本論文は、「Study on a Micromachined DNA Injection System(マイクロマシンによる細胞用DNA注入システムに関する研究)」と題し英文で書かれており、半導体微細加工に基づくマイクロマシニング技術を応用して微細な中空針のアレイを製作し、それを生きた細胞へのDNA注入に応用できることを示した結果をまとめたものであり、8章から構成されている。 第1章は「Background(背景)」であり、マイクロマシニング技術の概要とそのバイオ技術への応用の歴史について簡単に述べてある。 第2章は「A Micromachined DNA Injection System(マイクロマシニングによるDNA注入システム)」であり、バイオ技術におけるDNA注入の重要性とこれまでの手法を述べた後、改善すべき問題点を抽出している。それに対する解決として、マイクロマシニングを用いた並列形DNA注入システムを提案している。 第3章は「Microcapillaries Fabricated by FIB Technique(FIB技術で製作したマイクロキャピラリアレイ)」について述べており、集束イオンビーム装置を用いて第2章で提案したデバイスの製作が原理的に可能なことを確かめている。シリコン基板に集束イオンビームを照射し、直径2-3m、深さ20m程度の細孔を掘り、それを熱酸化した後裏面からシリコン基板だけを選択的にエッチングすることで、細孔の内面の酸化膜を露出させ中空針のアレイを得ることができた。 第4章は「Hollow Microcappillaries by Electrochemical Trench Etching(電気化学的トレンチエッチングで製作した中空マイクロキャピラリ)」について述べている。電気化学的エッチングの条件を最適化しシリコン基板に細孔を開け、それを酸化し基板をエッチングすることで微細な中空針を作ることができた。更にドライエッチングもしくはFIBによって中空針の先端に開口を作ることが可能なことを示した。 第5章は「Hollow Microcapillaries Fabricated by ICP-RIE(誘導性結合プラズマ反応性イオンエッチング(ICP-RIE)で製作した中空マイクロキャピラリ)」について述べている。高アスペクト比のドライエッチング技術を用いて深い細孔を掘ることに成功し、それを出発点として十分な長さの中空針を50m程度の厚さのシリコン基板で支えたデバイスを得ることができた。 第6章は「DNA Injection by Hollow Microcapillaries(中空マイクロキャピラリによるDNA注入)」について述べている。第5章で作ったデバイスを用いて、タバコの培養細胞へ蛍光色素を並列的に注入できることを確かめた後、実際にDNAを注入した結果、細胞内でDNAが発現することを示した。これにより、提案したデバイスが実際に有効であることが確認できた。 第7章は、「Microchamber Arrays(マイクロチェンバーアレイ)」であり、将来のDNA注入システムに必要な細胞整列保持デバイスを製作し、細胞を保持できることを確かめている。 第8章は、「Conclusions and Future Work(結論と将来展望)」であり、本論文の成果を纏めるとともに、将来への展開について論じている。 以上これを要するに、本論文はマイクロマシニング技術を利用して微細な中空針のアレイを作り、これを用いて一度に大量の細胞にDNAを注入しその発現を確認することにより本システムの有効性を示したもので、電気工学特にマイクロメカトロニクス及び生体電子工学上貢献するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |