修士(工学)富田浩文提出の論文は、"Numerical Research of Pattern Formation in the Benard Convection(ベナール対流のパターン形成に関する数値的研究)"と題し英文で書かれ、本文5章からなっている。 本論文は、ベナール対流中での対流のパターン形成及び支配的な水平波長を数値的に詳しく調査する事を目的としている。水平方向に広い計算領域を設定し、ナビア-ストークス方程式に基づいて数値実験を行っている。論文の基本構成は、レイリー-ベナール対流とベナール-マランゴニ対流に関する研究の二本立てである。 第1章は序論である。まず、ベナール対流の研究に関する歴史的経緯を述べ、レイリー-ベナール対流とベナール-マランゴニ対流の現象の違いを端的に説明している。その後、本論文の内容と意義について述べている。 第2章はベナール対流を記述する方程式及び境界条件の説明である。また、ベナール対流の直接シミュレーションに関して、いくつかの数値計算法を比較し、最も効率的な方法について記述している。同時に簡単な2次元計算を行い、ベナール対流を十分解像し得る格子間隔の基準を与えている。 第3章はレイリー-ベナール対流に関しての数値シミュレーションの結果である。非線形性の強い空気のレイリー-ベナール対流について詳しく調べている。流れ場の観察の結果から、定常な2次元ロール型対流から非定常な3次元流れに移行する臨界レイリー数が約6000であることを示している。更に、この流れ場の変化に対する臨界レイリー数については、ロール軸の曲率及び温度の時間履歴の測定結果によっても定量的に裏付けている。また、支配的な水平波長をロール対流の平均直径によって定量化を行っている。その結果、レイリー数に対する平均直径の変化の勾配も同様にレイリー数が6000で急激に変化することを示している。最後に、同じレイリー数においてロールの平均直径が大きい時にロールの軸の波うちが激しくなり、結果として熱伝達効率が悪くなると結論づけている。 第4章はベナール-マランゴニ対流に関しての数値シミュレーションの結果である。ここでは、レイリー数とマランゴニ数の二つのパラメータ空間上で議論を展開し、パターン形成に関して詳しく解析している。まず、典型的な六角形型対流を再現し、実験との比較を行っている。浮力効果の支配的なパラメータ領域では、ベナール-マランゴニ系においてもロール型対流が現れることを示している。更に、ロール型対流や六角形型対流だけでなく二つの型の混合型対流も数値的に再現している。この混合型の対流については、より広い領域、より細かい格子での数値計算を行っており、その存在を確認している。以上の3種類の対流が支配的に見られる領域をパラメータ空間上にまとめている。また、系が対流パターンとして六角形型或はロール型を選択する理由をエネルギー変換効率と熱伝達効率の観点から以下のように説明している。まず、浮力による運動エネルギーの生成率は対流パターンに依らない。一方、表面張力による運動エネルギーの生成率は、表面張力が支配的なパラメータ領域で、ロール型よりも六角形型の方が高くなる。これらの結果として、表面張力が支配的なパラメータ領域では、六角形型対流の方が対流運動が活発になり、熱伝達効率も高くなることを定量的に示している。また、対流の支配的波長についての解析もなされており、最も熱伝達効率の高い波長が選ばれていることを示している。以上より、系は出来るだけ熱伝達効率が高い対流パターンと支配的波長を選択すると結論づけている。 第5章はベナール対流問題についての本論文の結果から、今後のベナール対流の研究に方向性を与えている。 以上を要約すると、レイリー-ベナール対流の水平スケールについて新たな知見を与えたこと、また、ベナール-マランゴニ対流の各対流パターンがパラメータ領域で変化することを明らかにし、その理由を与えたことは流体工学への応用の観点から貢献する所が大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |