本研究は自殺遺伝子を用いた膵癌遺伝子治療の有効性を検討するため、アデノウイルスベクターによる遺伝子導入を利用し、ヒト膵管癌細胞株でin vitroおよびin vivoの検討を行って、その治療効果を評価したものである。 本研究では自殺遺伝子の発現を腫瘍細胞に限定するために、膵癌症例で高頻度に高値を示す腫瘍マーカーCEAの転写調節領域を利用している。すなわちCEAプロモーターと自殺遺伝子である単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSVtk)を組み合わせて挿入した組換えアデノウイルス等を作成し、それらを用いた遺伝子導入により下記の結果を得ている。 1.in vitroでは、CEA産生細胞においてGCVに対する感受性が増強すること、およびbystander effectが認められることを確認した。 2.in vivoでは、マウス皮下腫瘍モデルを用いて検討し、アデノウイルスによるHSVtk遺伝子導入により腫瘍組織のCEA産生細胞にHSVtk蛋白の発現が認められることを確認した。 3.さらに皮下腫瘍へのHSVtk遺伝子導入とGCVのマウス腹腔内投与により腫瘍増殖抑制効果が認められることを確認した。 以上、本論文はCEAプロモーターによりHSVtk蛋白を発現するコンストラクトを組み込んだ組換えアデノウイルスとGCVを用いた治療手法を、in vitroまたin vivoにおいてCEA産生膵管癌細胞株を用いて、十分な殺細胞効果を与え得る手法であると評価した。本研究は膵癌における新しい治療手法となる可能性のある遺伝子治療の基礎的検討を行った論文として膵癌治療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 |