No | 114341 | |
著者(漢字) | 中林,靖 | |
著者(英字) | Nakabayashi,Yasushi | |
著者(カナ) | ナカバヤシ,ヤスシ | |
標題(和) | 超大規模流体解析の効率的計算手法 | |
標題(洋) | Efficient Computational Strategy for Ultra Large Scale Fluid Analysis | |
報告番号 | 114341 | |
報告番号 | 甲14341 | |
学位授与日 | 1999.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4467号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 情報工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年の計算機性能の飛躍的な向上により、数値流体力学の分野では大規模・複雑形状問題、並列処理等への需要がますます高まってきている。しかしながら、これまでの数値流体解析システムは、計算時間の観点から解析可能な問題の規模が限られている点、大規模問題に対するメッシュ生成・領域分割のためのプレ処理や可視化のためのポスト処理が困難である点、複雑形状・高レイノルズ数流れ問題を取り扱う際に収束性が極めて悪くなる点、並列処理において解析に用いるプロセッサ数の増加に伴い高いスケーラビリティーが得られない点などにおいて、上で述べたような需要を十分に満たせていないのが現状である。 本論文では、種々の数値解析手法のうち工学的に重要な複雑形状を容易に処理できるという観点から有限要素法に着目して、これを非圧縮性流体解析に適用することを検討している。そして、一億自由度規模の超大規模解析を実現するために、行列無記憶型の解析アルゴリズムの適用を行い、計算機の使用メモリ量を極限まで節約する手法の提案、数値的安定性・収束性を向上させるための手法の導入、効率の良い並列処理手法の導入、及び、プレ処理・ポスト処理を含んだ総合的な数値流体解析システムの構築を行っている。本論文は、まず行列無記憶型の解析アルゴリズムによる非圧縮性流体解析手法の定式化について触れている。次にParallel Fortran及びMessage Passing Interface(MPI)を用いた並列解析手法と開発したシステムの概要を示し、最後に数値解析による評価、検証の成果をまとめており、全体で6つの章から構成されている。 第1章では、有限要素法による数値流体解析、並列処理、大規模問題の現状を明確にするために、現在までに行われてきた研究のレビューを行った上で、本研究の目的及び論文の構成について述べている。数値流体解析の分野では、工学的問題で要求される解析の規模に対して、まだまだ十分な解析が行えないのが現状であり、以降の章では特にこの問題点を克服する手法や考え方についてまとめたものとなっている。 第2章では、行列無記憶型の有限要素法非圧縮性流体解析手法の定式化についてまとめており、上流化手法、人口粘性、hourglass controller等を導入することによる計算の安定化のための手法についても示している。実際に用いられた、行列無記憶型の計算手法によって、従来の方法に比べて大幅なメモリの節約(約80%)が可能となり、同時に計算速度も速くなるよう工夫されている。 第3章では、並列計算機に関するレビュー、及び並列処理の手法についてまとめられている。並列処理の手法に関してはParallel Fortran言語による手法、MPIによる手法の順に高い効率を得るための手法が順にまとめられており、また、実際に使用した計算機として、KSR-1,CRAY T3D,Hitachi SR2201,DEC Alpha Clusterが挙げられている。標準的な通信ライブラリーであるMPIを用いることによって、アーキテクチャに依存しないコードを作成することが可能となり、今後登場するであろう最新の並列計算機等へのインプリメントも容易に行なえる汎用的なシステムが得られた。 第4章では、開発したシステムの概要についてまとめている。システム全体は、プレ処理、メイン解析、ポスト処理の各サブシステムから成り、各サブシステムにはさらにいくつかの処理ステップが存在し、全体を通して並列処理・並列I/Oを軸とした大規模解析向けのシステム構築への工夫が凝らされている。 第5章では、第4章で示されたシステムを用いて数値実験が行われている。解の精度・収束性・安定性について議論がなされ、また、並列化の効率も各計算機に対して詳細に計られ高い並列化効率が確認されている。そして、最後に実用的な解析例がいくつか挙げられている。具体的には、3次元キャビティー問題、円柱周りの流れ、吉野川モデル、地下鉄根津駅モデルなどである。 最後に第6章において、本論文の結論がまとめられている。最終的に得られた結果をまとめると、上述したように、まず、超大規模問題を解析するのに適した有限要素法流体解析システムを開発し、それを種々の並列計算機環境にインプリメントした。そのシステムの性能を精度・収束性・安定性・並列化効率等の観点から評価した上で、最終的に4000万自由度の超大規模問題を高い並列化効率で解析可能であることを示した。 | |
審査要旨 | 近年の計算機性能の飛躍的な向上により、数値流体力学の分野ではますます大規模・複雑形状問題、並列処理等への需要が高まってきている。しかしながら、これまでの数値流体解析システムは、計算時間の観点から解析規模が限られている点、大規模問題に対するメッシュ生成・領域分割のためのプレ処理や可視化のためのポスト処理が困難である点、並列処理において解析に用いるプロセッサ数の増加に伴い高いスケーラビリティーが得られない点などにおいて、上で述べたような需要を十分に満たせていないのが現状である。 本論文では、数値解析手法のうち工学的に重要な複雑形状を容易に処理できるという観点から有限要素法に着目して、これを非圧縮性流体解析に適用することを検討している。そして、一億自由度規模の超大規模解析を実現するために、行列無記憶型の解析アルゴリズムの適用を行い、計算機の使用メモリ量を極限まで節約する手法の提案、効率の良い並列処理手法の導入、及び、プレ処理・ポスト処理を含んだ総合的な数値流体解析システムの構築を行っている。本論文は、まず行列無記憶型の解析アルゴリズムによる非圧縮性流体解析手法の定式化について触れている。次にMessage Passing Interface(MPI)を用いた並列解析手法と開発したシステムの概要を示し、最後に数値解析による評価、検証の成果をまとめており、全体で6つの章から構成されている。 第1章では、有限要素法による数値流体解析、並列処理、大規模問題の現状を明確にしたうえで、研究の目的及び論文の構成について述べている。 第2章では、行列無記憶型の非圧縮性流体解析手法の定式化についてまとめており、計算の安定化のための手法についても示されている。 第3章では、並列計算機に関するレビュー、及び並列処理の手法についてまとめられている。並列処理の手法に関しては並列化Fortran言語による手法、MPIによる手法の順に高い効率を得るための手法が順にまとめられており、また、実際に使用した計算機として、KSR-1,CRAY T3D,Hitachi SR2201,DEC Alpha Clusterが挙げられている。 第4章では、開発したシステムの概要についてまとめている。システム全体は、プレ処理、メイン解析、ポスト処理の各サブシステムから成り、各サブシステムにはさらにいくつかの処理ステップが存在し、全体を通して並列処理・並列I/Oを軸とした大規模解析向けのシステム構築への工夫が凝らされている。 第5章では、第4章で示されたシステムを用いて数値実験が行われている。解の精度・収束性・安定性について議論がなされ、また、並列化の効率も各計算機に対して詳細に計られ、高い並列化効率が確認されている。 最後に第6章において、本論文の結論がまとめられている。 以上を要するに、本論文では複雑形状への適用の容易さから有限要素法による数値流体解析手法に着目し、その特徴を損なうことなく行列無記憶型アルゴリズム、並列処理等の導入により一億自由度規模の超大規模解析を行うための手法の提案及びシステムの構築をしたうえで、数値計算例によりその有効性を明らかにした研究成果をまとめており、計算流体力学および計算機援用工学の発展に寄与するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/54700 |