学位論文要旨



No 114527
著者(漢字) 高橋,強志
著者(英字)
著者(カナ) タカハシ,ツヨシ
標題(和) マウス白血病に対するB7分子を用いた免疫遺伝子治療
標題(洋)
報告番号 114527
報告番号 甲14527
学位授与日 1999.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第1447号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中畑,龍俊
 東京大学 教授 中原,一彦
 東京大学 教授 浅野,茂隆
 東京大学 助教授 北村,聖
 東京大学 講師 林,泰秀
内容要旨

 共刺激分子であるB7分子はT細胞の活性化に重要な役割を果たしている。すなわちT細胞はその抗原特異的活性化を行う上で、T細胞レセプターから刺激が入るとともに第二のシグナル(共刺激シグナル)がはいることが必要でありこのシグナルが無いとT細胞は無反応状態(アナジー)となってしまう。この、第二のシグナルの経路のうち最も重要と考えられているのがCD28を介した経路である。このCD28のリガンドがB7分子である。腫瘍細胞にB7分子を導入することにより腫瘍細胞を抗原提示細胞として機能させ、抗腫瘍効果をもつリンパ球を誘導できることが知られている。B7分子にはB7-1分子(CD80)とB7-2分子(CD86)がありどちらの分子がより効率よく抗腫瘍効果を誘導できるかに関してはまだよくわかっていない。筆者はB7分子を用いた癌の免疫遺伝子治療を臨床応用する目的でマウス白血病細胞を用いてB7分子の誘導する抗腫瘍効果について検討している。本研究ではマウス骨髄性白血病細胞株である8709細胞を用いてB7分子による抗腫瘍効果の確認及びB7-1分子とB7-2分子のどちらがより効果的に抗腫瘍効果を誘導できるかを検討した。B7-1分子を導入した8709/B7-1細胞、B7-2分子を導入した8709/B7-2細胞のどちらもが、同系マウスであるC3Hマウスに対し腫瘍原性を減弱させることがわかった。また、B7-1分子とB7-2分子の比較に関してはB7-1分子の方が効率よく抗腫瘍効果を誘導できるとした報告が多いが、筆者の系に関してはB7-2分子を導入した細胞の方が抗腫瘍効果が大きいことが観察された。この原因として筆者の系、及び報告されている系から考えて免疫原性がほとんどない細胞で起こる結果ではないかと予想している。またリンパ球の示す抗腫瘍効果のエフェクター相はCD8+T細胞が関与することが多いが筆者の系に関してはマウスin vivoリンパ球除去実験の結果から、この抗腫瘍効果はB7-1導入細胞、B7-2導入細胞ともにCD4+T細胞及びCD8+T細胞の両方がエフェクター細胞として働いていると考えられた。また、NK細胞の関与の可能性は低いと考えられた。ワクチン効果実験の結果は放射線照射したB7-1導入細胞、B7-2導入細胞ともに有効なワクチン効果は得られなかった。これに関しては更なる免疫原性増強の手段が必要と思われる。本研究では、白血病細胞にB7分子を導入することにより抗腫瘍効果が得られることが確認されたが加えてある条件下においてはB7-2分子の方が抗腫瘍効果がより効果的に誘導できる可能性を示した。今後、B7分子を免疫遺伝子治療として臨床応用する上でB7-1分子、B7-2分子を状況により適切に使い分けていくことが望まれる。

審査要旨

 本研究は抗腫瘍効果の誘導過程において重要な役割を果たしていると考えられているB7分子を用いた癌の免疫遺伝子治療の基礎実験をする目的で、マウス骨髄性白血病細胞株である8709細胞にB7-1分子(CD80)あるいはB7-2分子(CD86)を遺伝子導入し、B7分子による抗腫瘍効果の確認及びB7-1分子、B7-2分子のどちらがより強く抗腫瘍効果を誘導できるか検討したものであり、下記の結果を得ている。

 1.8709細胞は同系マウス(C3Hマウス)に腹腔内に移植可能であり腫瘍生育最小量は5x104個であった。また、8709細胞にB7-1分子を導入した8709/B7-1細胞、B7-2分子を導入した8709/B7-2細胞は、in vitro及びBalb/c nu/nuヌードマウスを用いたin vivoにおいて同様の増殖をする事が示された。

 2.8709/B7-1細胞、8709/B7-2細胞を同系マウスに接種するとどちらも腫瘍原性を減弱させることが示された。このうち8709/B7-2細胞を接種したマウスの方が生存期間、生存率とも高いことが示され、B7-1分子よりB7-2分子の方が抗腫瘍効果の誘導が強い場合がある事が示された。

 3.ここで得られた抗腫瘍効果は、8709/B7-1細胞、8709/B7-2細胞ともにCD4+T細胞及びCD8+T細胞の両方が必須であることが示された。NK細胞のこの系における抗腫瘍効果は主要なものではないことが示された。

 4.放射線照射した8709/B7-1細胞、8709/B7-2細胞ともに有効なワクチン効果は認められないことが示された。このことは必ずしもB7分子でワクチン効果が得られないと断定するものではなく、ワクチンの方法、他の免疫分子との組み合わせ等により効果が得られる可能性は残っている。

 以上、本論文はマウス骨髄性白血病8709細胞にB7-1分子、B7-2分子を導入しこれによる抗腫瘍効果の誘導を明らかにした。また、今までB7-1分子の方が抗腫瘍効果の誘導が強いとされる報告が多かったなかで、ある系においてはB7-2分子の方が抗腫瘍効果の誘導が強いことを示した。本研究は今後、ヒトに免疫遺伝子治療を行っていくうえで重要な基礎研究であると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/54075