学位論文要旨



No 114290
著者(漢字) 徐,兵
著者(英字)
著者(カナ) シー,ビン
標題(和) 中国山東半島、尹格庄金鉱床の地質と地球化学的特徴
標題(洋)
報告番号 114290
報告番号 甲14290
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4416号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 正路,徹也
 東京大学 教授 金田,博彰
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 教授 島崎,英彦
 東京大学 助教授 茂木,源人
内容要旨

 山東半島は中国で最も重要な金の生産地帯であり,中国の全産金量の1/4を占める.また,近年には,特に新しい鉱染型金鉱床の発見があいつでいる.そこで,この型の金鉱床の今後の探査を支援するために,代表的鉱染型金鉱床である尹格庄金鉱床の地質学的,地球化学的特徴を明らかとした.

 尹格庄金鉱床の母岩である花崗岩は,1)カリ長石化,2)曹長石化,3)セリサイト化,4)炭酸塩化,5)珪化,6)黄鉄鉱化などの変質作用を受けている.この変質帯は,新鮮な花崗岩と鉱体の間で顕著な変質分帯を示す.すなわち,鉱体と鉱体のごく近傍はセリサイトで,一方新鮮な花崗岩の側はカリ長石で特徴づけられる.変質作用により,カリ長石は正長石成分が増加する傾向を示し,斜長石は曹長石成分が増加する傾向を示す.また,X線回折データによると,カリ長石の秩序度は正長石と微斜長石間である.化学分析の結果によると,変質作用の過程で,主元素ではK,Feが付加され,Naが溶出したこ.また,微量元素ではS,Rb,Coが付加され,その他の多数の微量金属元素が溶出した.

 鉱石を構成する鉱物は,石英,セリサイト,方解石,菱鉄鉱,長石と黄鉄鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,閃亜鉛鉱と金(エレクトラム)である.鉱石の組合せによると,鉱石は1)黄鉄鉱-石英,2)石英-黄鉄鉱-セリサイト-黄銅鉱,3)石英-多金属硫化鉱物-炭酸塩の3グループに大別できる.金の鉱化作用は主にグループ2と3で認められる.黄鉄鉱と黄銅鉱のコバルトおよびニッケルの分析結果によると,黄鉄鉱のCo/Ni比は4以上であるのに対し,黄銅鉱のCo/Ni比は4以下であす.グループ1および2と比較すると,グループ3の黄鉄鉱はAs含有量が高く,黄銅鉱はNi,Se含有量が高い. 観察された流体包有物の種類は,液体包有物,気体包有物と含CO2包有物,多相(含NaCl結晶)包有物である.包有物の産状により,鉱化作用のある段階で,沸騰作用があったと考えられる.全体の均質化温度は,初成包有物が300℃に,二次成包有物が230℃に集中する.流体包有物のガスは主としてH2Oより成る.その他のガス成分としてはにCO,CH4,N2が確認された.CO2/CH4モル比は,3.35〜13.54で,CO2含有量に富むことが分かる.これより推算した酸素のフガシティは10-36〜10-3〓atmである.また,NaClを含む多相包有物の塩濃度は30〜40(NaCl相当wt%)である.一方,液体包有物の塩濃度は3〜5(NaCl相当wt%)である.その値より推定される流体の密度は0.70〜0.75g/cm3である.また,含CO2包有物のCO2は60〜90cm3/moleで,これより代表的な鉱化作用の圧力は0.5〜1.5kbarと推算できる.

 鉱石中の黄鉄鉱の硫黄同位体組成は34S=5.97〜7.73‰で,変化幅が小さい.また,石英の酸素同位体組成は1〓O(qz)=9.9〜12.8‰で,水素同位体の組成はD(H2O)=-59〜-78‰である.前者の値から導かれる溶液の酸素同位体は1〓O(H2O)=2.21〜5.91‰である.一方,黄鉄鉱のPb同位体組成は206Pb/204Pb=17.106〜17.158, 207Pb/204Pb=15.400〜15.442である.

 以上のデータは,山東半島に分布する鉱染型金鉱床の探査において,探査地域を絞り込む上で,有効な示唆を数多く与えるはずである.

審査要旨

 本論文は,中国で最も重要な金の生産地帯である山東半島に分布する鉱染型金鉱床の地質学的,地球化学的特徴を,尹格庄鉱床を詳細に調べることにより明らかとした.得られた特徴は次の通りである.1)変質作用は,鉱体とその近傍でセリサイト,離れれるとカリ長石で特徴づけられる.カリ長石の秩序度は,正長石と微斜長石の間である.2)鉱石は,(1)黄鉄鉱-石英,(2)石英-黄鉄鉱-セリサイト-黄銅鉱,(3)石英-多金属硫化鉱物-炭酸塩に分けられ,金は主に(2)と(3)に濃集している.3)液体包有物,気相包有物,多相包有物,含CO2包有物が観察された.これらの包有物の均質化温度は,初成包有物が300℃に,二次成包有物が230℃に集中する.4)含CO2包有物の組成から推定される鉱化時の圧力は0.5〜1.5kbarである.5)黄鉄鉱の硫黄同位体組成は34S=5.97〜7.73‰である.6)鉱化流体の水素同位体の組成はD(H2O)=-59〜-78‰,酸素同位体は1〓O(H2O)=2.21〜5.91‰であったと推定される.これらのデータは,山東半島に分布する鉱染型金鉱床の探査において,探査地域を絞り込む上で,有効な示唆を数多く与えるはずである.

 以上の内容に関し,提出された論文を慎重に審査し,さらに口頭により関連事項の質疑応答を行った.論文には十分に独創的な点が含まれており,それらを展開するための議論も高度であることが判明した.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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