No | 114210 | |
著者(漢字) | 近藤,伸亮 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コンドウ,シンスケ | |
標題(和) | 細胞型機械における自己組織化 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 114210 | |
報告番号 | 甲14210 | |
学位授与日 | 1999.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4336号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 地球環境の有限性が議論される今日では、機械システムは単に運用効率を最大化するように設計するだけではなく、製造した機械システムをその設計から運用、保全、改良、廃棄、リサイクルにいたるまでのライフサイクル全体を視野におさめた上で効率化することが望まれている。しかし、機械システムの設計段階において将来の運用条件や、運用環境、ユーザのニーズなどの変動を予測するのは難しい上に、これらの変動する諸条件全てに適応し、十分な機能を発揮可能なシステム全体の構造、つまりシステム構成部品や機能間の相互結合関係や相互依存関係を設計段階において解析的に発見するのは一般的に困難である。 これらの要求に応える新しい機械システム設計のパラダイムとして自律分散システムが注目されている。自律分散システムではシステム全体を構成する個々の要素が知能を持ち、自律的に行動することでシステム全体としての要求機能を満足することを目指す。自律行動要素の集団的行動として全体機能を発現することから、従来の集中制御型の機械システムとは異なり,全体機能の発現にかならずしも全体構造を必要としないという特徴を持つ。このことから、自律分散システムは大きな柔軟性を有するが、各要素の自律行動の結果として全体機能を発現するためシステム全体としての運用効率が低いという特徴がある。 細胞型機械は、システム全体を自律的な知能要素により構成する自律分散型機械システムの一種である。本論文では、細胞型機械における自己組織化に焦点をあて、自己組織化能力を持つ細胞型機械の有用性を検証することを目的とする。具体的には、現在最も強く、運用環境、運用条件、ユーザのニーズなどの変化に柔軟に対応することが求めらる生産システムを例として、細胞型生産システムの開発を行なう。本論文では、以下のことを行なう。 第一に、細胞型生産システムの最小構成の実験システムを実機で作成し、細胞型生産システムの機械システムとしての実現可能性について検討する。第二に、細胞型生産システムの計算機シミュレーショシにより、細胞型生産システムにおける自己組織化手法を示し、種々の条件のもとで細胞型生産システムが種々の全体構造を獲得することを示し、細胞型生産システムが変動する種々の条件に柔軟に適応可能であることを示す。 | |
審査要旨 | 本論文は、新しい機械システムの設計パラダイムとしての細胞型機械における自己組織化を細胞型生産システムを例にして論じたものである。 地球環境の有限性が議論される今日では、機械システムは単に製造コストや運用効率を最大化するように設計するだけではなく、その設計、生産、運用、保全、改良、廃棄、リサイクルといったライフサイクル全体における最適化設計が重要となっている。しかし、機械システムの設計段階において将来の運用条件や、運用環境、ユーザのニーズなどの変動を予測するのは難しい上に、これらの変動する諸条件全てに適応し、十分な機能を発揮可能なシステム全体の構造、つまりシステム構成部品や機能間の相互結合関係や相互依存関係を設計段階において解析的に発見するのは一般的に困難である。 そこで、これらの要求に応える新しい機械システム設計のパラダイムとして自律分散システムが注目されている。自律分散システムではシステム全体を構成する個々の要素が知能を持ち、自律的に行動することでシステム全体としての要求機能を満足することを目指す。局所的情報に基づいて自律的に行動する要素の集団的行動として全体機能を発現することから、従来の集中制御型の機械システムとは異なり、全体機能の発現に全体を制御するシステムを必要とせず、また大きな柔軟性を有する。しかし、各要素の自律行動の結果として全体機能を発現するためシステム全体としての運用効率が低い、あるいはデッドロックを起こし易いなどの問題がある。 細胞型機械は、システム全体を自律的な知能要素により構成する自律分散型機械システムの一種である。本論文が報告する研究では、細胞型機械における自己組織化に焦点をあて、細胞型機械の例として細胞型生産システムに着目し、自己組織化によって変動する生産条件に柔軟に対応可能であることを、計算機シミュレーション及び実験機による実験によって示した。これによって細胞型機械における自己組織化の考え方の有用性を検証することに成功している。 本論文は、まず第1章「序論」で、本研究の背景、目的、論文の構成について述べた後、第2章「細胞型機械」では、細胞型機械の基本的考え方、特徴について述べた後、細胞型機械における自己組織化を定義し、その実現手法について考察し、本研究の位置付けを試みている。 第3章「細胞型生産システム」では、生産システムの現状について述べ、次世代生産システムへの要求事項を整理し、既存の研究をより詳細にサーベイしている。その結果、細胞型生産システムへの要求として、運用環境、運用条件、ユーザのニーズなどの変化に柔軟に対応がもっとも重要であることを明らかにした。 第4章「細胞型生産システムの開発」においては、本研究で開発したシステムの設計方針、ハードウェア及び動作アルゴリズムの詳細について述べた後、実験機による検証について述べている。 第5章「細胞型生産システムにおける自己組織化シミュレーション」では、計算機シミュレーションによって実験機よりも大規模な生産システムの自己組織化の解析について報告している。すなわち、細胞型生産システムにおける自己組織化手法を示し、種々の条件のもとで細胞型生産システムが種々の全体構造を獲得することを示し、細胞型生産システムが変動する種々の条件に柔軟に適応可能であることを示している。具体的には、少種多量生産、中種中量生産、多種少量生産、変種変量生産の各ケースについて、生産システムの基本的構成である専用機によるライン構成、FMS的な構成、そして屋台村方式と呼ばれる多能機械ないし作業者による構成を自己組織化による最適化結果として決定可能であることを示した。また、これを決定するパラメータとして生産要求に対する各セルにおける加工時間、段取り時間、ワークの移動時間の相互の比が重要な位置を占めることを発見している。さらに、これを実際の生産システムの例としてハードディスク製造ラインに応用し、解析を行い、本論文の考え方の妥当性を検証している。 第6章「考察」では、以上の結果を総括し、第5章で述べた計算機シミュレーションシステムが、生産システムの概念設計段階において、基本的配置やシステム構成を決定するためのツールとなりうることを示した 第7章では本論文の結論を述べ、将来の研究の展望について議論している。 これらの結果は、細胞型生産システムの考え方を提案するものであり、理論的な独創性のみならず実証を行っている点で、工学的有用性も高く、今後の展開も有望であるが、これは論文としての完結性も示している。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54691 |