本論文は「半導体レーザを用いた高効率紫外域SHGの研究」と題し、5章から構成されている。 紫外領域コヒーレント光を発するコンパクト光源の開発への関心は高い。高分解光計測・高密度光記録・高精細印刷・医療・リソグラフィー分野への応用によって、それぞれに技術革新が期待されている。紫外光には、しかしながら、安定・長寿命な固体レーザ・半導体レーザでは発生困難な波長領域が存在する。これに対して、第二次高調波発生(Second-Harmonic Generation:SHG)などの波長変換の高効率化や高出力化が実現されれば、それら波長領域の開拓は可能である。そのような観点から、「固体レーザないし半導体レーザ」+「非線形光学結晶ないしデバイス」という構成による全固体型紫外光源、中でも、半導体レーザを基本波とするSHG光源への期待は大きい。小型・高効率・高速などの優れた特色も魅力である。しかしながら、いくつかの難点のために決定的な方式は確立されていないのが現状である。これに対して、論文提出者はSHG効率が瞬時光電界に比例する事実に着目し、AlGaInP系半導体レーザをピコ秒パルス駆動した上で基本波とするSHG効率改良手法新規手法を考案した。本論文では、波長変換効率および出力の改善に対する左記提案手法の詳細が記され、その有効性の理論的・実験的検討を行った結果を論じられている。 第一章は、「序論」であり、本論文の背景、位置付け、目的および各章の構成が記されている。 第二章は「半導体レーザパルス基本波による第2次高調波発生」と題し、パルス状基本波光を用いるSHG現象について、その基本原理に対する考察を理論的および実験的に展開している。すなわち、バルク形状光学的非線形結晶に基本波として入射されるピコ秒およびフェムト秒光パルスに対し、SHG効率とUV光出力パワーを記述する理論の構築とその実験的検証を試みている。前者の結論として、基本波パルス特性およびその入射条件が最適化された場合に波長変換効率が大幅に改善される可能性を指摘している。例えば、位相整合波長許容幅と同程度の光スペクトル幅を有するフーリエ変換限界パルス(690nm)の最適入射条件照射により、基本波平均パワー50mWに対してLiIO3結晶で1mW、LBOないしBBO結晶で0.1〜0.2mWの紫外光発生(345nm、平均パワー)が可能であるとしている。また、擬似位相整合LiTaO3結晶を用いる場合には、基本波平均パワー50mWに対して30mW以上の紫外光発生が可能であるとしている。後者に対しては、モード同期チタンサファイアレーザパルスを用いた実験によって上述理論の一部の正当性を確認している。 第三章は「利得スイッチ動作半導体レーザを用いた高効率紫外域SHG」と題し、フーリエ変換限界パルスの発生手法として利得スイッチ法と光帰還法およびパルス圧縮法の併用に着目してSHG実験について論じている。光学的非線形結晶の波長許容幅に合致する光スペクトルを有するAlGaInP系半導体レーザパルスの発生を行い、SHG実験に適用した結果は次の通り。パルス幅〜45ps、スペクトル幅〜0.07nmの690nmパルスを5mm長LiIO3結晶に照射したところ、光帰還により3.8倍(CW発振との比較において14倍)のUV光(345nm)出力に成功し、規格化変換効率4.2%/Wcmを得た。さらに、GT干渉計によるパルスを圧縮し、15.8psまでパルス幅を狭め、規格化変換効率を9.6%/Wcmにまで改善した。この際の紫外光平均パワーは10.2Wである。本実験で得られた規格化変換効率9.6%Wcmは記録値である。 第四章は「共振器内部型紫外域SHGへのモード同期半導体レーザの適用」と題し、「短パルス動作」と「基本波平均パワーの増大」の両立を図るべく、外部共振器型モード同期半導体レーザ構成の導入を提案しその有効性を検証している。まず、能動モード同期動作SHG実験を行い、基本波(670nm)平均パワー73mWに対して70Wの紫外光(335nm)発生に成功した。波長変換効率は約0.1%である。左記紫外光平均パワーは、現時点での世界最高値である。更なる改善の余地も指摘している。本方式の有効性が明示されている。また、電気駆動系の簡素化を目的に、外部共振器型受動モード同期動作半導体レーザの適用の理論的検討を行っている。非対称ファブリーペロー型半導体可飽和吸収体反射鏡の利用を想定し、そのモデル化とシミュレーションによるパルス特性の解析を行った。その結果から、本方式により1mW以上の紫外光発生が可能であると指摘している。 第五章は「結論」であり、各章の結論を総括するとともに、本論文全体の結論を導出している。 以上を要するに、本研究は光エレクトロニクス分野で期待される紫外域コンパクト光源の実現のために「ピコ秒パルス基本波の適用」を基本概念とした第二次高調波発生の原理と種々の手法について理論的・実験的な検討を有機的に行ったものであり、幾つかの従来方法を凌駕する記録的データの提示も含めて、その結果および結論は光エレクトロニクス分野への寄与が大きいものと認められる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |