本研究は本邦例の腸管のTリンパ腫において、その細胞学的な特徴や臨床病理像をとらえるために、20例の腸管Tリンパ腫について肉眼像や基礎疾患の検討、酵素抗体法を用いた免疫組織化学的検討、パラフィン切片から採取したDNAによるPCR法を用いたT細胞受容体遺伝子再構成の検討、EBER-1を用いたin situ hybridizationによるEBウイルスの関与生についての検討、予後についての検討を行い以下の結果を得た。 1.腸管Tリンパ腫の肉眼像は対照症例の腸管Bリンパ腫に比べ、潰瘍性病変やび漫浸潤性病変を示すものが多く、隆起性病変を示す例は少なかった。また、Bリンパ腫は圧排性の増殖形態を示す境界明瞭な病変が多いのに対し、Tリンパ腫はび漫性の増殖を示す境界不明瞭なものが多く、腸管のTリンパ腫とBリンパ腫には肉眼像に差があることが示された。また、リンパ腫の発生が炎症性腸疾患に関連する可能性が示された。 2.免疫組織化学的にはCD8陽性の例は20例中10例、CD56陽性の例は20例中7例、細胞障害性顆粒であるGranzyme Bは15例が陽性、TIA-1は14例が陽性であった。細胞障害性顆粒が陽性の症例は他の節性、節外性リンパ腫では少なく、細胞障害性顆粒陽性の症例が多いことは腸管Tリンパ腫の特徴であることが示された。 3.PCR法を用いたT細胞受容体遺伝子再構成は 鎖が陽性の症例は20例中12例、 鎖が陽性の症例は20例中10例であった。これらの結果を併せ、腸管Tリンパ腫の細胞学的な特徴を検討した結果、Cytotoxic T-lymphocyte由来のリンパ腫、NK-like Tリンパ腫、NKリンパ腫の順に多く、本邦例の特徴としてNK関連のリンパ腫が多いことが示された。また、腸管Tリンパ腫のマーカーとしてCD8、CD56、Granzyme B、TIA-1が有用であることが示された。 4.予後については腸管Tリンパ腫はBリンパ腫に比べ、有意に悪かった。Tリンパ腫は治療等の臨床的な条件が一定ではなかったが、化学療法、手術療法はいずれも無効な例が多く予後因子への関与は低いものと思われた。また、Tリンパ腫、Bリンパ腫ともにステージ毎の予後の差ははっきりしなかった。腸管リンパ腫の予後はステージには関与せず、Tリンパ腫の予後がBリンパ腫に比べ悪いことが示された。 5.EBウイルスの感染はNKリンパ腫の3例中3例、NK-like Tリンパ腫の4例中2例、残りの13例中3例で認められ、EBウイルスの関与は主としてNK関連リンパ腫においてみられることが示された。 以上、本論文は本邦における腸管Tリンパ腫の総合的な全体像を明らかにした。本研究はこれまで未知に等しかった腸管Tリンパ腫について細胞学的、遺伝学的、臨床病理学的特徴を明らかにした点で今後のTリンパ腫の研究に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |