学位論文要旨



No 114324
著者(漢字) 田中,加奈子
著者(英字)
著者(カナ) タナカ,カナコ
標題(和) 新エネルギー技術を適用した環境調和型都市の構築
標題(洋)
報告番号 114324
報告番号 甲14324
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4450号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山田,興一
 東京大学 教授 小宮山,宏
 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 定方,正毅
 東京大学 助教授 松橋,隆治
内容要旨

 近年、地球規模の環境問題に対しての認識が強まっている。人間活動による温暖化の主要因として挙げられているのは化石燃料の大量消費である。近年の人口増大による都市への人口集中や機能の一極集中により都市部に消費が集中している。本研究では都市で利用する新エネルギー技術システムに着目した。現状の化石燃料依存のエネルギー供給ではエネルギー消費量がCO2排出量に直接相関があり、エネルギー消費量を減らす方法として技術利用が有効なためである。

 本論文は都市需要に適している新エネルギー技術システムの設計、ライフサイクル評価を行い、技術の開発課題を明らかにすることで環境調和型都市構築のための新技術システムの提案をするものである。初めに都市のエネルギー消費、CO2排出構造を把握し、その結果から新技術の利用可能性を検討し、提案する。次に研究の主要部分である技術システム設計と評価手法の確立を行った。個別技術システムの設計と評価、複数エネルギー技術利用評価を通じ、最終的に都市の他研究との融合による都市統合システム研究の環境調和型都市構築への効果を論じた。

1.都市域におけるエネルギー消費、二酸化炭素排出構造の把握1-1.東京都のエネルギー消費量調査

 東京都のエネルギー消費量は日本全体の1割程度である。土地あたりエネルギー消費が非常に高いが、人口、GDPでみると高効率な都市である。エネルギー供給で電力は全体の3割を占めた。エネルギー消費では運輸部門が40%、次いで業務・家庭部門がそれぞれ27%、21%を占めている(1990年)。また家庭部門では給湯、暖房など温熱需要が多く、業務部門では電力が大半を占めていた。

1-2オフィスビルに関するエネルギー消費実測詳細調査

 首都圏業務ビルについてエネルギー消費量調査を行った結果、電算室の電力、冷房需要が非常に多かった。事務室では日中の電力、冷房、日射熱取得がが非常に大きい。これらの結果から需要形態に適した技術を挙げた。

 ・業務ビル電算室の高い電力、冷熱需要 →燃料電池(FC)コジェネレーション

 ・昼間電力需要がある業務ビル事務室 →窓用太陽電池(PV)

 ・外皮による日射熱取得が大きい(大きな窓面積)業務ビル事務室 →遮蔽性窓用PV

 ・電力需要が大きい民生業務部門 →高効率電力変換FCコンバインドシステム

 ・温熱需要が大きい民生家庭部門 →太陽熱温水利用、FC熱電併給による熱供給

 ・交通部門 →電気自動車、FC搭載型自動車

 各部門、建物用途、建物内の室用途内訳によって適した技術導入の種類、量を変えることが必要である。

 次章では燃料電池発電システムについて詳細な設計及び評価を行い、都市利用が可能な技術開発には何が必要か、エネルギー消費削減(CO2排出量削減)にどういう効果があるかを定量的に検討した。

2.都市部利用新エネルギーシステムの設計と評価2-1.民生用分散電源用固体酸化物燃料電池(SOFC)利用発電システム

 燃料電池をオンサイト型発電システムとして利用することとした。燃料電池コジェネシステムあるいはタービンとのコンバインドシステムにより高効率発電システムの設計を目指した。SOFCシステムとFCCCシステムについて詳細な設計を行った。広範囲の作動温度(WT)、スチーム/カーボン比(S/C)条件 -FCCCではさらに作動圧力(WP)、燃料利用率(Uf)、空気利用率(Ua)、タービン入口温度(TIT)の制約、プラント規模(rGT/FC)-における出力(起電力)特性を明らかにし、コストとエネルギーの観点から定量的に評価を行った。またシステムコストとライフサイクル投入エネルギーの計算手法も確立した。さらに発電効率向上のために廃熱利用方法として発展途上段階である熱電変換素子を取り上げ有効性を議論した。

FCCCシステムガスフロー

 SOFC単体システムでは低温化は材料選択の幅を広げシステムのコストを低減するとともに、起電力の大幅な向上が得られることが明らかになった。高温作動ではCPTが非常に長くなり導入は困難であるが、低温作動システムはコストペイバックタイム(CPT)の面で実現可能である。低S/C作動や性能向上、低コスト化により、さらにCPTを低減できる。また、排熱の有効利用はシステム総合効率を上げ、CPT、EPTを大幅に短縮するため、電気及び熱需要に適したシステムの導入が重要であることが示唆された。現状で実現可能性と性能からみてS/C=1.0〜1.5で温度800℃が最良の作動条件と判断できる。

 FCCCで最適条件として総合発電効率60%、TIT1373K、CPT6年、EPT1年であるシステムをまとめるとどのシステムもWPは0.4〜0.5MPa、WTは700〜800℃であり、この時電流密度0.4Acm-2でVlossが0.3Vが達成される条件がよい。ここで技術開発課題をまとめると次のようになる。

 ・電極構造、電極活性化による低温作動(700〜800℃)における低過電圧の実現

 ・セル形状の工夫によるIR損の低減

 ・タービン入口温度の向上(〜1300℃)(FCCCシステム作動温度1000℃利用の場合)

 ・低S/C領域(S/C=0〜1.5)での炭素析出抑制(SOFC単体システムで重要)

 ・セル、改質触媒の長寿命化によるライフサイクルコスト、エネルギーの低減

FCCCにおけるSOFC作動温度WTとCPT/EPT
2-2.交通用メタノール直接酸化型高分子電解質型燃料電池

 自動車用電源としてPEMFCが実用化レベルにあと少しというところまで来ている。ここでは将来技術として直接メタノールを導入するDMFCシステムに着目し、設計・評価を行った。

 セル・モジュール設計(セルサイズ、熱交換システム)、WT、S/C、WP、Uf、Ua、クロスオーバー率(CR)による出力(起電力)特性の違いを明らかにし、コストとエネルギーの観点から定量的に評価を行った。その結果、PEMFCよりもDMFCが優れた技術であった。本研究で電気抵抗、圧力損失などシステム評価を行いDMFC/PEMFCとも新たに小型化のメリットが明らかになった。次に作動条件の影響を検討した。その結果、200℃付近の高温作動(その際、低湿で高いプロトン導電性の膜開発要)、S/C=1〜2まで低減(高CO濃度に耐え得る新しい電極要)、まで向上、CRは0.35以下に抑制という課題が明らかになった。

 さらに、自動車搭載し走行モードに適用させたところ、80km h-1以下の走行モードのときにガソリン車よりも燃費が高かった。また、平均必要動力が低い10.15モード(加速型についても)では小発電規模(ここでは必要動力の75%)でメリットが高いことがわかった。また低速一定走行で高い燃費が得られた。

DMFCガスフロー(空冷式)
3.新エネルギー技術システムの都市での応用

 建物の需要変動によって新技術導入の際の着眼点が異なることから、実際の計画中の新都市である臨海副都心地域を選び、都市を設計し、太陽電池、燃料電池の導入効果を試算した。建物種毎に最適な導入形態が存在し、その最適システムを導入することにより、臨海都市ではエネルギー消費で3割の削減が可能となった。ここで、業務ビルでは昼の電力需要のため、他ビル種より太陽電池の導入効果が大きく見られた。

台場地区業務事務系ビル
4.都市内物質循環と素材に関するCO2削減技術

 新しいシステムを設計し、都市におけるCO2排出削減ポテンシャルを評価する方法をこれまで個々の技術について論じてきたが、ここで都市を構成する材料の製造プロセスでの新技術利用によるCO2排出削減に着目した。まず、都市構成素材を調べた結果、鉄が製造部門CO2排出量で35%、内省部門CO2排出量で15%を占めた。さらに鉄の使用先は建設部門が3割を占めた。建設部門の鉄使用量を大幅に削減する方法としてスーパーメタル技術導入を評価した。強磁場付加圧延製造技術は投入コスト、エネルギーが少なく、CO2排出量削減に有望な技術であることがわかった。

