超臨界圧軽水冷却炉は超臨界圧水を冷却材とする貫流型直接サイクルの原子炉システムである。これまでに高速炉(SCFR)、熱中性子炉(SCLWR)の設計が行われている。貫流型とは火力プラントにおいて主流を占めるシステムであり、主給水ポンプにより供給された冷却材の全量が炉心を流れタービンへと導かれる。超臨界圧軽水冷却炉の制御を考える上で特徴的なのは、同じ直接サイクルでありながら飽和蒸気を用いるBWRと異なり圧力容器内に水位がなく、蒸気温度と圧力を別個に制御する必要がある点である。また、反応度フィードバックと崩壊熱が存在するので、超臨界圧ボイラとも異なる動特性を示す。保有熱量が小さく、冷却材流量の変化がプラント特性に与える影響が軽水炉に比べて大きくなると思われ、外乱に対する応答と運転制御方法を検討する必要がある。また、プラントの簡素化や物量低減の議論には、起動時使用される機器等についての評価が必要である。本研究では、超臨界圧軽水冷却炉のプラント動特性解析コードを開発し、SCFRについて制御方法を検討する。また起動方法、必要なシステムについて検討する。 制御方法や起動方式を検討するためにはプラント動特性解析が必要である。以下の仮定を用いて超臨界圧軽水冷却炉のプラント動特性解析コードを作成した。 ・炉心は単一チャンネルで表される。 ・核計算は遅発中性子6群一点近似動特性方程式を使用する。軸方向出力分布はコサイン分布とする。 ・反応度の計算は冷却材密度フィードバックと燃料温度フィードバックを考慮する。 ・圧力制御系、給水制御系、出力制御系を模擬する。 作成したコードを用い、超臨界圧軽水冷却高速炉(SCFR)について、定格運転状態(出力100%、圧力25.0MPa、給水流量100%、主蒸気加減弁開度100%、冷却材出口温度431℃)から制御系を考慮せずに制御棒位置、給水流量、主蒸気加減弁開度のステップ状外乱に対するプラント固有の動特性解析を行った。制御棒位置のみをステップ状に変化させた場合の応答を解析した。出力は瞬間的に110%まで上昇し、その後冷却材密度フィードバック、燃料温度フィードバックによる負の反応度が入り、減少し101%に整定する。出力と給水のバランスが変化した場合、BWRでは水位の変動はあるものの蒸気温度の変化は少ない。貫流型であるこの炉では擬臨界温度を越える点が上流に移動し、主蒸気温度は過熱部の増大で上昇する。 次に給水流量のみを95%に低下させた場合の応答を解析した。給水流量が低下するため冷却材温度が上昇し、冷却材密度フィードバックによる負の反応度が入り、出力は減少する。その後燃料温度フィードバックによる正の反応度が入り出力は上昇に転じ97.7%に整定する。圧力は流量の低下に伴い減少する。ここで冷却材密度係数を変化させ、整定後の出力、主蒸気温度を計算した。給水流量の低下は冷却材密度フィードバックの影響により出力の低下につながるが、主蒸気温度は冷却材密度係数の大小により応答が大きく変わる。冷却材密度係数が小さいほど流量変動による出力の低下は少ない。給水流量が低下し、主蒸気温度は上昇する。密度係数が大きくなると流量変動による出力の低下が大きくなり、流量が減少する影響よりも出力低下の影響がまさり、主蒸気温度は逆に低下する。この結果から冷却材密度係数の大きなSCLWRには別の制御方針が必要となることが予想される。 最後に、主蒸気加減弁開度のみを95%とした場合の応答を解析した。加減弁開度が減るため、原子炉圧力は上昇を始める。出口流量が急減するため、炉心流量が減少し、冷却材温度が上昇する。圧力は流量と弁開度に見合うまで増加する。 プラント固有の動特性解析結果よりSCFRに適した制御方式を検討する。まず原子炉圧力制御方式としては、主蒸気加減弁による制御と、貫流ボイラにみられる給水流量による制御とが考えられる。給水流量制御は大きな出力変動を伴うことから、主蒸気加減弁による制御方式を適用した。主蒸気温度制御方式としては、給水流量による制御と、制御棒による制御とが考えられる。SCFRは冷却材密度係数が小さく、流量変化が出力にあまり影響を与えず、流量を減少させると蒸気温度が上昇し、流量を増加させると蒸気温度が低下するので、この特性を利用し、給水流量を用いた主蒸気温度制御方式を適用することとする。出力制御方式としては、炉心流量による制御と、制御棒操作による制御とが考えられる。SCFRでは給水流量を主蒸気温度制御に用いているため、制御棒を用いることとする。 プラントが安定に制御できることを確認するため本制御系を用い、圧力、主蒸気温度、出力の各制御系設定点についてステップ状の変更に対する主要な変数の応答を求めた。いずれの場合にも各制御系が協調して原子炉を安定な状態に保つことが可能である。 次に、超臨界圧軽水冷却炉の起動方法と必要なシステムについて検討した。