学位論文要旨



No 114202
著者(漢字) 李,軍旗
著者(英字)
著者(カナ) リー,ジュンチー
標題(和) オープンアーキテクチャCNCを用いたセンサ情報に基づく知能化加工システムの研究
標題(洋)
報告番号 114202
報告番号 甲14202
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4328号
研究科 工学系研究科
専攻 産業機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 長尾,高明
 東京大学 教授 畑村,洋太郎
 東京大学 教授 谷,泰弘
 東京大学 助教授 中尾,政之
 東京大学 助教授 光石,衛
内容要旨

 近年の生産情報化の技術の進歩は著しいが、特に工作機械の数値制御技術においては、オープンアーキテクチャCNCが世界的な話題となっており、その技術の進展が望まれている。本論文は、このオープンアーキテクチャCNC技術を用いてどのような加工技術が展開できるかを調べ、その可能性の一端を示したものである。

 すなわち、旋削において加工物、工具および工作機械の熱変形、力変形を物理モデルを用いて数理的に解析し、ニューラル・ネットワークを用いた場合と物理モデルを用いた場合について加工誤差補償を行ない、従来の補償なしの場合に比較して、たとえばステンレス鋼の丸棒(35×170mm)の切削において、加工誤差を円筒度で20〜35mから1〜3mに向上させること可能としている。

 旋削におけるびびり抑制において、安定限界線図と実時間加工状態判定法を用いて、びびりを十分に実時間で抑制できることを示している。

 また、加工効率評価関数を提案し、これを用いてマシニング・センタにおいて、遺伝的アルゴリズムとニューラル・ネットワーク法により、加工の適応学習制御を行ない、最適加工条件を探索することによい成績を示している。

 さらにオープンアーキテクチャCNC旋盤においてリモートモニタリングとテレ・オペレーションの技術を確立し、JAVA言語を用いて操作をコンピュータ上から容易に行なえるシステムを作成している。

 本論文の概要は以下の通りである。

 第1章「序論」では、本研究の背景と従来の関係する研究成果について幅広く調査し問題点を上げ、本研究の目的と意義について述べている。

 第2章「センサ情報に基づく開放型知能化加工システムの概念と構成」では、従来の生産システムにおける問題点について考察した上で、加工対象や加工環境をセンサで認識し、オープンアーキテクチャCNCと加工に関するモデルとを用い、加工誤差補償、びびり振動抑制および加工条件適応学習制御により単品を迅速に精度良く加工するシステムについて、その概念と基本構成について述べている。特にその概念に基づいて構築した開放型知能化旋盤の構成について紹介している。

 第3章「旋削における加工誤差の理論解析」では、非常によく用いられる外周面旋削における加工誤差の物理モデルを構築している。本章では、高精度加工を達成するためには、加工精度低下の各要因を明らかに解明することが重要であることを主張し、弾性学、材料力学、熱伝導の鏡像理論および移動熱源理論を用い、加工物の外周面を旋削加工した場合の加工物、工具、工作機械の力、熱変形について理論式を導いている。その理論式を用いて数値計算を行ない、切削条件、送り方向、加工物の形状、材質および支持方式が力、熱変形に及ぼす影響を調べている。さらに、実験を行なって理論的解析と比較検討している。

 第4章「センサ情報に基づく実時間加工誤差補償」では、高精度加工を目指して、センサ情報に基づくニューラルネットワークモデルによる加工誤差補償手法、および、3章で構築した物理モデルによる加工誤差補償手法を提案している。また、提案した加工誤差補償手法、および、構築したシステムの加工誤差補償機能の有効性を確認するための実験結果について述べている。

 第5章「旋削におけるびびり振動の解析と抑制」では、まず、旋削におけるびびり振動を解析し、数値計算によって、理論的安定限界線図を求めている。また、加振実験、切削実験を行なって、実験的安定限界線図をまとめて、理論解析結果と比較ている。さらに、実時間加工状態判定によるびびり振動の抑制方法と振動制御の実験結果を記述している。

 第6章「加工条件の適応学習制御」では、まず、多目標最適化機能を有するジェネティックアルゴリズム(GA)を加工条件の多目標最適化問題へ適用し、ジェネティックアルゴリズム(GA)による加工条件の多目標最適化手法を提案している。次、エンドミル切削におけるGAを用いた高効率準動的工具経路生成手法を検討している。また、遺伝的アルゴリズムの最適化機能とニューラルネットワーク(NN)の学習機能を融合して、加工条件の適応学習制御手法を提案している。さらに、提案した適応学習制御手法をボールエンドミルによる曲面加工に応用して、行なった切削実験を記述している。

 第7章「オープン化工作機械のリモートリングとテレ・オペレーション」では、ネットワークとの整合性が高く、オブジェクト性にも優れたJAVA言語を用い、開発したオープンアーキテクチャCNC旋盤の操作インターフェイス、これを実装したオープン化CNC旋盤のリモートモニタリングとテレ・オペレーションシステムについて記述している。

 第8章「総括と展望」では、提案したシステムについて考察を加え、将来の加工システムについて展望している。

 第9章「結論」では、以上の成果をまとめている。

 以上を要するに本論文は、単品を短期間に精度良く加工するために、オープンアーキテクチャCNCを用いた、センサ情報に基づく加工システムの基本構成を示し、新たに加工誤差物理モデル、それに基づく加工誤差補償手法、実時間加工状態判定法と加工条件適応学習制御手法について提案し、JAVA言語を用いたオープン化工作機械のリモートモニタリングとテレ・オペレーション用操作インターフェイスを開発し、これらを統合することにより加工機械の知能化を実現したものであり、今後の加工システムに貢献する所は大きい。

審査要旨

 近年の生産情報化の技術の進歩は著しいが、特に工作機械の数値制御技術においては、オープンアーキテクチャCNCが世界的な話題となっており、その技術の進展が望まれている。本論文は、このオープンアーキテクチャCNC技術を用いてどのような加工技術が展開できるかを調べ、その可能性の一端を示したものである。

 すなわち、旋削において加工物、工具および工作機械の熱変形、力変形を物理モデルを用いて数理的に解析し、ニューラル・ネットワークを用いた場合と物理モデルを用いた場合について加工誤差補償を行ない、従来の補償なしの場合に比較して、たとえばステンレス鋼の丸棒(35mm×170mm)の切削において、加工誤差を円筒度で20〜35mから1〜3mに減少させることを可能としている。

 旋削におけるびびり抑制において、安定限界線図と実時間加工状態判定法を用いて、びびりを十分に実時間で抑制できることを示している。

 また、加工効率評価関数を提案し、これを用いてマシニング・センタにおいて、遺伝的アルゴリズムとニューラル・ネットワーク法により、加工の適応学習制御を行ない、最適加工条件を探索することによい成績を示している。

 さらにオープンアーキテクチャCNC旋盤においてリモートモニタリングとテレ・オペレーションの技術を確立し、JAVA言語を用いて操作をコンピュータ上から容易に行なえるシステムを作成している。

 本論文の概要は以下の通りである。

 第1章「序論」では、本研究の背景と従来の関係する研究成果について幅広く調査し問題点を上げ、本研究の目的と意義について述べている。

 第2章「センサ情報に基づく開放型知能化加工システムの概念と構成」では、従来の生産システムにおける問題点について考察した上で、加工対象や加工環境をセンサで認識し、オープンアーキテクチャCNCと加工に関するモデルとを用い、加工誤差補償、びびり振動抑制および加工条件適応学習制御により単品を迅速に精度良く加工するシステムについて、その概念と基本構成について述べている。特にその概念に基づいて構築した開放型知能化旋盤の構成について紹介している。

 第3章「旋削における加工誤差の理論解析」では、非常によく用いられる外周面旋削における加工誤差の物理モデルを構築している。本章では、高精度加工を達成するためには、加工精度低下の各要因を明らかに解明することが重要であることを主張し、弾性学、材料力学、熱伝導の鏡像理論および移動熱源理論を用い、加工物の外周面を旋削加工した場合の加工物、工具、工作機械の力、熱変形について理論式を導いている。その理論式を用いて数値計算を行ない、切削条件、送り方向、加工物の形状、材質および支持方式が力、熱変形に及ぼす影響を調べている。さらに、実験を行なって理論的解析と比較検討している。

 第4章「センサ情報に基づく実時間加工誤差補償」では、高精度加工を目指して、センサ情報に基づくニューラルネットワークモデルによる加工誤差補償手法、および、3章で構築した物理モデルによる加工誤差補償手法を提案している。また、提案した加工誤差補償手法、および、構築したシステムの加工誤差補償機能の有効性を確認するための実験結果について述べている。

 第5章「旋削におけるびびり振動の解析と抑制」では、まず、旋削におけるびびり振動を解析し、数値計算によって、理論的安定限界線図を求めている。また、加振実験、切削実験を行なって、実験的安定限界線図をまとめて、理論解析結果と比較している。さらに、実時間加工状態判定によるびびり振動の抑制方法と振動制御の実験結果を記述している。

 第6章「加工条件の適応学習制御」では、まず、多目標最適化機能を有するジェネティックアルゴリズム(GA)を加工条件の多目標最適化問題へ適用し、ジェネティックアルゴリズム(GA)による加工条件の多目標最適化手法を提案している。次に、エンドミル切削におけるGAを用いた高効率準動的工具経路生成手法を検討している。また、遺伝的アルゴリズムの最適化機能とニューラルネットワーク(NN)の学習機能を融合して、加工条件の適応学習制御手法を提案している。さらに、提案した適応学習制御手法をボールエンドミルによる曲面加工に応用して行なった切削実験を記述している。

 第7章「オープン化工作機械のリモートモニタリングとテレ・オペレーション」では、ネットワークとの整合性が高く、オブジェクト性にも優れたJAVA言語を用い、開発したオープンアーキテクチャCNC旋盤の操作インターフェイス、これを実装したオープン化CNC旋盤のリモートモニタリングとテレ・オペレーションシステムについて記述している。

 第8章「総括と展望」では、提案したシステムについて考察を加え、将来の加工システムについて展望している。

 第9章「結論」では、以上の成果をまとめている。

 以上を要するに本論文は、単品を短期間に精度良く加工するために、オープンアーキテクチャCNCを用いた、センサ情報に基づく加工システムの基本構成を示し、新たに加工誤差物理モデル、それに基づく加工誤差補償手法、実時間加工状態判定法と加工条件適応学習制御手法について提案し、JAVA言語を用いたオープン化工作機械のリモートモニタリングとテレ・オペレーション用操作インターフェイスを開発し、これらを統合することにより加工機械の知能化を実現したものであり、今後の加工システムに貢献する所は大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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