5.地域二酸化炭素排出量削減のために…ケーススタディ:東京都

 本論文で検討した各技術を東京都の各部門(民生、交通、産業)に適用した結果、年間CO2排出量削減効果は最終需要ベースCO2排出量の26%となった。

 今後都市に関する多様な研究を統合したシステム研究を行うことで、導入技術相互、技術と都市システム相互の関係が明らかにされれば、より一層の技術の効果が得られる。またそれにより技術開発課題がさらに具体化され開発が促進されることになる。

図表

 本研究では新エネルギー技術を適用した環境調和型都市構築を行った。技術を都市のニーズ、効果の高さ、実現可能性の観点から選び、詳細なシステム設計評価を行った。その結果新たな技術・技術利用法の創造に結びつけ、その総合的効果を定量化する手法を提案した。また都市地域には様々な需要があり、それらを把握し適切な技術を導入、さらにそのための開発を進めることが重要であることが分かった。これらの組み合わせにより東京都では3割のCO2排出量削減が可能となり、技術利用環境調和型都市像が明確になった。

審査要旨

 本論文は「新エネルギー技術を適用した環境調和型都市の構築」と題し全7章から構成されており、都市需要に適している新エネルギー技術システムの設計、ライフサイクル評価を行い、技術の開発課題を明らかにすることで環境調和型都市構築のための新技術システムの提案をするものである。

 第1章ではまず、本研究の背景となる地球温暖化問題、都市研究の重要性、都市部における技術利用の効果の高さの説明を行った。また本論文で取り入れている要素技術研究とシステム評価研究を連携させて行う新しい視点の研究の重要性を述べた。複雑な要素を持つ都市を多角的に評価するために必要な評価手法と本論文に適用する手法をまとめた。最後に本論文の目的、構成を図示している。

 第2章では東京全体のエネルギーフローを把握し、都内各種建物用途毎に調査した。次に特定業務ビルのエネルギー消費量を室用途毎に実測し熱収支をとり、技術の利用可能性をまとめている。

 第3章では都市ビル用オンサイト型電力供給源として固体電解質型燃料電池(SOFC)と、SOFC/タービンコンバインドシステム(FCCC)の詳細設計と評価を行い、高効率システムを提案した。作動条件の最適化の結果、FCCCで効率66.4%(LHV)が得られた。効率60%以上、タービン入口温度が1100℃以下、コスト、エネルギー回収年数がそれぞれ6年、1年以下であるシステムは作動圧力が0.4〜0.5MPa、作動温度は700〜800℃であり、この時電流密度0.4Acm-2で電圧降下が0.3V以下が成り立つ条件であり開発課題であった。また自動車搭載用直接メタノール酸化高分子電解質型燃料電池(DMFC)についても同様に設計評価を進めた。水素燃料電池よりもDMFCが優れており、小型化、空冷式のメリットが明らかになった。作動条件の最適化を行い、走行モードと燃費の関係を明らかにしている。

 第4章では建物のエネルギー需要変動によって応用新技術が異なることから、臨海副都心地域を選び、太陽電池、燃料電池を導入した都市を設計し評価した。最適システムの導入により、臨海都市ではエネルギー消費で3割削減が可能との結果となっている。

 第5章では都市を構成する材料の製造プロセスでの新技術利用によるCO2排出削減に着目した。製造時CO2排出量が多い鉄を取り上げ建設部門の鉄使用量を大幅に削減する方法としてスーパーメタル技術導入を評価した。強磁場付加圧延製造技術は投入コスト、エネルギーが少なく、CO2排出量削減に有望な技術であることを明らかにしている。

 第6章に前章までの各新技術を東京都の各部門(民生、交通、産業)に適用した結果を示した。年間CO2排出量は26%削減可能となった。また個々の技術システムと都市システムを関連づけた統合化システム研究の重要性を述べている。

 最後に第7章で本論文で明らかにされた項目をまとめ結言を述べている。

 以上、本論文は技術を都市のニーズ、効果の高さ、実現可能性の観点から選び、詳細なシステム設計評価により改良開発課題を明確化し、新たな技術・システム利用法の創造に結びつけ、その総合的効果を定量化する手法を提案したものであり、化学システム工学の発展に寄与するところが大きい。

 よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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