本質材料の強度や膨潤などはその接着強度に支配されており、その劣化に関しては非破壊試験による評価が重視される。たとえば集成材のラミナ間の接着部に関して接着面に直角(厚さ方向)と接着面を斜めにクロスする方向(幅方向)の超音波伝播時間を組み合せることによって、接着せん断強度をある程度推定できる。すなわち、接着部分の接着強さを支配する接着面積の大小を間接的に評価しており、欠こうの程度、接着されているかどうか区分できる。パーティクルボードやOSBのような点状に接着剤が存在する木質材料についてはその耐久性評価に厚さの変化(スプリングバック)や剥離強さが重視されることが多い。とくに水分の浸入によって生じる回復にはその接着点の破壊を伴うものが少なくない。すなわち単純な水分の出入による木質部の収縮、膨張による厚さ変化と接合部が破壊されて空隙を生じる厚さ変化による強度評価は大きく異なる。ボード類の耐水性の評価に用いられるスプリングバックはこの両者を含んでおり、剥離強さは接合点の数に直接関係していると考えられる。本論文は接着点の破壊に伴う変化を捉えるために超音波速度による評価方法を検討するとともに、スプリングバック(膨潤率)や剥離強さなどボードの強度発現機構との関連について考察を加えたものである。 木材中の超音波の伝播は木材実質を通じてなされ、空隙などが存在するとそこで損失する。損失しない波は空隙周辺を回り込むような伝播経路を経るので、見掛け上伝播速度の低下を示す。したがって繊維同志の接点数が伝播距離を支配し、しかも木材中の伝播速度は木材の繊維方向がもっとも大きいので、繊維の配列が大きな影響をもつ。このような実験的な事実をもとにパーティクルボードおよびOSBなどの木質複合材料の剥離強さ、膨潤率と超音波速度の関係を求め、その強度を発現していると思われる接着点とその伝播経路についての考察を行った。 パーティクルボード(PB)および構造用パネル(OSB)を全乾後に超音波速度の計測をして初期値とし、煮沸水中に浸漬する経過時間によって劣化処理の程度を変化させた後、再び全乾にして剥離強さ、スプリングバックと超音波速度の計測をした。この間にボードは接着点が破壊され、スプリングバックや剥離強さの低下が生じる。 劣化処理時間と膨潤率の関係では構造材料に用いられる耐水性に富むフェノール系接着剤を用いたOSBと、耐水性を多く期待していないユリア・メラミン系接着剤によるPBで膨潤に顕著な差異が認められる。スプリングバックと剥離強さとの関係では、スプリングバックの増加は剥離強さの低下を生じさせる。とくにPBは接着点の損傷の程度が両者の関係をよく反映していると推測される。一方OSBは処理回数に依存しておらず、損傷が進行しないある安定状態への収束がみられる。 超音波速度はボードの厚さ方向と長さ方向で異なる。OSBの長さ方向の超音波速度とスプリングバックとの相関はやや低く、厚さ方向でスプリングバックとの間にかなり関連がみられているのと差異がみられる。一方、PBは両方向ともスプリングバックの増加によって超音波速度の減少が認められる。OSBの長さ方向に速度差異がみられない理由としては構成するストランドの配向に関連しており、接着点の損傷が直接速度に関係していないことを示している。 長さ方向(接着面に平行)、厚さ方向(接着面に直交)の超音波速度と剥離強さには関係がみられるが、PBは両方向とも超音波速度の低下が剥離強さの減少に連動している。一方OSBは厚さ方向の超音波速度の低下は剥離強さの減少を反映しているが、長さ方向では速度の変化が顕著でない。このことは厚さ方向の伝播速度と剥離強さが接着点の損傷を直接反映していることを示している。 実用的な意義として工場内における品質管理としては抜き取りによって剥離試験か行れてきたが、大量あるいは現場的な管理として不便であった。それに対して以上の結果は超音波試験は非破壊試験として簡易であり、実務面での優位さが発揮される可能性が大きいことを示している。 以上本論文はボードの強度発現機構について超音波速度による評価を明らかにするとともに、生産現場における非破壊試験としての展開を明らかにしたものであり、学術上、応用上貢献するところが大である。よって審査委員一同は博士(農学)の学位を授与する価値があると認めた。 |