審査要旨 | | 魚類の資源管理を行うにあたっては,基礎的情報である生活史の諸側面を明らかにすることが不可欠である.本論文は三浦半島佐島周辺海域において,漁業上また遊漁上重要な魚類であるメバルの,成長,成熟,食性,さらに行動観察に基づく生息場所について調査研究を行い,生活史に関する基礎的知見を明らかにしたものである.本論文の概要は以下のとおりである. 1.年齢と成長 312個体の耳石(扁平石)を用いて年齢査定を行った.透明帯を年輪としたが,透明帯の形成が完了する9月と,受精の時期と仮定した1月1日との間に3ヶ月の差が生じたため,成長式を求める際に年齢tに対してt-0.3の補正を行った.von Bertalanffyの成長式は次のように求まった. ここでtは年齢,Ltは年齢tの時の標準体長(mm)である.また,寿命は雄6歳(186.1mm),雌7歳(223.9mm)と推定された. 体長6.8〜13.4mm(34個体)の浮遊仔稚魚で,耳石(礫石)に10〜55本の輪紋が観察され,体長(SL,mm)と輪紋数(D)の関係を求めるとSL=0.16D+5.12と表わされた.この関係から出産日を逆算すると,出産の盛期は1月下句と推定された. 2.成熟 423個体の生殖腺指数{(生殖腺重量/体重)×100},肥満度〔{(体重-生殖腺重量)/体長3.18}×105〕,肝量指数{(肝臓重量/体重)×100}を求めた.雌雄の生殖腺指数の経月変化から,交尾期は12〜1月,仔魚の出産は1〜2月が中心であると推定された.成熟体長は雌雄ともに体長130mmで,雌雄ともにほぼ3歳に相当する.本種の繁殖力を推定したところ,標準体長(SL,mm)と孕卵数(F)の関係はF=0.052SL2.661として求められた.本海域のメバルは,2万3千粒(体長132.1mm)から9万3千粒(体長223.9mm)の範囲の孕卵数を持つことが判明した. 3.食性 372個体の空胃率{(空胃個体数/標本数)×100},胃内容物重量指数〔{胃内容物重量/(体重-胃内容物重量-生殖腺重量)}×100〕,餌生物の重量百分率{(ある餌生物の重量/胃内容物重量)×100}と出現百分率{(ある餌生物を摂餌していた個体数/摂餌個体数)×100}を調べた.空胃率は低く,胃内容物重量指数も低かったことから,当海域のメバルでは摂餌状態は良好だが摂餌量は少ないことが明らかとなった.主要な餌生物は,重量百分率,出現百分率の観点からアミ類,カイアシ類,ヨコエビ類,多毛類,エビ・カニ類であり,浮遊稚魚(体長16.7〜43.2mm)では、カイアシ類,アミ類と推定された. 4.生息場所 生息環境が異なる7地点,沖よりの岩礁域,沖よりの砂地,岸よりの岩礁域,岸よりの砂地,テトラポッド沖側,テトラポッド岸側,浮桟橋にトランセクトを設定し,出現するメバルの数と体長を記録した.メバルが周年にわたり利用する生息場所は,沖より,岸よりの岩礁域,季節的に利用する生息場所はテトラポッド岸側,浮桟橋であった.沖より,岸よりの砂地,テトラポッド沖側は利用しないことが判明した. 生息場所の利用状況を,2ヶ月ごとに集計し,当歳魚の成長に伴う生息場所の変化を調べたところ,当歳魚は1-6月には岸よりの浅海域で観察されたが,沖よりの岩礁域にはほとんど出現しなかった.逆に7-12月には沖よりの岩礁域で多数観察されるが,岸よりの浅海域には出現しなかった.以上の結果から,当歳魚は当初岸よりの浅海域で生活するが,成長するにつれ岸から沖合へ向け生活場所を変化させることが明らかになった. 微細生息状況の調査はスキューバ潜水を用いて行い,水深,水温,成群状態,出現層,構造物,離底距離,底質の各項日について,体長別に出現したメバルを記録した.出現状況に体長による差があるかどうかを分散分析により解析し,以下の結果を得た.体長50mm以下の当歳魚では,藻場の表層域で群れを形成した.51-150mmの体長範囲のメバル(1-4歳)では群の大きさによって以下の2つに分けられた.5尾以下では海底近くで生活し,6尾以上では中層や底層で浮遊,または遊泳行動を行なっていた.151mm以上の個体(5歳以上)は,10m以浅の水域での出現が多く観察された. 以上本論文は,漁業上重要な資源であるメバルについての生活史に関する情報を総合的に解析したものであり,学術上,応用上貢献するところが少なくない.よって審査員一同は,本論文が博士(農学)論文として価値あるものと認めた. |