本論文は、「エネルギー物質の圧力発生挙動に関する研究」と題し、エネルギー物質の有するエネルギー発生特性のうち圧力発生挙動に着目し、エネルギー物質等自己反応性物質の加熱時における分解の激しさを定量的に評価する試験法について検討するとともに、新規エアバッグ用ガス発生剤として期待されている相安定化硝酸アンモニウム(PSAN)-テトラゾール系組成物の着火爆燃時の圧力発生挙動について検討した成果をまとめたもので、7章から成っている。 第1章は序論であり、本論文の研究の背景および既往の研究を概説し、本論文の目的と方針を明らかにしている。 第2章は、試作した密閉型圧力容器内のガラス製試料容器に入れた自己反応性物質を電気炉を用いた均一加熱方式により加熱分解させた場合の圧力発生挙動を各種条件下で調べ、圧力発生挙動の再現性について検討した結果を述べている。本試験は密閉型の圧力容器を用いており、また、電気炉を用いた均一加熱方式を採用しているため、容器内部の温度差が比較的小さく、熱分解が一様に起こるため、従来の国連で採用されているオランダ式およびアメリカ式圧力容器試験と比較して自己反応性物質の種類、加熱速度、試料量、圧力容器サイズによらず、熱分解時の圧力発生挙動について再現性の良い結果が得られることを示している。 第3章は、自己反応性物質の密閉下での加熱分解による圧力発生挙動に及ぼす自己反応性物質の種類、加熱速度、試料量および圧力容器サイズの影響について検討するとともに、標準試験条件および評価特性値について検討した結果を述べている。自己反応性物質の熱分解による圧力発生挙動に及ぼす上記各要因の影響を明らかにするとともに、圧力発生速度(dP/dt)は物質の分解熱および系の熱収支による影響を受けることを示し、試験の標準条件としては安全性の点からも小型容器を用い、試料の充填率は〜0.05g/mlが適当であることを提案した。また、自己反応性物質の加熱分解時の激しさを圧力発生挙動から評価する場合の評価特性値としてはdP/dtが適切であることを提案した。 第4章は、密閉型圧力容器を用いて溶媒希釈した有機過酸化物の加熱時の圧力発生挙動を調べ、従来のオリフィス付半密閉型圧力容器試験の場合と比較検討した結果について述べている。本方法では密閉型圧力容器を用いているため、溶媒希釈状態での熱分解の激しさに関する情報が得られるが、従来のオリフィス付半密閉型試験法では、有機過酸化物等の自己反応性物質が低沸点溶媒で希釈した場合、加熱によりまず溶媒の蒸発が起こり、次いで、濃縮された状態で熱分解が起こるため、溶媒希釈状態での自己反応性物質の熱分解の激しさを正しく評価できないことを示し、本試験法の有用性を述べている。 第5章は、いくつかの代表的自己反応性物質の熱分解機構を提案し、素反応の速度データを用い、反応計算プログラムSENKINにより、密閉容器内での圧力発生挙動のプロファイルを得て、実験結果と比較検討した結果について論じている。自己反応性物質の熱分解による圧力発生挙動は熱分解機構に関する知見が得られれば、反応計算プロクラムSENKINを用いて、予測可能であることを明らかにした。また、自己反応性物質の溶媒希釈状態での熱分解による圧力発生挙動についても同様に予測できることを示している。 第6章は、相安定化硝酸アンモニウム(PSAN)を酸化剤とするPSAN-テトラゾール系新規エアバッグ用ガス発生剤組成物の着火爆燃時の圧力発生挙動について検討した結果を述べている。PSAN-テトラゾール系組成物は従来のアジ化系ガス発生剤組成物に劣らないガス発生量を有しており、また、粒子径の制御や燃焼促進剤の添加等により、圧力発生速度を向上させることができることから、有用なガス発生剤組成物であるとしている。 第7章は、総括であり、本論文より得られた成果をまとめている。 以上要するに、本論文はエネルギー物質等自己反応性物質の熱分解時の圧力発生挙動から熱分解危険性を評価する有用な方法を提案するとともに、新規エアバッグ用ガス発生剤組成物に関して新たな知見を加えたものであり、エネルギー物質化学ならびに化学システム工学の発展に寄与するところが少なくない。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 |