プラントとしての成立性を確認することが研究目的であり、実績のある超臨界圧火力プラントのシステムを参考にする。起動時の制約条件として、いかなる運転条件においても定常時の被覆管最高温度450℃を越えないこととした。解析にはSCFRのパラメータを使用したが、SCLWRについても基本的な考え方は同じである。 まず、超臨界圧から炉を起動する定圧起動方式について検討した。減圧弁、フラッシュタンクからなる起動バイパス系を設置する。タービン起動まではフラッシュタンクで気液の分離を行い、分離蒸気によるタービンの暖機を実施する。起動手順は以下のようになる。給水ポンプで超臨界圧に昇圧した後核加熱が行われる。炉を出た冷却材は超臨界圧であるが、減圧弁を通り亜臨界圧まで減圧されてフラッシュタンクへと導かれ気水分離され、蒸気は高圧給水加熱器へ送られる。タービン起動後、減圧弁を開き、主蒸気源をフラッシュタンク蒸気から原子炉出口蒸気へ切り換える。原子炉出口蒸気(25MPa)のエンタルピがフラッシュタンクの飽和蒸気(6.9MPa、2774J/kg)より低いと切換により、主蒸気温度が低下する。これを防止するため原子炉出口温度を420℃以上に制御する。主蒸気圧力が定格値に達するとフラッシュタンクへのバイパス系統を閉じバイパス起動を完了する。蒸気源切換後は蒸気温度が許容変化幅におさまる様に炉心出力を増加させていく。プラント動特性解析コードを用いた定常計算を行い、出力増加時の給水流量、主蒸気温度を解析した。主蒸気温度を一定に制御することで必要な給水流量は出力とほぼ比例して増加する。最高被覆管温度は低出力時に定格値を越えず、低流量下での運転が可能であることが確認できた。 タービン保護のために、供給するフラッシュタンク蒸気の湿り度には制限が設けられる。設計条件として蒸気の湿り度をBWRと同様の0.1%以下で規定すると、タンクの高さと断面積の必要寸法が決まる。減圧沸騰に伴って蒸気により誘搬される液滴量は、片岡・石井の相関式により求めることができる。この条件よりフラッシュタンクを設計すると高さ2.6m、直径4mとなる。 続いて、亜臨界圧から昇圧する変圧起動方式について検討する。貫流運転時には原子炉出口で蒸発はほぼ完了している必要がある。被覆管温度をRELAP-4で用いられる二相流熱伝達率相関式を用いて評価した。低圧力時には高クオリティ領域でのバーンアウト(ドライアウト)が生じる。被覆管温度の上昇は緩やかであり、バーンアウト後も450℃以下に保つことが可能である。しかし、比較的高い圧力では低クオリティ領域でのバーンアウトが生じ、一度バーンアウトが起きると被覆管温度が450℃を大きく越えてしまう。変圧運転火力プラントでは、最低設定圧力にて貫流運転に移行し、それ以後は貫流を保ちながら昇圧する。超臨界圧軽水冷却炉では最低設定圧力において貫流運転に移行出来るが、被覆管温度制約から昇圧途中では二相に保つ必要が生じ、気水分離が必要になる。昇圧時高流量ではかなりの気水分離器容量が必要となり、貫流型であるこの炉の利点が生かせない。これを解決するため低負荷低流量で超臨界圧まで昇圧し、負荷上昇過程では定圧起動方式と同様の運転を行う方法が好ましいと考えられる。亜臨界圧時に用いる気水分離器は、主系統に設置する方法とバイパス系統に設置する方法とが考えられる。主系統に設置する場合は貫流ボイラ型の気水分離器を採用できる。定常運転時において定格蒸気流量の通路として機能することが求められ、必要な気水分離器の大きさはボイラの約3.2倍となる。バイパス系統に設置する場合は、二相時に所定の分離性能をもてば十分である。BWR型の気水分離器を設置することとする。気水分離器ユニット数は亜臨界圧時の流量に依存するが、最小貫流運転時の給水流量を火力プラント並の30%と見積もると、必要なユニット数はBWRの225個に対し78個となる。気水分離器を主系統に設置する場合に比べ小型化が可能であると考えられる。 結論として、本研究により超臨界圧軽水冷却炉の制御方式と起動方式が提案された。SCFRでは、制御系は互いに干渉系ではあるが、圧力は主蒸気加減弁によって、主蒸気温度は給水流量によって、出力は制御棒によって制御することができる。設計した制御系は設定点変更等の外乱に対して良好な応答を得られることを確認した。また、超臨界圧火力プラントの起動システムと手順を参考にして超臨界圧軽水冷却炉の起動方式について検討した。定圧起動方式では、起動バイパス系統から主系統への蒸気源切り換え時に要求される原子炉出口温度はほぼ定格値まで上昇する必要があるものの、過熱器を用いずにタービン通気条件を整えることが可能である。また、変圧起動方式を採用する際は、低出力、低流量時に超臨界圧に昇圧することが起動系容量削減の観点から望ましいことが示された。 |