本研究はCD4分子を細胞表面上に発現せず血中に可溶性CD4(sCD4)を持つ変異マウス(CD4Lマウス)についての解析を試みたものであり、CD4Lマウスの免疫機能に対するsCD4の影響について検討を行っており、下記の結果を得ている。 1.C57BL/6マウスと交配し、C57BL/6バックグラウンドを持つCD4Lマウスを作製し、C57BL/6マウス由来のCD4ノックアウト(CD4KO)マウスとこのCD4Lマウスの免疫反応を比較した。 2.細胞性免疫反応の指標であるmBSAに対する遅延型過敏反応(DTH反応)を調べた結果,CD4LマウスのDTH反応は野生型マウスの反応に比べて著しく減少していた。CD4KOマウスでは正常マウスと同程度の反応が見られた。一方、CD4Lマウスリンパ節細胞のmBSAに対するIFN 産生量は野生型マウスの産生量より著しく低下していた。CD4KOマウスは野生型マウスとほぼ同程度のIFN 産生量が見られた。 3.抗CD4抗体を投与してsCD4を除去することによって、CD4LマウスのDTH反応は回復した。その上に、抗IFN 抗体投与は抗CD4抗体によって回復したDTH反応を著しく減弱させた。抗CD4抗体投与によってDTH反応の回復を見た実験と同じスケジュールによって抗CD4抗体を投与したCD4LマウスのIFN 産生量は明かに増加した。 4.sCD4を分泌する細胞を含んでいるdiffusion chamberを移植したCD4KOマウスのDTH反応は明らかに抑制された。一方、sCD4を分泌する細胞を含むdiffusion chamberを移植したCD4KOマウスのリンパ節細胞のIFN 産生量は著しく減少していることがわかった。 5.CD4LマウスのsCD4はMHCクラスIIに結合することがFACS解析によって示された。このことはsCD4がMHCクラスIIに結合することよってdouble negative T細胞,CD8T細胞やNKT細胞の活性化を抑制する可能性が考えられる。 以上、CD4LマウスではsCD4によってDTH反応が抑制されていることが明らかになった。さらに、CD4KOマウス及びCD4Lマウスのリンパ節細胞のIFN 産生量はDTH反応の程度と相関していることがわかった。CD4LマウスのDTH反応低下はsCD4によるIFN 産生量の減少に起因することを示している。エイズやleishmaniasisのような感染症、リューマチ性関節炎等の疾患では、sCD4分子が分泌されて血清中に存在することが知られているが、そのsCD4の機能については不明である。本研究におけるCD4LマウスはsCD4によるDTH反応の抑制を明かにするモデルマウスになる可能性を示しており、進行期エイズ患者におけるのDTH反応低下のメカニズムの一つを解明に貢献を成すと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |