ここでは超臨界圧軽水冷却減速炉により現在の軽水炉の革新を目指す。コストダウンには標準化、大型化や建設期間の短縮などの方法があるが、長期的には技術革新によるコスト低減が重要である。一方、現在の軽水炉は飽和蒸気を使うため熱効率に限界があり大幅な性能向上は望めそうにない。超臨界圧水冷却は火力発電では30年以上前から実用化されている。超臨界圧では気水分離や再循環が不要で給水ポンプで炉心に供給された全給水がタービンに送られる超臨界圧火力と同じ直接サイクル貫流型のシステムを実現できる。超臨界圧軽水冷却減速炉(SCLWR)では気水分離器や再循環ポンプなどが不要で、原子炉系の小型化やBOP(Balance of turbine)系の軽量化が期待できる。再循環系のない貫流型であるため炉心流量がBWRの1/7以下と小さくなり、燃料棒チャネルの冷却水流速が低くなるため除熱について検討する必要がある。また冷却水出口密度はBWRの1/3程度であり減速の確保や出力分布の平坦化の検討も必要である。さらに熱効率やBOP系の物量評価のためには蒸気サイクルの設計が不可欠である。 高温ではジルカロイが使えないためステンレスを被覆材料に用いた出口温度約400CのSCLWRを設計する。熱的な制約条件として、酸化による腐食防止のためステンレス被覆表面温度制限450C、最大線出力密度40kW/mとする。さらに軽水炉が遷移沸騰防止のために限界熱流束比を与えたように、超臨界圧水冷却時に生じる伝熱劣化防止のためMDHFR(最小伝熱劣化熱流束比:擬臨界温度付近の伝熱劣化熱流束/表面熱流束)を通常運転時に1.30以上とする。核的な制約条件として冷却材密度係数は炉心寿命全期間にわたって正とする。 超臨界圧軽水炉では冷却材の密度変化が大きいので、燃料集合体は水ロッドを多数含む構成とし減速を確保する。伝熱劣化の制約を満たすためには流路面積を小さくし流速を上げる必要があるので燃料棒は三角配置とする。燃料集合体211体、炉心高さ4.2mとした。SCLWRはBWRと同じく冷却材が炉心下部から炉心上部へ流れる従来型の上昇流型水ロッドをもつ。オリフィスにより流量配分を行うことで、炉心平均出口温度397Cとなる。上昇流型水ロッド炉心では炉心上部で水ロッドの低温水と燃料チャネルの高温水が混合し、さらには貫流型ゆえ炉心外周部集合体からの低温水と炉心中央部集合体からの高温水が混合するため平均冷却材出口温度が低下する。給水温度を高くし(324C)、炉心入出口でのエンタルピー差を意図的に小さくしてMDHFR制約を満たしている。このため電気出力当たりの流量がABWRの1.5倍と大きくなりBOP系が大型化する問題が残る。 BOP系の物量評価のためにSCLWRの蒸気サイクルを設計した。同時に熱効率を精度良く求めるため熱効率計算コードを作成した。超臨界圧火力発電(FPP)では火炉に戻して再熱を行うことができるがSCLWRでは主蒸気による再熱を行わなければない。そこでABWRのように湿分分離加熱器を設ける。運転圧力が超臨界圧であるので超臨界圧火力のように高/中/低圧タービンをもつ。SCLWRでは炉心流量は多いが給水温度が高いため抽気蒸気が多いので低圧タービンは蒸気量が少なく2車室でよい。炉心入口温度が高いため高圧給水加熱器は4段必要となる。出口温度397CのSCLWRの発電端熱効率は40.7%となり、出口温度566Cの超臨界圧火力発電の発電端熱効率41.6%にやや劣る程度である。これは超臨界圧火力ではタービン熱効率は47.3%と高いが、ボイラから大気への熱損失が12%程度あるためである。電気出力は1013MWとなった。 SCLWRでは伝熱劣化制約のために炉心流量を大きくしなければならず、電気出力当たり流量が大きくなりBOP系の大型化という問題が残った。伝熱劣化制約のため冷却材の炉心入出口エンタルピー差が大きくとれるという貫流型の特徴が生きていない。東京電力は上記とほとんど同じ出力1100MWeのSCLWRを設計し米国ABWRとコストを比較した。原子炉系の物量は3割程度低下したが、出力規模のデメリット、タービン系物量および建屋容積増加、高い燃料濃縮度がコスト増加の要因になっていると指摘された。そこで出力を1500MWe程度としたより出口温度の高い高温炉心(SCLWR-H)を検討した。 高温炉心では炉心エンタルピー上昇はより大きくならざるをえないので伝熱劣化の制約下では高温炉心の設計はできない。超臨界圧水の伝熱劣化は亜臨界圧水のドライアウトと比べ穏やかであり、温度上昇は緩やかで下流では回復する。超臨界圧水は単相流として扱えるのでk-モデルを用いて伝熱劣化後も熱伝達率を数値シュミレーションで予測し過渡事象時の被覆表面温度を評価できるようになった。これにより伝熱劣化を設計条件から除外することができた。出口温度500C以上を目指しSCLWR-Hでは被覆材にインコネルを用いる。酸化による腐食防止のため被覆表面最高温度制限620C、最大線出力密度39kW/mを制約条件とする。SCLWR-Hでは制御棒案内管の熱疲労防止の観点から提案された下降流型水ロッドを採用した。下降流型水ロッドでは給水の一部が炉容器上部ドーム部から制御棒案内管を通り水ロッド中を下降する。その後ダウンカマーを通った残りの給水と炉心下部で合流し燃料チャネルを上昇する。水ロッドは円形の内管と花形の外管の二重構造とし、その間の水の対流を押さえることで水ロッド下部において冷却材温度が上昇し過ぎないようにする。高出力を得るために燃料集合体を211体、炉心高さを4.2mとした。 下降流型水ロッド炉心は上昇流型水ロッド炉心と異なり、水ロッド内の温度の低い冷却水が燃料チャネルの冷却水と炉心上部で混合されることがなく、冷却材出口温度は508Cと高くなる。さらに、炉心上部における水ロッドの水密度を高くできるので減速効果が大きくウランの濃縮度を低くすることができる。しかし下降流型水ロッド炉心は上昇流型水ロッド炉心に比べ構造が複雑になるという欠点も持っている。 下降流型水ロッド炉心において、水ロッドに流れる冷却材の割合を積極的に変化させることにより冷却材密度を制御し、燃焼初期と末期の反応度差を補償することを試みた。その結果、制御棒駆動機構の数を29%削減することができる。また運転中に制御棒を動かす必要がなく出力ピーキング低減に有利になる。炉心出入口温度と全流量は流量制御をしても変わらないので出力は一定に保てる。 SCLWR-Hの熱効率44.0%はSCLWRより3.3%、ABWRより9.5%高い。電気出力は1570MWeとなった。SCLWRでは伝熱劣化制約のために給水温度が高く流量も多い。SCLWR-Hの電気出力当たり流量はSCLWRの約半分、ABWRより24%小さくなる。これはBOP系のコンパクト化を可能とし、経済的な利点となる。また出口温度が高いにもかかわらずSCLWR-Hの平均濃縮度は二重構造をもつ下降流型水ロッドのためSCLWRより低くなる。 水ロッドへの冷却材分配比を制御し燃焼補償をする場合には新たな装置が必要となる。そこで給水温度や給水流量を制御するという単純な燃焼反応度補償を検討する。給水流量および温度を変えることで燃焼反応度を補償すると同時に、熱出力を変えて電気出力を一定に保つ。サイクル末期では流量が大きく給水温度も下がるため熱効率が低下する。電気出力は1480MWeと低くなり出力1500MWeを確保するには炉心を拡大する必要がある。 タービン、復水器、高/低圧給水加熱器、湿分分離器を含めたBOP系の主要機器の重量を評価しABWRと比較した。従来型給水系をもつSCLWR-Hでは流量が少ないにもかかわらず、総重量はABWRとほぼ同じある。これは給水温度がABWRの216Cから280Cに高くなり高圧給水加熱器の段数が2段から4段に増えたこと、さらには高圧給水加熱器の管圧が70barから250barに上昇し単器重量が大幅に増加したためである。そこで2段式給水ポンプにより段階的に超臨界圧まで昇圧する方法と蒸気インジェクタ駆動の給水加熱器を使用する場合も検討した。2段式給水ポンプを採用する場合、総重量で対ABWR22%軽量化する。蒸気インジェクタ駆動の給水加熱器を高/低圧系に使用する場合には総重量で対ABWR25%軽量化し、出力当り重量はABWRの2/3程度になる。 現在の超臨界圧軽水炉の平均出力密度は約100W/ccでPWR並であるが、平均冷却材密度が0.4g/cc程度と小さく低減速である。そこでSCLWR-HのHFPおよびCZPについて炉心各部の冷却材密度を用いてH/HMとKeffの関係を調べた。最適減速炉心の平均濃縮度は現設計の5.31%から4.2%へ約1.1%低下する。このとき出力密度は78W/ccに低下するので同出力を保つには圧力容器が大型化する。高/低温の反応度差が小さくなり制御棒駆動機構を45%削減できる。 結論として、本研究により現在の軽水炉の改良だけでは実現しえない物量低減を可能とする超臨界圧軽水炉の成立性が示された。特に伝熱劣化制約を外した高温炉心では下降流型水ロッドを用いることで出口温度が500C以上となり熱効率44%で電気出力1570MWeであるにもかかわらず、BOP系の総重量は22〜25%軽量化する。さらに水ロッドへの冷却材分配比を制御することにより燃焼反応度を補償することができ制御棒駆動機構の削減が図れる。新たな設備が不要な給水温度および給水流量制御による燃焼反応度補償も検討したが電気出力が低下するという欠点がある。また最適減速炉心では圧力容器が大型化するが平均濃縮度および制御棒駆動機構数が減少する。 |