No | 114246 | |
著者(漢字) | 石黒,仁揮 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イシクロ,ヒロキ | |
標題(和) | シリコン単一電子素子の特性評価とその応用に関する研究 | |
標題(洋) | Study on Characterization and Application of Silicon Single Electron Devices | |
報告番号 | 114246 | |
報告番号 | 甲14246 | |
学位授与日 | 1999.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4372号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電子工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年の電子線露光等による微細加工技術の向上で、ナノメートルオーダの構造作製が可能となり、高温動作するシリコン単一電子メモリ、トランジスタの報告がなされるようになった。電子一つで動作するこれら単一電子素子には、将来の超高集積・低消費電力LSIへの応用が期待されているが、電子を閉じ込めるドットのサイズが10nm以下となるため、サイズ量子効果が素子特性に大きな影響を与える。ドットサイズのみならずドット形状、ドット内電子数に強く依存する量子効果のため素子特性が極めて複雑になるものと考えられる。一方、量子効果によるエネルギーの離散性を利用することができれば、素子動作温度をさらに上げることができる。 本研究では、単一電子素子の応用に際して必要となる、量子効果の素子特性に与える影響の評価、その効果を利用するための手段の考案を目的として、実際に素子を作製し測定を行なった。評価には、ナノメートルオーダのシリコン微細チャネル中で観測される単一電子トンネル現象を利用し、また実験を補完するための計算も行なった。さらに素子作製後に電流ピーク位置を調整するための構造を提案しデモンストレーションを行なった。以下に本研究の概要を述べる。 実験では、ナノメートルオーダのチャネル幅を有するポイントコンタクト型MOSFETをSilicon-On-Insulator(SOI)基板上に作製した。いくつかの素子には、図1に示すようにn+、p+双方のソース・ドレインコンタクトをイオン注入により自己整合的に形成し、同一チャネル内を流れる電子、正孔の伝導特性を評価できるようにした。ポイントコンタクト構造は二通りの方法を用いて形成した。一つは、電子線露光装置、TetraMethylAmmonium-Hydroxide(TMAH)による異方性エッチングを用いて形成したもので、同一Siチップ内に多種類のチャネル幅を有するポイントコンタクト型MOSFETが作製されている。もう一つは、本研究で開発した、SiO2/Si3N4二層マスク、TMAHによる異方性エッチング、Si3N4をマスクとする選択酸化を組み合わせたプロセスによるもので、高精細露光装置を使用せずにウェハー全体に均一なポイントコンタクト構造が形成されている。素子のチャネル内アクセプター濃度は1015cm-3であり、全て完全空乏型である。 21Kで測定した電子伝導特性(図2)から、通常のMOSFET動作をする素子、周期的な振動を示す素子、さらにピークバレー比が大きく非周期的な振動を示す素子の3種類に分類された。振動はポイントコンタクトチャネル中に自然に形成されたドットを介した単一電子トンネル現象に起因している。ピークバレー比、振動周期とピーク半値幅の比を、マスター方程式を解いて得られたシミュレーション結果とフィッテイングすることで、チャージングエネルギー(EC)を見積もった結果、EC〜20meVで非周期性が顕著になることを確認した。ECの大きな素子ほど、チャネル中に形成されたドットサイズが小さく、その結果閉じ込めによる量子効果の影響が顕著となり、振動が非周期的になっているものと考えられる。 室温までクーロンブロケード振動が残る素子を用いて、閉じ込めによる離散エネルギー準位間隔()の大きさを評価することを試みた。低温における非周期的なドレイン電流(Id)のゲート電圧(Vg)依存性(図3)、さらにIdのドレイン電圧(Vds)依存性(図4)に現れるショルダー状の微細構造(Vds〜+40mV、-50mV)、負性微分コンダクタンス(Vds〜±100mV)は、ECの大きな素子で観測される典型的な量子効果の影響である。素子の伝導特性の全体像を捉えるために測定したIdのVg、Vds依存性(図5)から、トンネルスペクトロスコピー的な手法を用いて計算したドット内エネルギー構造を図6に示す。実線が基底状態、破線が第一励起状態を示している。ECの平均値は60meV、は最大30meVに達していることが分かる。これだけのECを有するドットのサイズは、SiO2の中に存在する球状のSiドットを仮定すると、6nm程度と極めて微細なものとなる。 ECが20meV前後になる辺りで、量子閉じ込め効果によりクーロンブロケード振動の非周期性が顕著になること示す実験結果を確認すること、また、さらにドットサイズが小さくなったときのEC、の挙動を予測する目的で計算を行なった。異方性を考慮した有効質量近似に基づく三次元Schrodinger方程式を、有限要素法を用いて解くことによりを評価した。酸化膜中の球状SiドットのECとのドットサイズ依存性を表1に示す。量子効果が働かない場合と働く場合の素子動作温度も示してある。計算結果よりEC〜20meVでが大きくなっていることが分かる。また量子効果が働かない場合2nmの微細ドットでも室温動作が困難であるが、量子効果を利用することで同サイズのSiドットで室温動作させることが出来ることが分かった。さらにSiにおいては、電子の有効質量の異方性のために、量子効果の効き方がドット形状・方向に大きく依存することも確認した。 正孔チャネルにおけるクーロンブロケード現象を観測すれば、価電子帯の情報も得ることができ、微細チャネルにおけるトンネル障壁・ドット構造形成機構に関して手がかりが得られる。さらに電子、正孔の有効質量等の物理量の違いが特性に与える影響を調べることもできる。n+、p+双方のソース、ドレインコンタクトを有する素子を用いて測定をおこなったところ、図7に示すように、多くのサンプルにおいて電子チャネルで振動が観測される場合、正孔チャネルでもまた振動が観測された。実験結果は、電子、正孔両方に対して働く障壁が形成されていること、すなわち伝導帯、価電子帯双方でトンネル障壁が形成されていることを示している。これはチャネルの一部でバンドギャップが増大していることを示唆する。チャネル内イオン化不純物や、酸化膜界面の固定電荷、あるいは界面準位にトラップされた電荷による空乏層ではバンドギャップの増大は起きない。一方、チャネルの一部狭窄された部分での横方向閉じ込めによる量子効果、あるいは酸化膜の揺らぎ等が生じればバンドギャップの増大につながる。これらの考察から、本研究で用いた素子におけるドット形成が、後者の原因に起因している可能性が高いことを明らかとなった。 実験、計算の結果から、単一電子素子内のシリコンドットサイズがナノメートルオーダになると閉じ込めによる量子効果の影響から素子特性が大きく変わること、さらに特性の予測が困難であることが分かった。このような素子を実際の回路に応用するためには、何らかの方法で素子作製後にピーク位置を調整できる仕組みを採り入れることが望まれる。ピーク位置の調整が可能となれば、副次的な効果として量子閉じ込め効果を利用し動作温度の向上につなげることができる。そこで図8に示すように、単一電子素子のチャネル上に堆積したSi微結晶に電荷を出し入れすることでピーク位置を調整するための方法を考案し、実際にピーク位置の調整を試みた。 50Kにおいて得られた図9の実験結果から、Vg<4.5Vで動作させる限り素子特性に変化は無いこと、またVg>4.5Vの電圧を掛けると、Si微結晶内に電子が注入されピーク位置を調節できることが分かった。さらにVg=-6Vを掛けることで、Siドット内の電子を完全に放出させ、素子特性をもとに戻せることを確認した。Si微結晶とチャネル間のトンネル酸化膜厚(熱酸化膜)が4nmと薄いことから、比較的低電圧でピーク位置の調節が可能である。トンネル酸化膜の厚さを変えることで、動作電圧とピークシフトの保持時間を適切に選ぶことができる。 最後に本研究で得られた結果をまとめる。 シリコン単一電子素子においては、EC〜20meV、ドットサイズに換算して20〜10nmで閉じ込めによる量子効果の影響が大きくなること、また量子効果の影響がドットサイズのみならずドット形状等に強く依存することを実験および計算から明らかにした。単一電子素子を実際に応用するための手段として、Si微結晶への電荷注入により素子作製後にピーク位置を調整するための構造を提案し、実際に測定を行なった。 | |
審査要旨 | 本論文は,「Study on Characterization and Application of Silicon Single Electron Devices」(和訳:シリコン単一電子素子の特性評価とその応用に関する研究)と題し,英文で書かれている.本論文の目的は,シリコン単一電子デバイスのVLSI応用に向け,シリコン極微細単一電子デバイスの電気的評価を詳細に行うことである.本論文では,シリコン単一電子プロセスの作製プロセスを確立し,その電気的特性を詳細に評価するとともに,本デバイスで発現する量子閉じ込め効果にについても評価を行い,本デバイスの有用性と応用技術を実証しており,全6章より構成される. 第1章は「Introduction」(序論)であり,単一電子デバイスの研究の歴史をレビューするとともに,シリコンにおける単一電子デバイスの重要性と,高温動作時に発現する量子効果について言及し,本論文の目的を明確にしている. 第2章は「Coulomb Blockade Characteristics in Nano-Size Silicon Dot System」(ナノシリコンドット系におけるクーロンブロッケード特性」と題し,室温でも動作するシリコン系の単一電子デバイスの電気的特性について述べている.まず,電子ビーム露光法を用いたVLSI互換プロセスによるシリコンナノ構造の作製法を確立した.SOI(Silicon on Insulator)基板を用いる.本方法を応用して,極めて微細な狭窄チャネルを有するポイントコンタクトチャネルMOSFETを試作し,クーロンブロッケード振動を室温において観測するとともに,低温において負性コンダクタンスも観測することに成功した.本デバイスの電気的特性を詳細に評価したところ,自然形成されたシリコンドットにおける量子閉じ込め効果が非常に重要な役割を果たしていることを明らかにし,シリコンドット内の電子状態を実験結果から求めることに成功している. 第3章は「Relation between Quantum Confinement Effects and Silicon Dot Size」(量子閉じ込め効果とシリコンドットサイズの関係)と題し,シリコン単一電子デバイスにおいて,単一電子現象のみでなく量子閉じ込め効果が顕著に現れるシリコンドットのサイズについて実験結果に基づき考察している.まず,電子ビーム露光法等の微細リソグラフィ技術を用いずに,10nm級のチャネル幅を持つポイントコンタクトチャネルMOSFETを作製する方法を開発した.本プロセスでは,チャネル幅はリングラフィに依存せず,SOI基板の膜厚によって決定されるので,極めて微細なチャネルを形成することが可能である.複数のデバイスを詳細に評価し,チャネルに形成されるドット系が約20nm以下では,量子閉じ込め効果によりクーロンブロッケード特性が大きく影響を受けることを明らかにした.また,これらの効果を確認するために,シュレディンガー方程式を取り入れた有限要素法による三次元シミュレーションを行い,微細ドットを有する単一電子デバイスでは,わずかな形状やサイズの違いにより量子状態が大きく変化し,単一電子デバイスの特性が大きく変化することを明らかにした. 第4章は「Potential Profiles in Silicon Nano-Scale Channels」(シリコンナノ構造チャネルにおけるポテンシャル分布)と題し,シリコン微細MOSFETにおいてポテンシャル揺らぎによりトンネル障壁が自然に形成されるメカニズムについて,実験に基づき考察を行っている.シリコン微細チャネルの伝導帯のみならず価電子帯のポテンシャル分布を同時に実験的に求めるため,同一チャネルにn型ソース/ドレインとp型ソース/ドレインの両方を有するデバイスを試作し,同じ狭窄チャネルにおける電子および正孔の伝導特性を評価した.その結果,伝導帯と価電子帯は同様のポテンシャルプロファイルを有していることが明らかとなり,トンネル障壁の起源は不純物イオン等でなく,狭窄チャネルにおける量子閉じ込め効果により増大した禁制帯幅か,あるいは禁制帯幅の広い酸化膜であることを初めて明らかにした. 第5章は「Adjustment of Peak Position in Single Electron Transistors」(単一電子トランジスタにおけるピーク位置の調整)と題し,従来不可能であったクーロンブロッケード振動のピーク位置の調整を可能とするデバイス構造を提案し,実験により実証している.前章までに示したとおり,高温で動作する単一電子デバイスは量子効果の影響により,わずかなサイズの違いが敏感に特性に反映され,クーロンブロッケード振動のピーク位置を予め予測することは困難である.そこで,単一電子デバイス上に直径8nm程度のシリコンナノドットを多数形成したデバイスを用い,ナノドットに電子を注入することにより,ピーク位置を微調整する新しい方法を提案した.実際に本デバイスを試作し,ピーク位置がゲート印加電圧によって実際に微調整可能であることを実証した. 第6章は「Concluding Remarks」(結論)であり,本論文の結論を総括している. 以上のように本論文は,シリコン単一電子デバイスの作製プロセスを開発してその室温動作を実現し,シリコンドットにおける量子閉じ込め効果が単一電子デバイスの電気特性に与える影響について定量的に評価するとともに,トンネル障壁の起源にも言及し,さらに本デバイスの応用上重要なデバイス特性制御のための新しい手法を提案・実証したものであって,電子工学上寄与するところが少なくない. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/1890 |