窓と接着している硬化した層は窓から分離する時、剥離性の問題があり、接触型のこの方式はフレキシブルなマイクロ機構製作には適用できない。もう一方の「自由液面式」は、液体樹脂の自由液面に対して露光を行う方法である。この方法では、剥離性の問題が起こらないが、表面張力などの影響で自由液面は高精度な平滑面にはならないので、高精度のマイクロ加工は出来ないのが現状である

 マイクロ造形にとって、液層の厚さと液面の精度は両方とも重要である。本研究では、自由液面式を採用し、薄い層と高精度な液面を求めるため、局所的に液面レベル(高さ)を高精度(7m)にフィードバック制御する方法を提案した。すなわち、レーザ光の照射点の近傍にくぼみを形成させ、造形面として利用するくぼみの液面レベルをリアルタイムで計測・制御する。安定且つ高精度的にくぼみを制御するには、三つのくぼみ制御法を提案・検討した:つまり空気圧調整制御法、樹脂量調整制御法及び自由液面差調整制御法。

 空気圧調整制御法は、大気圧や温度の影響を受けやすいため、安定な液面が得にくい。樹脂量調整制御法は、移動板の精度や摩損の問題が生じ、針で樹脂量の調整に対するくぼみの反応は遅いこともあるため、高精度に液面を制御するには難しい。自由液面差調整制御法は、上述二つの方法の問題はなくなり、制御しやすく、また装置も簡便である。一方、ステージ移動やモータ回転の振動の影響があり、その影響で、くぼみを制御する時間が長くなることがある。

 図1に液面差調整制御法の原理を示している。図3に示すように、くぼみの液面端点Aに垂直方向に働く力は液体表面張力、界面張力、固体表面張力である。これら張力の合力は、くぼみの下に高さH0の液体の重さと等しいであることに従って、

 

 

 の関係が導かれる。この二方程式に、Sは固体表面張力、Lは液体表面張力、SLは界面張力、は接触角である。Gは重力加速度、は樹脂の密度である。

Figure 1.Liquid hollowFigure 2.Fluid statics view(a)and force balance on vertical cross section of hollow

 そして、くぼみの断面形状は、次の式に示される。

 

 ここに、

システム構造

 液面差調整によるくぼみ制御法の有効性を検証するために、この方法に基づいて実験装置を設計・製作した(図3)。くぼみ形成用チューブは外の壁に固定され、樹脂タンクは上下動けるようにし、加工テーブルがX、Y、Zステージとつながっている。造形中に、樹脂固化用レーザーはチューブの上からくぼみの液面に照射され、レーザフォーカス計測計が常にくぼみのレベルを測る。システムの主な構成要素は下記の通りである:

 ●くぼみ形成用の1mm穴が付いているチューブ

 ●X、Y、Z三方向移動できる加工テーブル

 ●くぼみを調整するために上下動ける樹脂タンク

 ●液面計測装置(レーザフォーカス)

 ●レーザー光路、AOMレーザーシャタ

Figure 3.Schematic of the system

 本システムでは、タンク内液体樹脂の中に置ける加工テーブルの上で、造形加工は行われる。従って、通常光造形システムでのレーザーの描画操作と違って、加工テーブルを液体樹脂の中にスキャンする。くぼみのレベルは、樹脂タンクの位置の調整により、制御される。

 くぼみ液面の制御実験では、くぼみの液面はテーブルの表面から7umの距離のところまでに下がると,くぼみの表面は振動し始まる。この振動の振動周波数は2Hzぐらい,振動幅は1um,2um,3um……,だんだんと大きくなり,最後、くぼみはテーブルの表面にくっ付いてしまい、振動は終わる(図4)。くぼみ振動を起こる可能な原因は三つと考えられる:

 (a)、容器内の液体の固有振動数。

 (b)、レーザフォーカスの赤外線照射による熱対流。

 (c)、マランゴニ効果。樹脂内に混ぜている希釈剤物質は揮発性がある。樹脂液層はすごく薄くなる場合、この揮発性の誘因で液面は自励振動が生じる。このような液体表面に起きる微小振動現象は、マランゴニ効果と言われる。

 従って、本造形装置は液層の厚さが7m限界である。

Figure 4.Hollow adhered to the table
実験検討

 サンプル造形加工の前に、くぼみ形成・調整及びシステムの制御を最適化するため、一連の実験を行った。その後、樹脂硬化深度と硬化幅の目盛り決めのため、幅50m、グリッド数17×14のメッシュサンプルを作ってみた。硬化深さは15m、通常自由液面方式の約三分の一である。

 フレキシブル、オーバーハングイングなマイクロ構造物(cantilever)を作ってみた。従来の光造形では、樹脂の収縮や重さ垂下などによる変形を防止するため、サポートを付加して造形する必要がある。しかし、マイクロ光造形には、サポートは適用できない。後処理でサポートを除くのは難しいわけである。一方、マイクロ世界には、寸法効果という現象がある:微小サイズの場合、構造物の強度はその自身の重力そして収縮力をかなり上回る可能性が大きい。そのため、一定の限界以下、レキシブルなマイクロ造形物にサポートを付けずに造形できることも考えられる。図5に示すように、実際にサイズが1.4mm×1.2mm×0.3mmのレキシブルなcantileverサンプルを成功に作った。オーバーハングイングの量(高さ)は400umもある。

Figure 5.Photographs of flexible cantilever

 以上のように、本研究では、初めて光造形における自由液面を制御対象として扱って、くぼみ調整による液面を任意に制御する方法を提案・実現した。また、従来の自由液面式で不可能であった7mの加工分解能を達成することができ、これらの成果により、本研究のマイクロマシン製作への有効性が確認された。

審査要旨

 本研究は、自由液面式光造形法において、くぼみを使って、局所的に加工を行う樹脂液面レベルを高精度に制御し、深さ方向の分解能を向上させる方法、また、それによってフレキシブル機構を含むマイクロマシンの3次元形状部品を、10m以下の加工精度で製作することを可能にする光造形システムを提案し、設計・試作することを目的とする。

 マイクロマシン製作に関する研究は、これまで盛んに行われてきているが、現状では、主にSiliconプロセスやLIGAを代表とする半導体プロセスによって製作されており、平面的な構造が多く、複雑な3次元形状を作れないことが大きな問題となっている。一方で、近年、加工自由度が高く、短時間で複雑な3次元形状を一体成形できる加工法として知られている光造形法をマイクロマシン製作に応用する研究が注目されている。従来のマイクロマシン用の高い精度を必要とする光造形加工では、加工面を高精度な平滑面にする必要があり、石英板などの窓を介してレーザを照射する規制液面方式が採用されている。この場合、窓と接着している硬化した層は窓から分離する時、剥離性の問題があり、接触型の規制液面方式はフレキシブルなマイクロ機構製作には適用できない。すでにラピッドプロトタイピングなどに応用されている通常精度の自由液面式光造形加工では、表面張力などの影響で自由液面は高精度な平滑面にはならないので、高精度のマイクロ加工は出来ないのが現状である。

 この問題を解決するために本研究では、自由液面式を採用して局所的に液面レベル(高さ)を高精度(7m)にフィードバック制御する。すなわち、レーザ光の照射点の近傍にくぼみを形成させ、液面上下の圧力差の操作によって、造形面として利用するくぼみの液面レベルをリアルタイムで計測・制御する。

 本研究において主要な内容をまとめると次のとおりである。

 (1)三種類のくぼみを制御する方法を提案、検討、実験した。

 方法一:空気圧調整によるくぼみ制御法。液体樹脂にノズルを挿入し、密閉したノズル内の空気に圧力をかけてくぼみを形成する。ノズル内空気の圧力を調整することでくぼみのレベルと形状を制御する。この方法では、大気圧と温度の変動の影響により、くぼみの液面が激しく変動することが判明した。10mよりも高い制御精度を求める場合、装置全体を完全に大気と遮断し、0.01℃の精度で温度制御する必要がある。

 方法二:樹脂量調整によるくぼみ制御法。この方式では樹脂を樹脂タンクに密閉し、くぼみを形成する部分に穴を開けて大気と接触させ、そこにくぼみを形成する。樹脂タンク中の樹脂量の調整によりくぼみのレベルを制御する。この方法では、大気圧と温度の影響が少なくなる。しかし、移動板の精度や摩損の問題が生じ、樹脂量調整に対するくぼみの反応は遅いこともある。

 方法三:自由液面の液面差の調整によるくぼみ制御法。くぼみを形成するノズルと樹脂タンク中の液面両方を開放し、くぼみ液面と樹脂タンク中の液面との液面差を調整することによって、くぼみのレベルを制御する。この方法では、上述二つの方法の問題はなくなり、制御しやすく、また、装置も簡便である。一方、ステージ移動やモータ回転の振動の影響があり、その影響で、くぼみを制御する時間が長くなることがある。

 (2)くぼみ形状の数式化モデルの解析に基づいて、くぼみレベルや安定性に影響する要素を分析した。くぼみの形状を決めるのは、樹脂の粘性、表面張力、ノズルの材質、ノズル内表面の粗さ、そしてノズルの内径などである。くぼみのレベルに影響する要素は主に樹脂タンクの振動、加工テーブルの移動、液面計測用赤外線の熱、温度の変化などである。以上の解析と分析に基づいて、装置構造、重要部品の材料を選択し、制御プログラムを最適化することによって、制御精度を2mまで向上できた。

 (3)液層厚さの検討。タンク内液体樹脂の固有振動数と固液界面にある接触層などの影響によって、くぼみは加工テーブルに7m以下に接近すると、自励振動が生じ、最後にテーブルに張り付いてしまうことが分かった。この現象により、現在の実験装置構造(樹脂タンク形状、樹脂量、ノズル径なと)では、造形可能液層厚さは、7mが限界である。すなわち、Z方向の加工分解能は7mとなる。

 (4)3次元CADデータの処理、実験装置の設計・試作、造形実験を行った。実際の造形用ドットファイルを得るため、3次元CADから得たSTL表面データからHPGLスライス輪郭データに変換し、そして、造形ファイルを形成する。液面差の調整によるくぼみ制御法(方法三)を採用した実験装置の主な部分は、紫外線レーザ、AOMシャタ、光路、液面計測計、ステージ、樹脂タンク、加工テーブル、そしてくぼみ形成用ノズルなどである。この実験装置を使って、マイクロ・フレキシブル造形物(Cantilever)を製作した。

 以上のように、本研究では、初めて光造形における自由液面を制御対象として扱って、くぼみ調整による液面を任意に制御する方法を提案・実現した。また、従来の自由液面式で不可能であった7mの加工分解能を達成することができた。これらの成果により、本研究のマイクロマシン製作への有効性が確認された。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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