本論文は,「Focal Plane Processing for Very Fast Detection of Motion Vectors(撮像面上での即時動きベクトル検出に関する研究)」と題し、イメージセンサと信号処理を統合したコンピュテーショナルイメージセンサ(ビジョンチップ)という新しい画像処理のパラダイムの下,動きベクトル検出を撮像面上にて高速処理する新しいビジョンチップを提案している。提案手法は、エッジ情報に基づくブロックマッチングを利用した方式であり、イメージセンサ上でアナログ処理としてのエッジ検出とデジタル処理としてのブロックマッチングの双方を並列に実行するワンチップVLSIとして設計、試作を行い、検証を行っている。なお、論文は英文で記されている。 第1章は,「Introduction」であり,論文の背景,目的,および構成が述べられている. 第2章は,「Vision and Computational Vision Chip」と題し,人の視覚とイメージセンサの対比の下、ビジョンチップの基本的な概念の整理を行っている。 第3章は、「Focal Plane Processing for Motion Detection」と題し、動き検出を行うビジョンチップの研究についてまとめ、本研究での提案を位置づけている。これまで提案されてきた幾つかの方式について言及し、アナログ処理により実現されてきた既存の動き検出イメージセンサに対し、本論文で提案する方式を対比させている。本提案方式は、ブロックマッチングに基づいている。通常の画像処理にて行われるブロックマッチングは極めて計算量が多く複雑であるのに対し、本ビジョンチップの提案では、高速フレームレートで動作させることによりマッチングのための探索範囲を水平、垂直方向とも(±1、±1)と最小化し、さらに、2値化したエッジ情報をマッチングに用いることで処理の複雑さを大幅に低減させている。 第4章は、「Edge detection and block matching analysis」と題し、エッジ検出とエッジ情報を用いたブロックマッチングの方式について論じている。エッジ検出に関しては、隣接画素の差分をとることによる水平、垂直エッジを検出する簡易な手法を紹介し、高速撮像された画像に対する計算機実験を紹介している。また、ブロックマッチングに関しては、計算量、複雑さを最小にとどめる方式として、ブロックサイズ、探索範囲をそれぞれ、2x2、(±1、±1)に設定する方式を説明している。なお、高速フレームレートでの撮像を行うことにより、探索範囲を小さくすることが可能となっている。 第5章は、「Circuit design of the edge detection,memory and motion vector detection on focal plane」と題し、提案する即時動き検出イメージセンサに必要な回路を提案している。まず、エッジ検出については、絶対値差分のための複数の回路の評価をしている。エッジ検出回路、メモリは各画素内に組み込まれ、画素並列で作動する。水平、垂直の2種類の差分に関しては、同一の回路を用いて時分割で実行することにより、1つのエッジ検出回路を画素内で共有して用いる。画素内のメモリ回路は、現時点、前時点の水平、垂直エッジのために、4ビットが必要であり、ゲート容量に保持する方式を採用している。ブロックマッチングに関しては、注目ブロックに対して、探索範囲中の9つの候補ブロックへのマッチング評価値が並列に算出され、その最適値を算出する。最適値の算出に際して、複数の最適値候補がある場合には、事前に設定している優先度に従って最適ベクトルの決定を行う。この処理は、複数の注目ブロックに対して、列並列に同時に行われる。以上の処理において、エッジ検出が画面内で画素並列に行われ、ブロックマッチングが列並列に行われるため、全体の処理アーキテクチャをLocal Pixel Parallel and Global Column Parallelと称している。さらに、実際のVLSIでの実装のためには、ブロックマッチング部で多くの面積が必要となるため、ブロックマッチング部の数は列の数より少なくし、時分割で共用する方式を提案している。 第6章は、「Prototype Implementation and Specification」と題し、提案する動き検出イメージセンサのプロトタイプについて述べている。大きく2つのプロトタイプを作成しており、一方は、動き検出とメモリの統合された4x4画素アレイであり、アナログ処理の評価に用いる。もう一方が、提案全体の実装であり、動き検出とメモリのある16x16画素アレイに4つのブロックマッチング部が統合されている。両者とも1層ポリシリコン2層メタルの0.7m CMOSプロセスにて試作され、後者のチップの大きさは8.2x6.5mmである。 第7章は、「Evaluation and Experiment」と題し、試作したプロトタイプを用いた検証を行っている。4x4画素アレイの試作チップを用いて、アナログ処理部であるフォトダイオードとエッジ検出が良好に作動していることを確認している。さらに、16x16画素アレイの試作チップにて撮像が良好に行われていることを確認した。また、ブロックマッチング部単独の実装回路を用い、ブロックマッチング処理回路が正確に作動していることを検証した。 第8章は、「Conclusion」であり、論文を総括している。 以上、本論文は、動きベクトル検出を撮像面上にて高速処理する新しいビジョンチップを提案し、イメージセンサ上でアナログ処理としてのエッジ検出とデジタル処理としてのブロックマッチングの双方を並列に実行するワンチップVLSIとして設計、試作を行い、検証を行っており、電子情報工学上貢献するところが少なくない。 よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 |