光技術は大いに発展しているが、光を利用する各種装置に欠かせないものにミラーやレンズやプリズムのような光学素子がある。この光学素子の形状に最近は非球面形状でしかも非軸対称のものが多く要求されるようになっている。このような光学素子を高精度かつ効率的に製作する方法については、これまでにも種々検討されてきたが、いまだ確立された製造法が存在するとは言えない現状にある。 本研究はこの課題を解決すべき取組んだもので、「非球面光学素子の超精密加工に関する研究」と題し、緒論と総括を含め全7章より構成されている。 第1章では、種々の光学素子とその加工法について、現状と過去の研究状況について概説すると共に、非球面光学素子の効率的な加工においては多くの問題をかかえていること、並びに測定法にも解決すべき課題が多いことを指摘し、本研究を行う背景を明らかにしている。 第2章では非球面加工に、鏡面研削が可能とされるELID研削を適用させることを試みている。その結果従来砥石による研削に比較して、砥石の切れ味を一定にすることができ、この特徴を生かすために、加工中の砥石の損耗や形状くずれに対応して、砥石形状誤差を補償する方法の研究を行っている。この補償方法については、必ずしも新しい考え方ではないが、ELID研削と組合わせることにより適用範囲を拡大したものと認められる。 第3章は、硬質の大型光学素子の加工において発生する砥石径の変化への対策として、工具径の変化をあらかじめ予測して補償制御する方法を新たに開発し、実験により高精度加工に効果があることを確かめている。 上記の補償制御をさらに有効に活用するために、加工機上での加工物の高精度計測をすることが前提となる。現在この目的のための十分な精度をもつセンサが存在しないことにかんがみ、第4章では0.1mの精度で測定範囲をかなり拡大した小型計測装置を開発している。具体的には、光ファイバー式レーザ干渉変位計、および軸受け剛性を保ちながら測定圧を微小に制御できる特殊エアースライドの利用により高精度測定を可能にし、また加工機のスケールユニットから直接位置データを取り出すことによりリアルタイム測定を実現している。この新開発の機上計測用センサを用いることにより、これまで以上の高精度加工が可能となるとしている。 第5章では、非軸対称非球面加工においてELID研削を行い、その際、前記の計測センサと形状誤差補償制御を行うことによって実際に高精度加工が行えることを確かめている。この時の補償制御において、測定データのノイズ成分を除去するためフィルタリングを行う方式を付加している。また、非軸対称非球面加工における主たる形状誤差要因と考えられる工具径誤差・工具断面形状誤差を加工形状から推定して補正加工を行う手法を新たに開発し、形状誤差補償制御と複合化することにより、少ない補正回数で高精度加工が可能となるとしている。 第6章では、非球面形状測定の高速化のために、干渉計を用いた面計測法を提案している。この方法はあらかじめ非球面リファレンスを作成しておき、干渉縞を得て測定物の形状を求める方法であり、実際に被測定物全面に対して干渉縞を観察し得ることを確かめ、将来有望な高精度非球面測定法となり得るとしている。 以上要するに、論文は益々高寸法精度が要求される非球面光学素子において、仕上げ用鏡面研削の加工精度を向上させるため、加工機と工具の制御と計測方法の研究を行い、新しい諸方式を考案すると共に、それらの実現の可能性を実証したもので、光学素子の精密加工とその計測・制御の分野で貢献する有益な研究である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |