特発性間質性肺炎をはじめとする間質性肺炎は、従来、肺胞間質の線維化が主病変と考えられてきた。しかし、近年、肺胞間質だけでなく、肺胞内線維化の機序が余後を決定づける重要な病態として注目されつつある。肺胞内炎が引き起こされると、主に1型肺胞上皮細胞が損傷を受け脱落する。2型肺胞上皮細胞は増殖、遊走して障害により生じた間隙を修復する。この修復が不十分だと、活性化線維芽細胞が肺胞腔内に侵入し不可逆的な肺胞腔内線維化をひきおこす。線維芽細胞の侵入前に肺胞上皮障害を修復させることは有効な治療法と考えられる。 肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor:HGF)は、増殖促進因子としてのみならず、運動促進因子や形態形成因子としてその受容体であるc-Met蛋白と結合することにより肝細胞に限らず様々な上皮細胞に作用することが報告されている。肺においては、HGFはin vitroで肺胞2型上皮細胞のDNA合成を促進することが報告されている。また、間質性肺疾患患者において、気管支肺胞洗浄液及び血清中HGF濃度が上昇していることが報告されている。さらにbleomycinによるマウス肺障害において、HGFをbleomycin投与と同時、もしくは遅延性に腹腔内投与することにより、肺胞内線維化を抑制することが近年報告したが、完全な抑制効果を得るには至らなかった。急性肺障害時に受容体であるc-Met蛋白の発現抑制が指摘されており、2型肺胞上皮細胞上のc-Met蛋白の発現を増強することが重要であると考えられる。 そこで、まず、私は、各種サイトカインがA549肺胞2型上皮細胞c-MetmRNA発現に対しどのような影響をおよぼすかを調べるため、生理的濃度のIL-1 ,IL-1 ,IL-4,IL-8,IL-10,GM-CSF,PDGF,TNF ,TGF ,IFN により12時間刺激した後c-MetmRNAをNorthern blot法により解析した。IFN による刺激でのみc-MetmRNAの発現が明らかに増強された。このIFN によるc-MetmRNA増強効果が特異的なものでることを中和抗体による阻止実験で確認した。最適な刺激濃度を調べるため、IFN の刺激濃度10,30,100,300,1000U/mlと変化させて12時間刺激をおこなった。c-MetmRNA増強効果は300U/mlで最大に達した。300U/mlの濃度で刺激時間を変え、効果が最大となる刺激時間を検討したところ刺激後6時間から増強効果が出現し、12時間で最大となり、24時間まで続いた。 IFN の作用機序を解明するため、転写活性に与える影響について12時間の刺激後にNuclearrun-on assayをおこなった。c-met遺伝子の転写活性はIFN 刺激により明らかに上昇した。次にIFN がc-MetmRNAのstabilityに対して延長効果を持つかどうかを検討した。IFN により12時間刺激した後、10 g/mlのActinomycinDを加え、それ以後の転写活性を阻害して減衰していく過程を解析した。ActD添加後40、80、120分後にmRNAを抽出し、Northern blot法により解析した結果、IFN はc-MetmRNA stabiliyを増強させないことがわかった。 A549細胞をIFN (300U/ml)により24時間および48時間刺激した後Western blot法により解析した結果、IFN 刺激によりc-Met蛋白の発現も増強されることが確認された。 更にHGFの運動促進因子としての肺胞2型上皮細胞に対する作用について検討した。まずHGFが実際にA549細胞に対して運動促進作用をもつかどうかをBoyden chamber法により確認した。HGFにより有意にA549細胞の遊走活性が誘導された。中和抗体による阻止実験をおこない、HGFlngに対し1 gの中和抗体により有意な抑制効果が得られ、特異的な作用であることが示された。この作用がchemotaxisによるのかchemokinesisによるのかチェッカーボード解析で検討したところ、chemotaxis作用はあるがchemokinesis作用はないことが示された。 サイトカインによりA549細胞に24時間刺激を加えた後で、HGFによる遊走能が増強されるかを検討した。刺激にもちいたサイトカインの濃度はc-Met発現に与える影響を検討した場合とすべて同様であり、IFN 300U/mlによる刺激の場合のみ有意に遊走能が増強された。中和抗体による阻止実験をおこなったところ、抑制効果がみられ、IFN による特異的な効果であることが確認された。さらにIFN の濃度とHGFによるA549細胞遊走能増強効果の関係を検討したところ、300U/mlの濃度で最大の遊走能増強効果が得られることがわかった。また、他のサイトカインはIFN の作用に影響を与えなかった。 以上の結果はHGFの肺胞障害抑制作用に対してIFN を加えて投与することが有効であることを示唆するものであり、肺線維症に対する新たな治療法を提起するものであると考える。 |