本研究は最近の免役学的方法を用いて有害物質を取扱作業者特有の免役学的影響を明らかにするため、フローサイトメトリー(免疫学的測定機械)を利用して血液の中のリンパ球サブセットを測定し、水銀及びマンガン暴露が血液中のT、B細胞分画及びナチュラルキラー(NK)細胞分画に及ぼす影響と血清免疫グロブリンの変化を検討したものであり、下記の結果を得ている。 1.水銀暴露群ではCD4+CD45RA+T細胞と総CD4+T細胞分画数が対照群より有意に少なかった。リンパ球分画数および免疫グロブリン値と尿中水銀濃度との間で有意な相関関係は認められなかった。 2.マンガン暴露群ではCD4+CD45RO+T、総CD4+T及び総T(CD3+)細胞分画数ならびに血清IgG値が対照群より有意に少なかった。リンパ球分画数と免疫グロブリン値と血中マンガン濃度とは有意な相関関係は認められなかった。 3.水銀暴露作業者の末梢血中のリンパ球に対する主な標的細胞はCD4+CD45RA+(naive cell)T細胞と推定され、それに対し、マンガン暴露作業者の末梢血中のリンパ球に対する主な標的細胞はCD4+CD45RO+(memory cell)T細胞と推定された。 4.さらに総CD4+T細胞が水銀およびマンガン暴露作業者の両者において有意に低下していた。 以上、本論文は水銀への暴露はCD4+CD45RA+(naive cell)T細胞分画数を選択的に低下させ、マンガンへの暴露はCD4+CD45RO+(memory cell)T細胞分画数および血清グロブリンGを選択させることが年齢、性別および喫煙状況を調整した上でも示唆された。このことは有害物質のCD4+T細胞に対する影響は暴露物質の種類によって異なることを示唆している。以上、本研究は今まで十分に明らかにされていなかった有害物質に対する免疫系の変化の解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |