学位論文要旨



No 114295
著者(漢字) ジャロンウォララック,アンカナー
著者(英字)
著者(カナ) ジャロンウォララック,アンカナー
標題(和) WC-Co超硬合金及びTiC-Mo2C-Ni系サーメットの微細構造
標題(洋) MICROSTRUCTURE STUDY OF WC-Co CEMENTED CARBIDE AND TiC-Mo2C-NI CERMET
報告番号 114295
報告番号 甲14295
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4421号
研究科 工学系研究科
専攻 材料学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐久間,健人
 東京大学 教授 林,宏爾
 東京大学 教授 菅野,幹宏
 東京大学 助教授 市野瀬,英喜
 東京大学 助教授 幾原,雄一
内容要旨

 WC-Co系超硬合金およびTiC-Ni系サーメットはいずれも代表的な焼結硬質合金であり,主として切削工具材料として実用化されている。従来,これら超硬合金ならびにサーメットの力学特性を向上させる目的で,数多くの研究がなされてきた。これまでに,VCを添加することによりWC-Co系超硬合金における炭化物の結晶粒微細化に有効であることが経験的に知られている。またMo2Cを添加したTiC-Ni系サーメット材料は特徴的なCore-Rim構造を有することがやはり経験的に明らかとなっており,工業的に重要な知見となっている。しかしながら,これらの微細組織の形成過程については未だに不明な点が多い。そこで本研究では,これら焼結硬質合金の微細組織形成過程の解明を目的としている。特に実用上重要であると考えられるWC-12wt%Co,WC-12wt%Co-0.5wt%VC超硬合金およびTiC-20wt%Mo2C-20wt%Niサーメットについて焼結体を作成し,高分解能顕微鏡法(HREM:High Resolution Electron Microscope)や分析電子顕微鏡法(AEM:Analytical Electron Microscopy)を用いて微細構造を観察するとともに,これらの微細構造の詳細な解析を行った。

WC-Co超硬合金

 WC-12wt%Coに0.5wt%という極微量のVCを添加することで,WCの平均粒径は0.67mから0.13mに微細化した.図1にVC添加WC-Co超硬合金におけるWC/Co界面の高分解能電子顕微鏡像を示す。WC/Co界面には第二相粒子は認められなかったが,VC添加試料においてのみ認められる,主にWCの(0001)及びWCの面を晶癖面とする,多数のステップ構造をとることが分かった。そこで,二つの晶癖面近傍,すなわち図1の1-5間(0001)面及び6-10間面を,直径約0.5nmの電子プローブを用いて1nm間隔でEDS(エネルギー分散型X線分光)分析を行ったところ,図2に示すように,いずれのWC/Co界面の晶癖面においでもV元素の偏析が認められた。また,Vの偏析量は(0001)面と面では大きく異なり,(0001)面においてより顕著な偏析が認められた。一方,WC/WC粒界においても第二相粒子は観察されなかったが,WC/Co異相界面と同様に,VおよびCoの粒界偏析がEDS分析の結果明らかになった。これらの結果から,VCによる炭化物の粒径微細化効果はWC/Co界面及びWC/WC粒界におけるVの偏析が関連していることが新たに明らかになった。

TiC-Mo2C-Niサーメット

 1390℃,1時間の焼結をしたTiC-20wt%Mo2C-20wt%NiにおいてCore-Rim構造が観察された。EDS分析結果から,CoreとRimの組成はそれぞれTiCおよび(Ti,Mo)Cであると分かった。X線解析,TEM及びEDS分析の結果,Niの融点よりも低い焼結温度でも,既に固容体(Ti,Mo)CがTiC Coreの周り存在しており,サーメットの焼結は液相を介さずに進行することが分かった。高分解能電子顕微鏡観察の結果,Core/Rim界面は整合な界面であると明らかになった。また,1390℃,11hの燒結体においては整合なCore/Rim界面を残っていることが分かった。図3は1390℃,1時間の燒結をした材料のEDS分析結果である.図中に固容体の(Ti,Mo)中にあるMoプロファイルはTiC Core側で急激に減少していることが分かった.こうしたことから,連続線ではないと分かり,Core-Rimを生成する過程は拡散過程ではないことが明らかになった。

図1 1380℃,1時間で燒結したWC-12wt%Co-0.5wt%VCにおけるWC-Co界面のステップ構造の高分解能電子顕微鏡像。図2 WC-12wt%Co-0.5wt%VCのWC/Co界面近傍におけるVのEDS分析結果。測定点は図1に示した。図3 TiC-20wt%Mo2C-20wt%NiにおけるCore-rin界面近傍でのTi,Mo,NiのEDS分析結果。
審査要旨

 本論文は、WC-Co超硬合金及びTiC-Mo2C-Ni系サーメットの微細構造に関する研究結果をまとめたものであり、以下の5章よりなっている。

 第1章は序論であり、WC-Co超硬合金及びTiC-Mo2C-Ni系サーメットの微細構造に関する従来の研究結果を概観している。その中で、WC-Co超硬合金の液相焼結に伴う結晶粒成長を抑制するためには、WC-CoにTaC、Cr3C2、VCなどの炭化物を微量添加することが有効であるとする従来の研究結果について述べている。また、TiC-Mo2C-Ni系サーメットにおいて、TiC-NiにMo、MoC、または、Mo2Cを添加することにより生じる特徴的なCore-Rim構造の形成過程に関する説について述べている。さらに、これらの研究背景をふまえて、本研究の目的について述べている。

 第2章は、WC-Co超硬合金の微細構造に及ぼす微量VC添加の効果について調べた結果である。高分解能電子顕微鏡法(HREM:High Resolution Electron Microscopy)及び分析電子顕微鏡法を用いて、1380℃、1hで液相焼結法で作成したWC-12wt%Co及びWC-12wt%Co-0.5wt%VC超硬合金のWC/Co界面やWC/WC粒界を詳細に解析している。これら各超硬合金におけるWC粒子の粒径はそれぞれ0.67m及び0.13mであり、微量のVCの添加によってWC粒子の粒径をおよそ1/5に抑制できることを示している。WCは六方晶で異方性があるので、その粒成長に伴い低指数の晶壁面で囲まれる傾向がある。焼結後にしばしば認められる晶壁面は(0001)面や面であるが、VC無添加材の直線的なWC/Co界面はこれに対応している。一方、VC添加材のWC/Co界面には多数のマイクロステップが形成されている。これらステップの晶壁面は(0001)面と面から構成されていることが分かった。このようなステップの形成はVC添加材に特有のものと分かり、粒成長抑制メカニズムと関連しているものと推察している。また、(0001)面や面の多数のステップを形成したWC/Co界面について、直径約0.5nmの電子プローブを用いて1nm間隔でEDS分析を行った結果では、いずれの場合でもVの偏析を確認している。しかし、(0001)面の方は面に比べてVの偏析量が多くなることが分かった。WC粒成長の抑制メカニズムはWC/Co界面及びWC/WC粒界に偏析したVと直接に関係していると結論している。

 第3章は、固相-固相状態のWC-Co超硬合金の微細構造に対する微量のVC添加の効果を調べた結果である。1200℃、1100℃、1000℃で作成したWC-12wt%Co及びWC-12wt%Co-0.5wt%VC超硬合金のWC/Co界面やWC/WC粒界をHREM及びEDSを用いて解析している。1200℃で各超硬合金におけるWC粒子の粒径はそれぞれ0.36m及び0.12mであった。また、VC添加材には、液相焼結で作成された微量VC添加材と同じような多数ステップがWC/Co界面に観察された。また、このステップも晶壁面は(0001)面と面から構成されていることが分かった。以上の結果より、微量VCの添加により、WC粒成長を抑制する過程は固相-固相状態から既に生じることが判明した。すなわち、粒成長の抑制過程は冷却時に生じるものではないことを示している。WC/Co界面及びWC/WC粒界をEDS分析した結果は、液相焼結の微量のVC添加材と同様、VがWC/Co界面及びWC/WC粒界に偏析することが分かった。そのV偏析によってWC粒成長を抑制することができると結論している。

 第4章は、TiC-Niサーメットの微細構造に及ぼすMo2C添加の効果を調べた結果である。X線解析、HREM及びEDS分析を用いてTiC-20%Mo2C-20wt%NiのCore/Rim界面周囲の組織を解析した。その結果、Niの融点よりも低い焼結温度でも、既に固溶体(Ti,Mo)CがTiC Coreの周囲に存在しており、サーメットの焼結は液相を介さずに進行することが分かった。HREM観察の結果、Core/Rim界面は整合な界面であり、焼結時間を長くしてもその整合なCore/Rim界面が保たれていることが分かった。1390℃、1hおよび1390℃、11h焼結のTiC-20%Mo2C-20wt%NiについてのEDS解析の結果、Core-Rim構造が安定なのは溶解度ギャップによるものと推定された。

 第5章は本研究の総括である。

 以上を要約すると、本研究はWC-Co超硬合金及びTiC-Mo2C-Ni系サーメットの微細構造に関する従来までの研究で不明であった点を明らかにし、新たな知見を得たものであり、材料学の進展に寄与するところ大きい。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格を認められる。

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