学位論文要旨



No 114293
著者(漢字) 津守,不二夫
著者(英字)
著者(カナ) ツモリ,フジオ
標題(和) 内部メカニズムを考慮した焼結現象解析のためのマルチレベルモデリング
標題(洋)
報告番号 114293
報告番号 甲14293
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4419号
研究科 工学系研究科
専攻 金属工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 相澤,龍彦
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 香川,豊
 東京大学 助教授 榎,学
 東京大学 教授 都井,裕
内容要旨

 粉末冶金法は粉末材料のNear Net Shapingプロセスとしてより高精度化が求められている。このプロセスにおいては粉体の収縮の際、粉末の密度分布等の内部構造の影響による不均一な変形により、歪みや割れを引き起こすことがある。このような欠陥を防ぐため、これまでの経験的なアプローチに代って焼結時の現象を解析するモデルが種々考案されている。このような解析モデルとして現在提案されているモデルは大別してミクロモデルとマクロモデルの2つがある。ミクロモデル解析は計算機の高機能化に伴い注目されているが、微視的な機構を製品レベルの形状寸法での材料自体の変形とは関連付けが難しく、実際のプロセス条件を考慮した解析が困難である。一方、実プロセスに即したモデルとしてのマクロモデルでは、多くが粉体自体の構成関係式を実験的に求めこれを用い製品形状の予測を行っている。よって、実際の粉体内部の構造がどのように製品に影響を与えているかを考慮することはできない。

 そこで、これら2つのモデルを均質化の手法により連成させたマルチレベルモデリングによる焼結解析法を提案する。このモデルにより粉体自体の構成式を実験で決定することなしに、材料自体の物性から粉体の特性を抽出し焼結材料の変形を予測することができる。また逆に粉体材料に加えられた圧力や変位拘束といったプロセス条件の微細構造への影響もとらえることができる。同様の手法は変形解析のみならず熱伝導解析・材料拡散問題においても用いることができ、それらの連成解析によりさらに発展した焼結解析が可能となる。

 本研究では上記のように焼結材料をミクロおよびマクロな視点からとりあげた連成マルチレベルモデリングシステムを開発し、焼結プロセスの解析を行っている。さらに、作成したシステムでは焼結中の微細構造の変化を常に追跡しているため、これを利用し焼結材料の物性の予測、評価が行えることを示した。

審査要旨

 粉体成形、粉末冶金プロセスは、バルク成形加工技術の重要なプロセシングの1つであり、近年高精度成形を指向したネット成形技術が必須となっている。粉末材料から最終製品形状までのプロセスを高精度、高信頼度で実行するには、単なる実験技術の積み上げのみでは十分な形状寸法精度の実現、プロセス内の現象の理解がきわめて不十分であるばかりか、製品製造までのリードタイムに対する時間の劣化が大きな障害となる。このような困難さを解消し、製品設計と製造加工プロセスとの短縮化をはかる同時プロセス化(Concurrent Engineering)を実現するには、強力なプロセスシミュレーション技術を背景とした設計手法が不可欠となっている。本論文は、粉体冶金プロセスの根幹をなす焼結現象に解析の光をあて、世界に先駆けて、粉体材料内部のポロシティーに代表される内部構造の焼結中変化と製品レベルの収縮現象とを同時に扱うとともに、焼結現象に深く関与する高温変形・熱伝達・物質移動を連成することで多様な焼結プロセスを記述する手法としてのマルチレベルモデリングを提案、開発している。

 論文は9章より構成されている。

 第1章は序論であり、粉末冶金プロセスにおける数値モデリングの必要性、特に焼結解析に関する各種モデルに関してサーベイを行うとともに、本論文における定式化の基礎の1つである均質化法に関するこれまでの研究動向についてまとめている。第2章は焼結理論に関するまとめであり、各種焼結機構の特徴に関してサーベイするとともに、本論文で対象とする焼結過程中期-後期における焼結挙動の特徴ならびに理論的背景について述べている。

 第3章から5章までが、本論文で開発したマルチレベルモデリングの基礎理論、それを定式化した解析モデルの提案、実際のシミュレーションを実行するための解析システムの構築に関する内容である。第3章では、本論文で提案するマルチレベルモデルと均質化法との関係が論じられ、焼結過程に関わる変形現象、熱伝達現象、拡散現象などを、階層化した構造の中で連成(Coupling)モデルとして表現することで、各現象に関わる基本物性値(母材料の物性値)のみを入力として、温度勾配下での焼結収縮現象などに関し、プロセス因子としての加圧スケジュール・温度履歴を直接考慮しながら、ポロシティーなどの内部構造の変化の記述と製品レベルの形状変化の解析を行えることを示した。第4章は上記理論を変形現象、熱伝達現象、拡散現象ごとに定式化を行い、連成解析の定式化を展開している。第5章はそれを計算機上で実行するためのシステム構築を述べている。特筆すべき点は、本マルチレベル法は並列計算アルゴリズムときわめて良好な整合性を有している点であり、内部構造変化の詳細な記述もマクロな変形解析に必要な計算時間と同程度で並列処理できることが示された。

 第6章はモデルの検証であり、厳密解ならびにマイクロメカニクスにより求められる等価物性値などと定量的に比較、検討し、本モデルの定量的な妥当性を検討している。第7章は種々の焼結プロセスに、本論文で開発した解析システムを適用し、ポロシティー分布、密度分布、温度分布が焼結収縮変形に与える影響を定量的に評価するとともに、特にステンレス鋼粉末の熱間等方圧力成形(HIP成形)プロセスを取り上げ、実験値との定量的な比較検討を行っている。第8章は焼結プロセス後の物性予測に関して実験との比較、検討を行い、本モデルを用いることで焼結後の等価弾性定数ならびに等価熱伝導係数を定量的に予測できることを示している。

 第9章は総括である。

 要するに本論文は、これまで記述が困難であった焼結過程における内部構造変化を、製品レベルの材料の変形解析とともに表現すると同時に、焼結部品として重要な形状予測性を有し、かつ材質の等価弾性定数ならびに等価熱伝導係数を定量的に予測するという全く新しい解析法を提案、開発しており、材料プロセス工学・材料加工学への寄与が顕著である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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